1,研究区画でソーン・オーガンと出会っている。


ついさっきの出来事なのに、もう、遠い昔の出来事のように思える。研究区画で確かに俺たちは、ソーンに助けられた。

「我々は、彼に助けられました」
意図せずに漏れた呟きに、少佐の眉が歪む。驚きと僅かな恐怖が入り交じった視線。

「…しかし見ろ。所員は皆殺しだ…」

お前らと言われて、後ろにいるのが、カイムではなく、アイリーンである事を思い出す。
「紹介が遅れました、ケストナー博士の娘のアイリーン・ケストナーです。保護しました。」

マーコス少佐はアイリーンを一瞥さえすることなく、どこか遠くを見つめたまま呟き続ける。その呟きは、俺たちに伝えるためでなく、自分に対して確認を取っているかのように感じられる。

「この作戦はな…ドール対ドール。フォーロンバス対ジェネラルオーガニックの戦いなんだよ。オレたちゃ、添え物さ…メカドールと同じ、消耗品だよ…」

重い、あまりに重い空気が、俺たちを押しつける。フォーロンバスとジェネラルオーガニック、そしてダラス・マクダネルのメカドール。標的はドールではなく、俺たちがキツネ狩りのキツネだったというのか…その空気の重さに、抗って最初に口を開いたのはマーコス少佐だった。

「こんな作戦は、もう沢山だ…オレはもう降りるよ…お前らも、せいぜい生き延びろよ…」
少佐は、機体をエレベータに向かわせる。聞きたい事がありすぎて、言葉にならない。

「待って下さい、少佐っ」

ようやく発した言葉にも、JUNの歩みは止まらない。追いすがるように、ドロシィの足を進める。
「一つ…一つだけ、聞かせて下さい」
返答は無い。だが、沈黙は了承と同じだ。その証拠に、歩みが止まる。

「少佐は、なぜ、ソーンがバイオドールと分かったんですか?」
JUNの歩みが止まる。だがそれはオレの質問に答えるためじゃない。エレベータに乗り込み、こちらを振り向いたからだ。通信モニターに映る少佐の顔は、苦渋に満ちた顔にも、全てから解放されたような顔にも見える。

「知ってたのさ、最初からな…知った上で、預かり…知った上でこの作戦に参加した…オレも、アイツもな…」

俺たちに、エレベーターに乗る意志がない事を見て取ると、少佐はシャッターを閉める。エレベーターのドアが閉じただけなのに、数十qも離れてしまったように感じられる。事実、目の前にいるはずなのに、通信モニターの画像は乱れていた。

「将軍に呼び出されて、『特務部隊でもっとも優秀な君の部隊に預ける。』なんて言われて断れるか?。ソーンは、優秀だったよ。実戦こそ無かったが、強行偵察でも絵に描いたような、見事な模範行動だったよ」

少佐はエレベーターを起動させた。モーターが、うんうんと唸り、エレベーターをゆっくりと持ち上げていく。

「本当に絵に描いたような動きだったよ。教本に載せたいような動きだったよ…忘れるな、ドロシィ2。奴らはまだ憶えたてで、応用がきかねぇ。戦場に型なんてねぇ。そいつを教えてやれ。お前なら、出来るはずだ。」

俺の知っている、歴戦の勇者パイク・D・マーコス少佐の覇気に満ちた顔がそこにあった。思わず、新兵のような返事を返す。マーコス少佐の笑み。侮蔑とも、嘲笑とも、羨望ともとれる複雑な薄笑い。

「いや、お前にしか、出来ないのかもな」

小さな囁きを残し、英雄は、臆病者に転落していった。

その臆病者の言葉とエレベーターのうなるような重低音が、大きく激しく頭蓋骨に反響し、脳を直接揺さぶる。

ソーンが、バイオドール…それを知ってマーコス少佐はこの作戦に参加した。この作戦の真意を知った上で。ならば、マーコスは、部下を売ったも同然じゃないか。タコやカミカゼは、奴に殺されたも同然だ。

マーコスは言った。オレもアイツも知っている。アイツとは…ソーンか?。それとも、もう1人の実戦部隊の指揮官を指すのか…トーマス・アレード少佐。オレたちの指揮官。話の分かるアニキ、目の行き届く父親。指揮官としてこれ以上ない程の人。

「アレード少佐…あなたも知っていたのですか?」

呆然と呟くオレを、アイリーンが優しく包み込む。いまは、その温もりに甘えよう。そして、考えよう、これからの事を。

チェック:「マーコスの助言」としてシートに記録すること

1,ともかく、保安要員室を確認する。
2.マーコスに賛同し、エレベーターに乗る。
3,奥に進む



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