その世界のかたつむりは、七色のどれかでした。
でも、まれまれに、銀色とか金色のかたつむりが出現するのです。
青色のかたつむりがいました。銀色とか金色になることを夢見て、たくさんの方法を試してみましたが、どれもダメでした。
赤色のかたつむりがお友達でいました。
ある日、いつものようにおしゃべりをしていると、陽射しのかげんなのでしょうか、お友達の赤色が妖しい輝き方を始めたのです。
(ああ、金色になりそう・・・)
青色のかたつむりは気づいたのです。
お友達は言います。
「どうしたの? 僕、なんか変かい」
「変てこと無いけどさ。君は金色のかたつむりって知ってるかい」
「もちろん。僕のご先祖に一匹現われたっていうんだよ。僕もなんだかこのごろ、色が変わることがあるような、無いような、そんな気がするんだ」
「そう。・・・でも、惜しかったね。君、色が変わりそうだけど、それ、汚い芋虫色だ。残念だったね」
「・・・そうかあ。・・・な〜んだ」
と言い終わらないうちに、赤色のかたつむりは、はっきりと、芋虫色になったのでした。
(ああ、なんだ。・・・さっきのは、僕の思い違いか)
「僕、芋虫じゃないのに、芋虫色。ね、どうしたらいい」
「知らないよ。君の色なんだから、君が責任とれば」
青色のかたつむりは歳をとりました。
もう、金色だとか、銀色だとか、若いころの夢は忘れていました。
黄色いかたつむりがいました。
昔話などしてあげていたのですが、またどうしたわけか、はっぱにたまった水たまりのさざ波が映えたのでしょうか、黄色いかたつむりが、銀色に輝き出すように見えたのです。
「あれ、あたい、変かな」
「いや、何、ちょっと、そのままでいてごらん・・・」
もう、いじわるをするつもりはありませんでした。
どうして、昔のあのとき、たとえ自分が変色するのではなくても、お友達の金色を喜べなかったのだろう。ふと思い出して、悔やむことまであったのです。
「あたいのひいおばあさん、銀色のかたつむりだったんよ。このごろなんか、色が変わっていくみたい気がするん。・・・ね、どう、おじいちゃん」
少しすると、はっきり、わかりました。それは、銀色ではなく、ナメクジ色に変わろうとしていたのです。
「いいこだね。これからきっと、良い色に変わると思うよ。それが銀色だとか金色だとか、そういう色じゃなくてもさ、別にかまわないよね。ふつうの色でもさ」
「うん。いいんよ。・・・でも、でも、あたい、・・・銀色になれたら素敵だあ。あこがれちゃうん」
「じゃあ、少し目をつむっていてごらん。もう一度よく見てあげる」
「ねえ、どう、何色なん」
「うう、惜しいなあ。ちょっと輝きだしてるよ」
「ええん、どこが惜しいん。どうしたらいいん」
「貝殻の奥で、ぎゅって力を入れてごらん。外側にはりがでるってきいたことある」
「した、ぎゅってした。ねえ」
「この水たまりでちょっと泳いでごらん。そう、そう」
・・・
今まで、こうしたらいいんじゃないかと、青いかたつむりが勉強したことを、思い出せるだけ、黄色いかたつむりに教えていったのでした。
でも、なんか輝きだしたようにも見えたのですが、やっぱりナメクジ色でした。
「ね、どうなん」
「よし、まだ目をつむっているね。・・・君は、今、銀色になったよ。もうほとんど銀色だよ。本当だよ。でも目を開けちゃうと、そこのお肉の関係で色が落ちちゃうんだ。今、ほかの子たちを呼んでくるからね、待っててね」
・・・
いっときでも夢が見られるなら、そう思ったのです。一度は銀色になったことのあるナメクジ色なら、きっと自信を持って生きていけるはず、と知恵を出したのでした。
青いかたつむりは、その子たちにごっこ遊びだからねと言い含めました。少しの間だけお芝居をしてもらうことになりました。
「うわ、きれいだ。ぎんぎんぎん色〜」
「見違えちゃったね。素敵だよ」
みんなが口々にほめました。
黄色からナメクジ色になったかたつむりは、飛び跳ねて喜びました。
そして、もう我慢できなくなって、目を開けてしまいました。
ちょうどそのとき、雲に隠れていたお日様が、さあーと照って、ナメクジ色をひとなでしましたところ、美しい銀色になりました。
みんなはびっくりして、
「ほんとだ。ほんとにぎんいろになった」
そう騒ぎながら、大人たちを呼びににょこにょこ駆け出していきました。
「青いおじいちゃん、ありがとう。もう目を開けてるけど、銀色だね」
「・・・ほんとうだ。銀色だよ」
こうごうしいほどの輝きでした。意識が遠くなるほどでした。
「ありがとう。おじいちゃんが親切に教えてくれたから、おかげで夢がかなったんよ」
青いおじいちゃんかたつむりは、ゆっくり首を振りながら、涙が流れて流れて、溶けてゆきました。
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