「シュウからお前への伝言を頼まれててよ」
「シュウから?」
「おう。急ぎの仕事をお前の部屋に用意しておくから、今日明日中に片付けておけってよ」
「はぁっ?!」
言い切る前に、フリックは彼にしては珍しい素っ頓狂な声を上げた。
その過剰な反応に、「やばい、嘘がばれたか」と内心で大いに焦ったが、そうではなかったらしい。
彼は手にしてた本を慌てた仕草で本棚に仕舞い、足早に部屋から出て行ってしまった。
ビクトールに視線一つ向けずに。
「えっ………あっ、おいっ!」
行動の速さに呆気にとられて反応が送れたビクトールは、慌てて彼の後を追いかける。そんなビクトールに、フリックは前を見たままチラリとも振り返らずに怒鳴り声を返してきた。
「そう言うことはもっと早く言いに来いっ! 期日までに間に合わなくなったらどうするつもりだっ!」
「えっ…………いや――――」
「この時期に急ぎって事は、あの件か? でもアレはまだ余裕があったはずだからな。何か他に不測の事態が出てきたって事か…………だとしたら、可能性があるのはあの件か………」
ビクトールには分からないことをブツブツと呟きながらも足を止めるどころか早めていくフリックには色々思い当たることがあるらしい。かなり本気で慌てている。
これで部屋に戻った後、「実は嘘でした! あはははは!」などと言ったら、どうなるの事だろうか。半殺しどころでは無い目に会わせられる気がするのだが。それは気のせいだろうか。
いや、気のせいではないだろう。
「下手すりゃ、命がねーかもしれねぇな………」
フリックの後を無言で追い続けながら、ブルリと身体を震わせた。
そして、考える。
その最悪の事態を避けるには、どうするべきだろうかと。
考えている間にフリックが自室の前まで辿り着き、ドアノブに手をかけてしまった。
彼が室内に入り、そこに何もないことを知るのはもうすぐ目の前だ。
自分の命も、風前の灯火状態にあると言うことだ。
ビクトールの顔は、これ以上ないくらいに引きつった。
背中には冷たい汗がしたたり落ちる。
【速攻で謝る】 【羽交い締めにする】 【ベッドに押し倒す】