ねっとCafe/nc:小説工房談話室


タイトル  :『宿題』 結
発言者   :和香
発言日付  :1998-08-11 05:56
発言番号  :178 ( 最大発言番号 :278 )

[次の発言|前の発言|最後の発言|先頭の発言|発言一覧|会議室一覧]


宿 題

お題 和香



 夏のある休日。
 コウタロウは前々から気になっていた家の近くの森へ冒険に行くことを決めた。
 親には内緒の、小さな冒険だ。
 お気に入りのスニーカーを履き、リュックにはお菓子とタオル、肩から麦茶の入ったボトルを下げた。
 いつもの野球帽をかぶり、こっそり家を出た。
 テレビゲームなんかよりずっとおもしろいことが待っている気がした。
 机の上には算数の宿題が放り出したままだ。
 お母さんに見つからないように、コウタロウはこっそり家を出た。

起 なのはなさん


 汗が流れて、何度も休憩した。
 樹ばかりたくさんあって、ぎゃあぎゃあ、変な鳥が鳴いて、誰もいない。
 もう帰ろうと何度も思った。
 たまに自動車が通るらしい道だったけど、でこぼこが大きいと歩きづらい。
 青空のまだら模様は、お星さまぐらいになっていた。
 「ねえ、どこいくの」
 跳び上がって、まわりを見回してしまった。
 太い幹の陰から、知らないお姉さんが出てきた。

承 和香


 目の前でプラチナブロンドの髪が少しそよぐ。
 知らないお姉さん?
 ううん…少し違う、半分は…半分は知っているような気がする。
 目の前にいるのはお父さんと知り合う前のお母さんそのものだったのだから。
 コウタロウもアルバムの中でしか知らない『まだ歩けた頃のお母さん』…。

 「…あの頃はまだクッキーも焼けなくてね…」
 聞き慣れた声がどこからか湧き出し続いて時間が止まる…。
 「…大好きなお爺ちゃんに!って森の渓流に玉石を拾いにいったっけ…」
 昨日のお母さんの話の断片だ。
 「…その日にお母さんは大切なペンダントと少しの自由を失って…」
 お母さんはそう言って車椅子の肘掛けを大切そうに撫でて微笑みながらこう続けたんだ。
 「…その代わりにお父さんに出会えたの…」
 ブロンドの髪が夕日に透けてすごく綺麗に霞む。
 「お爺ちゃんからもらったペンダントは、もう探しには行けないね…」
 そして西日の射す窓辺を見てお母さんは言った。
 「…あの森には私の大切な思い出が暮らしているの…」
 カーテンが西日を遮って広がる。
 「…お爺ちゃんからもらったペンダントやお父さんとの出会い、それにあの頃のお母さん自身も…」
 夏の気まぐれな風がコウタロウの耳をくすぐる、時間は動き出していた。

 「ねえ、どこいくの」
 跳び上がって、まわりを見回してしまった。
 太い幹の陰から、知らないお姉さんが出てきた。
 目の前で肩まで流れる黒髪がそよぐ。

転 KINZOKUさん


 話を聞き終えると、お姉さんは言った。
 「一緒にさがしてあげようか。渓流なら心あたりあるよ」
 「え、いいの。いまから?」
 「いいよう。いまからよう」
 「お姉さんは、宿題とか、大丈夫なの」
 「え、宿題? うーんとね、忘れる、こと。あたしのは」

  さ、いくぞー

 「忘れるって。 … 忘れたら、いけないんだよ」
 さっき飲ませてあげたボトルを手に、一気にかけあがっていく。
 お姉さんの影絵がてまねきする。
 しょうがない、コウタロウは追いかけた。

結 和香











☆ 『宿題』の感想 ☆

 なのはなさん。
 KINZOKUさん。
 どうもお疲れさまでした。

 何人かでリレー小説、ということで、あまりに特殊なテーマだと、という配慮から、誰にでもあった子供時代を、なのはなさんは選ばれたのだと思います。私の方がだいぶ、その時代から遠いでしょうから、う、これはつらいか、というのが最初の勘でした。
 でも終わってみると、やっぱり、気分いいですね。あのころの話は。

 起の章で、「こっそり家を出た」が繰り返しになっていましたので、私も、承の章で、最初の四行に繰り返しの匂いをつけてみました。「知らないお姉さん」になのはなさんは驚かれたみたいでしたが、そろそろ会話が欲しいなあと思ったのです。

 KINZOKUさんの登場とその内容には、私がびっくりしました。
 先日も書きましたが、多少は存じ上げているつもりだったのです。でも、お名前の「金属」さんから受ける印象が大きすぎたのでしょう、こんなにこまやかな、と思いました。
 リレー小説は、前の人の文章の味をなるべくふまえて、乱れなく、と考えがちですが、KINZOKUさんのように、思いもよらない飛躍というのが、作品に元気を与えてくれることを実感しました。ありがとうございます。私も勉強させていただきました。
 それから、KINZOKUさんの展開のおかげで、起の章にあった「親には内緒の」という理由に別の意味が重なってきて、(お母さんのために。でも、照れくさいような)、なんかなつかしい気持ちを思い出しました。(今の私にはかけらも残っていないかも ^^;)
 ただ、やや盛りだくさんなところがあって、なのはなさんはそれを全部生かし切ろうと苦労されたのでは、と思いました。

 私の結の章は、解決やエンドマークで終わらせるものではありませんので、なのはなさんは、ずるいよう、などと感じられるかもしれません。尻切れのような気がして、KINZOKUさんもご不満かもしれません。でも、こういうのもあり。と、私は思いました。いかがでしょう?
 暑い夏の日の、とおい記憶。 ・・・誰の心の中にもあるそれに、あとはおまかせすることにしました。

 なのはなさん。KINZOKUさん。
 せっかく創ったのですから、是非ご感想を。内容のことでも、創るときの苦労話でも。
 ROMのみなさんも。
 一言でも結構ですから、どうぞ。 ( ^ − ^ )





 では、引き続きということで、4章小説、第二作に入りましょうか。
 でも、まあ、ゆっくりのんびり行きましょう。
 飛び入りの方を、誘い込むスキと考えれば、十日間ぎりぎりまで待っていただけてもいいのですし。
 (↑ と言っておきながら、とりあえずと思っても、書いちゃうと、それを無駄にしたくなくなりますね。今回、待てずに、発表しちゃいました。私みたいな貧乏性はとくにでしょうが)

 ではでは、お題をどうぞ!

> なのはなさん

> 飛び入りの方


[次の発言|前の発言|最後の発言|先頭の発言|発言一覧|会議室一覧]