ナボコフおもちゃ箱 2006年
本 Vladimir Nabokov: AlphaBet in Color
Jean Holabirdによる「絵本」です。ナボコフはアルファベットに色を感じる「共感覚」の持ち主でした。アルファベットを発音する時に体験する「色聴現象」を自伝で説明しています。その記述を元に、各頁にひとつずつアルファベットがきれいな水彩で描かれ、ナボコフの言葉が添えられています。ナボコフの母にも同様の共感覚がありました。感じる色はそれぞれ違っていたそうですが、いくつかの文字の色が共通であったということです。インタビューによれば、妻となったヴェラも共感覚の持ち主で、当然のことながら(?)ふたりの間に生まれた息子ドミトリにも共感覚は遺伝しました。ナボコフとヴェラの感じる色はまったく違っていたそうですが、ドミトリがパープルと感じる色がナボコフにはピンク、ヴェラにはブルーであったとか。
Brian Boydによる前書きも楽しめます。
CD Ode: Meditation sur la majeste de Dieu; Union Pacific
(Meditation, majeste, 文中のBagazhからアクセントが抜けています)
(これも少々迷いながらですが)ナボコフの従弟Nicolas Nabokov (1903-1978)の作曲したバレエ音楽のCDです。Diaghilevのために作曲した二曲が収録されています。Union Pacificは、アメリカ初の大陸横断鉄道を敷いた鉄道会社で、このバレエは鉄道建設時の物語です。西部から東部に向けては中国系の移民が、東部から西部に向けてはアイルランド系の人たちが、競争で鉄道を敷設しました。彼らのための巡回酒場がこのバレエの主な舞台となっているそうです。曲のモチーフにアメリカの民謡や流行歌が使われています。バレエ・リュスとアメリカ大衆文化の組み合わせは、曲だけ聞いていると不思議な感じで、「ナボコフのアメリカ」、特にChateaubriandを意識していた『アーダ』につながるような気がします。
ニコラスはナボコフ以上に多言語話者(ロシア語、フランス語、英語、ドイツ語を同じレベルで流暢に話したそうです)で、ヨーロッパを中心に活躍しました。ロシアからの亡命者ともあまりつきあわず、ほとんど家族で固まっていたかのように思えるナボコフとは違って、ニコラスは社交的で交友関係も華やかだったようです。自伝 Bagazh (1975) には、ナボコフやその家族のことも出てきますが、ナボコフ自身の記述とは大幅に異なる内容も含まれています。ニコラスと親しかった哲学者Isaiah Berlinによれば、ニコラスは「夢想家」だったとか。「さるアメリカ人将軍の旅行カバンにはいってモスクワに密航した」というような荒唐無稽な話をし、しかも自分でその話を信じてしまっているような人だったそうです(この話はIan WellensのMusic on the Frontline(2002)に出てきます)。
ニコラスは、The Congress for Cultural Freedom (CCF)に所属し、国際音楽祭のオーガナイザーとしても有能だったそうです。日本でも1961年に"East-West Musical Encounter" という音楽祭を開いています。CCFは反共産主義の団体だったため、テーマに反して「東側」の音楽家は参加を許されませんでした。この時にはまだCIAとCCFとの関連は明らかになってはいませんでしたが、61年という年に反共産主義の芸術活動では、日本でも評判が悪いのは当然でしょうね。武満徹氏がこの音楽祭を批判した文章を書いています(フライング・ブックスさんのHPで読めます)。また、高橋悠治氏も「草月アートセンターの頃」でこの音楽祭について書いています。
オンラインビデオ Bernard Pivotによるインタビュー
Search欄に"Nabokov"を入れてください
フランスのTV番組APOSTROPHESにナボコフが出演した1975年の映像です。『ロリータ』『アーダ』、そして言葉や文学について話しています。子供の頃から日常的に使っていただけあって、さすがにナボコフのフランス語は流暢ですね。例によって前もって回答を用意してきた様子ですが、英語で話す時よりはるかにリラックスしているようです。インタビューをお読みになりたい方は、メーリングリスト
Nabokv−Lのアーカイヴで"Fw: Re: Fw: Fw: Apostrophes Nabokov"(2004年4月23日投稿)を検索してみてください。インタビューの英訳(部分)はビデオの下のコメント欄に出ています。
*その後この映像は見られなくなりました。「違法行為のため」ということですが、やはり著作権・肖像権の問題でしょうか。残念。
*この番組をリアルタイムでご覧になった松浦寿輝氏のエッセイの紹介はこちらです。
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