平成10年2月12日(木)〜


妹のをかしげ

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男には
たいへん仲のよい友がいました

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片時も忘れないほどの
あつい気持ちを
互いに持っていましたけれども

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友は他国へ
旅立ってしまいました
断腸の思いで別れたのです

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月日がたちました
この友から文が届きました

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驚くばかり 情けないのです
あなたとお会いせずに
これほどの月日が
過ぎてしまったことを思うと

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お忘れではないかと
とても寂しくすごしています

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世の中の人の心は
目にしなくなれば
忘れてしまうのがあたりまえ
そういうものでしょうね

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男は
友のために詠んで
返しました

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お目にかかっていないとは
とても思えないのです
忘れるときがないためでしょうか
あなたの面影が
以前の通り
ここにいらっしゃいますよ

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男には
親密なお付合いをぜひとも
そう思える女がいました

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けれども
この男には真心がないと伝え聞いたらしく
女のつれなさは
日々増すばかりでした

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女が詠みます

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神に捧げた大幣(おほぬさ)は
めぐみ賜ろうと
引く手あまたです
おもてになるあなたのよう
嫌っているわけではありませんの
深く関わりたくはないだけです

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男が返します

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そういう噂があるようです
大幣は神事のあと
川に流されます
そしてついには
ただ一つだけの瀬にたどり着くのです
そうもいわれますけど

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男がいました

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馬のはなむけをしてあげようと
主賓が来るのを待っていましたが
来ませんでしたので
こう詠みました

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今こそ知ることができました
苦しいのですね
人を待つということは
女の里を
まめに訪ねてあげるべきでした

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男が
自分の妹の
むやみに女っぽい様を
眺めていましたが

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うら若く
ねるのに良さそうに見える
この若草を
どこかの男が
結んでしまうとおもうと
(兄はつらいぞ)

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こう詠んで 聞かせました

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妹の返し

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初草のような
とても珍しい言の葉ですね
いままで葉の表ばかりで
裏のことなど思いもしませんでしたわ
(お戯れを お兄さま)

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