音を作っては、使えないとボツにしている。
現在の僕の音楽の作り方というのは、コンピュータをほぼ唯一の道具として、いかに既存の音楽の響きから遠く、しかも複雑で豊かなものを導き出せるかという、ことにあると思う。コンピュータを使うのは、楽器のみでそうしたイメージを獲得した音を作るには、僕が楽器に不慣れであるという経験の問題がある。逆にコンピュータを用いれば、人間と楽器とその音の生み出す即時的な運動の自動性を操作する、という制作をほぼ放棄する(コンピュータを用いた即興的な演奏が登場し始めたけれど、それはまた別で)代わりに、楽器の持つ「発音」という物理的現象が強いられている制約から解放され、楽器演奏という歴史的な音楽行為とは別の形式の制作を可能にする。これは相対的なもので、しかも現行のコンピュータの能力に依存するという意味ではなはだ限界が低いという欠点がある。同時にその利点は、音をこつこつと組立てていくというような、感情を数値で置きかえるような理性的なものとして扱うことができる。
ただしコンピュータを用いるとしても、ソフトウェアとそのマニュアルの導きに従うことや、そのコンピュータのシステムが採用するような、いわゆる真っ当な方法はつまらない結果を生みだすだけで、楽器の演奏が生み出す複雑性には到底適わない。多分ポイントは、これら楽器演奏と同じように制御できない魅力に満ちた運動の自動性を取り込み、高次の視点からそれをうまく把握・制御すること、だと思う。自らのリアルタイムでの演奏によってではないけれど、機械を用いることで生じる自動性の生み出すぶれを孕んだグルーブなどのようなものを、扱うこと。
ここまでの言い方で、僕の音楽に関する姿勢というのはある程度明らかになっている。つまり既存の音楽の聴取の解像度とは違うものをイメージしている。不細工で曖昧で不ぞろいな微細な音の綾の印象を与え、頭の中でイメージがおぼろげにできあがるような音と、その組み合わせを作り出すこと。ポップ・ミュージックというフォーマットに対しても、この姿勢が適用されるべきで、すなわちポップフォーマットを曖昧に揺るがすこと。
むずかしい。
受容
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