平成10年1月18日(日)〜


人をうけへば

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感性が先走っていた
そういう女であったためか
家を出ていってしまいましたので
男が詠みました

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天秤棒の両はしのかご
どうしてそんな風なふたりになって
会うことも難しくなってしまったのですか
水も漏らしはしない
そう結び合っていたはずだのに

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東宮(皇太子)様の御母上
二条の后の催された
身内の方のための花の賀に

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お役目を賜って
召されることがありましたので
詠みました

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桜の花よ
飽きるなどはありえない
散らないで欲しい
そう嘆くのは毎年のことでしたのに
今日の今宵ほど
つらいのは
覚えがありません

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男が
わずかのあいだ契ることのあった女のもとに
送りました

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あなたと過ごしたことは
玉と玉の隙間に見える紐ほどに
短い
そうおもえるのです
いただいた心のきずは
これほども長く
私を苦しめていますけれど

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宮中にて
ある女官の部屋の前を
渡ったときのことです
なんのあだを感じてか知りませんが

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いいでしょう
あなたの
堕ちていく末路を
見届けますわ

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こう言われました

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男は

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罪もない人を呪えば
忘れ草という妖草が
そういう頭の上に生えてくる
人らしい心が消えてしまう
昔から言いますよね

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と返しましたけれど

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これを伝え聞いた別の女官が

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「罪もない」なんて
それでは
あんな女と
まだ切れるつもりがないのですね

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こう嫉妬したといいます

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かつて
したしく語らうということもあった女に
何年もしてから

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いにしえの糸車
しずのおだまきのように
くりかえし繰り返し糸をたぐり寄せて
あのころを今に
織り込んでいくというのは
もう
できないのでしょうか

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と送りました

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女は何の返しもしませんでした

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