平成10年6月1日(月)〜


潮ひ潮みち

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男が
あの伊勢の国まで貴女の手をひいて
そこで一緒になりたいのですが
と誘いました

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女は

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大淀の浜にみるというものが
生えているそうですね
貴男にお目にかかれるだけで
心は和むのです
秘め事を
語り合うまでにはならなくても

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と言います
どうも前よりも
つれない響きがありましたので

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男は

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心が泣いています
袖をぬらして刈って
干し並べたその海の幸 みるを
むつまじく逢うのと同じといなして
もうこれ以上は
ということですか

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岩間より生える
みるめという海藻では
ご不満ですか
潮がひいたり潮がみちたり
いつかそのうちには
貝(甲斐)もあるかもしれませんけれど

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また男

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涙に濡れながら
しぼっている
貴女をはじめ
世の人々の冷たい仕打ちが
この
袖のしずくでしたか

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まことに
逢うことの難しい
女でした
(私の腕もにぶりましたか)

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二條の后(藤原のたかい子さま)が
まだ
東宮の御息所(みやすんどころ 皇太子の御母上)と
呼ばれていらしたころのことです

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氏神(大原野神社)に参詣なされた際に
近衛府(このゑづかさ)に仕える翁は
お供の褒賞をいただく人々のついでに
もったいないことに
御車から直接それを賜ったのでした

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感激して 詠んで
奉ったのです

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大原の小塩の山も
今日こそは
太古の神の代のことを
(藤原の祖 アメノコヤネノミコトの
 活躍なさった時代を)
かならずや
思い出されていることでしょう

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と詠みましたが
心の中で
哀しい気持ちもありました

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あなたは
どのように受け取られましたか
私には知ることはできません

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