1,勝ったら
囚われの姫君は、肩口を押さえたまま、同じ場所でうずくまっていた。改めて照会する。バイオドール開発責任者、ウィリアム・ケストナーの娘、アイリーン・ケストナーに間違いない。
>左腕上部に裂傷あり。必要処置レベル2
ドロシィが、ご丁寧に傷口をズームしてくれる。見たところ、至近弾が通っただけで、命中はしていないようだ。
「アイリーン・ケストナーだな。」
「いや、やめて・・・こないで・・・」
友軍機を破壊するというのは、たとえイカレた機械人形といえど、気持ちの良いものではない。そのせいか、顔も声も、すこしトゲがあったのかも知れない。ゆっくりと息を吐く。この娘は被害者なんだ。ぎこちない、作り笑いの練習をしてから、コクピットハッチを開ける。
「落ち着いて、救出部隊のモノです。さあ、こちらへ。傷の手当をしますから」
「やめて、殺さないで・・・」
作り笑いは、あまり効果が無かったようだ。両手をあげたまま、アイリーン・ケストナーに近寄る。
「大丈夫。何もしないよ、もう大丈夫だから」
アイリーンは、顔を伏せたまま、肩を揺らしている。湿っぽい空気は苦手だ。
「すまないが、手を下ろしても良いかな。これじゃ、俺の方が投降してるみたいだ」
捨て身のネタのウケはイマイチだったが、空気は少しだけ和らいだようだ。傷口を見せるように言ったが、チラリとこちらを見ただけで、反応はない。が、拒絶の意志もないようだ。
「出血はあるが、かすめただけだ。骨にも異常はない。医者じゃないから、傷痕が残るかどうかはまでは分からないがね。ちょっとしみるよ」
とは言え、皮膚のしたにある脂肪の房が見えている。筋肉に損傷が無いことは救いだが、お世辞にも軽傷とは言えない。縫うなり、プラスターで癒着させるなりして、傷口を閉ざさなければ、破傷風の危険性がある。
救急キットの消毒薬を吹き付ける。アイリーンは身体を強ばらせて、痛みに耐えている。殺菌が終わるのを見計らって、消毒液をぬぐい取り、プラスターを張り付ける。医療用の人造皮膚であるプラスターは、あっという間に皮膚にとけ込んで、傷口をふさぐ。旧世紀の陸軍では、自分で傷口を縫合したり、ホチキスで留めたりしたらしいが…今は、良い時代だ。
アイリーンは、まだ身体を強ばらせている。
「まだ、痛むかい?」
「父さん・・・あたし・・・あたし・・・」
悲しみで満たされた涙の池に沈む、傷ついた白鳥に、俺は何が出来るだろう。
1,アイリーンを抱きしめる
2,泣きやむのをひたすら待つ
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