前田ジョン(ある人は犬の名前みたいだといってたが)著『design by numbers』をネットで購入してから一度も開けていなかったが、ようやく暇ができてきたので、パラパラページを繰り始める。
これは菅俊一というコンピューティング・デザインで音楽なんかをやっている慶應大生のページで話題になってたのだけれど、その趣旨はデジタル・メディアとかコンピュータの本質を簡単なグラフィック・プログラミング・ソフトを教材に使って学んでいく、というものだそうだ。
具体的なレッスンが大半を占めているということもあって、冒頭の部分だけでも著者の考えというのは、ある程度理解できると思う。そこには三つのポイントがあると思う。つまり、直感的な手で紙とペンを使ったデザインと、事前の明確なイメージが不可欠の非直感的なコンピューティングによるデザインは全く違う、ということ。次に、ソフトウェアの能力によって、これまでの職人的な努力によって可能となっていた高度な技術は知識の問題に移し替えられた、ということ。最後に、これらの作品の多くはコンピュータが体裁を整えてくれたに過ぎない安易なものが多いが、プログラミング・知識の鍛錬により「デジタル・メディアの核心を具現化」したデジタル・アートが可能であり、本書はそのガイドとなりたいということ。
菅という若者がこの本を話題にするのは、専攻と本の内容が重なっている最もな理由からだろう。たとえば彼らの音楽制作の方法論とは、音を物理的状態として言語的に記述していく、シンセイサイズの方法を基礎としたdspによるコンピュータ・プログラミングという、従来の直感的な音楽制作の方法から断絶したアプローチを取っている。
僕の感想はこうだ。感覚的なものを言語的なものに置き換えていく作業というものの億劫さといったらない。そして現在用いられているコンピュータを用いた、数式計算のスクエアとも潔癖ともいえる結果を新鮮な衝撃としてそのまま作品の素材とするのが、もはや面白い時代でもない。ovalの面白さは、シーケンサーやお決まりのプラグイン・エフェクターを使いつも、小奇麗でなくいびつでガタガタの揺れる音色を聞かせてくれたことにある。つまりコンピュータを用いた制作は、それをまともに道具として認め、解像度を一段階上げた領域に移行しようとしている。けれどプログラミングという方法を取る取らないを関係なしに、僕達はプログラミングの結果と関わらざるをえない。
その意味でこの本はよい教科書だと思う。前田という人は非常に簡潔で分かりやすい本を書いたと思う。