飛び出したキラは発信した。
「こちら地球連合軍パイロット。フリーダムの件に関してラクス・クライン嬢との因果関係はなし。ザフト軍の隙を突いたものである!」
 通信を傍受したザフト艦の中で、イザークが叫んだ。
「あいつか。今度こそ撃ち落してやる!」
 だが肝心のデュエルは整備中だ。
 出撃できない。
 クルーゼが走り出そうとするイザークを制した。
「まあ待て。なるべく生かして捕らえろとのことだ。ジンに捕獲させる。」
「どうしてですか!?」
「もしかしたら改心するかもしれないから、か。」
 もちろん本気ではないが、イザークは逆上寸前だ。
 冗談でない。
 散々煮え湯を飲まされてきたのだ。
 投降してきたって、誰が仲間と認めるものか。

 キラがザフトのパイロットになることを心から望むのは、アスラン一人。
 単身、シャトルできたということは、その意志がないのはわかっているが。
(のこのこ出てきて。あのお人好し!)
 名目とはいえ婚約者。
 放っておけるわけがないのだ。
 パトリックに、
「お前には関係ない。」
 と言われても、黙っている気はない。
 キラがジンの大群から逃げ切れず、ザフト艦に捕虜として連れてこられたのは、間もなくのことである。

「どんな奴だ!パイロットは!」
 怒鳴りながらイザークが通路を走ってきた。
 たぶん自分より年下と思われるキラ。
「お前か…!?」
 あからさまに見下した表情の後、頭に血が上る。
「コーディネーターのくせに、ナチュラルどもに味方しやがって!」
 思わず掴みかかろうとするのを、アスランが間に入る。
「よせ!捕虜への暴行は違反だ。」
 キラが驚いた顔をする。
 が、何も口に出さなかった。
 アスランの名前を出せば、今度は彼が不利になる。
「どけよ、アスラン。邪魔するな!」
「今は我慢しろ。」
 はたしてイザークに言ったのか、キラに言ったのか。
 キラがザフト兵に連行されている後ろで、イザークの声が響く。
「いつもいつも、何で、そうなんだよ!」
 アスランは答えられなかった。

 フリーダムを取り戻せなかったのは、腹立たしいが、とりあえずパイロットがいなくなればいい。
 評議会の面々は、半分安堵する。
 アークエンジェルには、他の戦力は無きに等しいのだ。
「中々優秀なパイロットのようだが、始末するしかないだろう。」
 仮にキラから申し出があったところで、信用できない。
 戦場で寝返られるのは、真っ平御免である。
 キラの身柄はプラントに護送され次第、処分するつもりであった。