1,指輪を預かっているならば


あれこれひっくり返しながら、眺めているウチに、手を滑らし、本を落としてしまう。やれやれと思いながら、本を拾おうとしたとき、服の裾から、ドックタグがこぼれ落ちる。

それと、もう一つ。アイリーンから預かった幸運の指輪。ケストナー家に伝わる伝統。本のタイトルはソロモン王の指輪。馬鹿げている。と思いながら、指輪を取りだし、ブックバンド中央の突起にはめ込む。

指輪は、ハンドルに変わった。滑りやすい指輪に苛立ちながら、ゆっくりと回転させる。本の拘束衣は、回転に合わせて、その機能を失っていく。

ソロモン王の指輪という仰々しいタイトルの本は、ケストナー博士の日記だった。丹念に読むには、ページ数が多すぎる。パラパラと斜め読みをしてみるが、研究者の日記とはこういうモノなのだろうか?。日記と言うよりも、研究内容のメモ書きに近い。数式が少ないのが救いだが、専門用語が多く、専門の人間に解読を頼む必要がありそうだ。

見知った名前に、手が止まる。クルスト博士の技術により、大幅な進歩を見せたらしい。なにがかは書いていない。俺が、特務部隊へ入るきっかけとなったクルスト博士が、短いながらも、ここで何かしらの研究成果を出した。世界は狭いものだ。それとも、これが因縁というものなのだろうか?。

内容の精査は捨てて、最後の、つまり最新のページを捜す。

クレイマン所長が、軍の上層部と通じていたのは間違いないようだ。その証拠を掴んだとある。しかし、それはさして問題がない。ここは、そもそも軍の出資で建てられた施設で、ここの所員も、フォーロンバス重工から出向の形で勤務し、立場的には軍属扱いのハズだ。

日記の核心は、クレイマン所長が、どうやら、ジェネラル・オーガニックの息がかかっていたらしい事だろう。いくら、軍機関への出向とは言え、ライバル企業のジェネラル・オーガニックの息のかかった人間が所長。研究のハードウェアは、ダラス・マクダネルの製品。ダラス・マクダネルは、軍が出資して作った会社のようなものだ。

おぼろげながら、全貌が見えてくる。バイオドールの基礎研究が終了したため、邪魔なフォーロンバスを潰しにかかった。そう言う事だろうか…

そう問いかけてみても、フォトスタンド中のケストナー博士は、アイリーンとともに、静かな笑みを浮かべたまま、佇んでいる。

「父さんは…人間よりも優れたものを生み出したかっただけよ…」

アイリーンは、フォトスタンドの額をなぞりながら、視線はそこにはなく、どこか遠くを見ているようだ。

「戦闘機械になんかしたかったワケじゃないのよ…」

アイリーンの瞳から涙がこぼれ落ちる。静かな部屋に、小さな嗚咽だけがこだまする。オレの胸で泣くアイリーンに、かける言葉なども無く、ただ抱きしめるしかなかった。

アイリーンのこぼれ落ちる涙が胸を締め付け、その痛みの分だけ、愛おしさに変わる。平和な時代に出会えていたら、どれほど良かったろうか?。

ケストナー博士の日記を、アイテム欄に記入する事


1,改めて所長室を調べる。
2,先へ進む



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