平成11年3月28日(日)〜


魂むすびせよ

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女が
男の心をうらんで

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風が吹くのでいつまでも
まるで寄せる波に洗われる岩ですよ
わたしの衣手は
乾くということがありませんわ

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と決まり文句のように
なじるのです
男が返しました.

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夜ごとになにやら
蛙のたくさん鳴く田んぼは
なるほど
水かさが増すようだね
雨も降らないのにさ

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男は
友だちが大切な人を失ったので
詠んで送りました

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花よりも早く
愛する方がはかなくなってしまわれた
いずれを先に
恋い求めると思われたか

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男が
密かに通う女がいました

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女より
こよい 夢に
あなたを見させていただきました
と言い送ってきましたので

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想いあふれて
さまよいでた魂があるようです
夜深く見えたならば
たまむすびをなさってください

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男は
ある貴い人のもとへ
亡くなった女性を弔うふうにことよせて
送りました

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いにしえにも
あったやもしれませんが
今は知りました
まだ見ぬ人を
恋うることがあるとは

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女の返し

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しるしとなるそうですけれど
下紐の
自然に解けることもありません
お伝えいただいたようには
恋われてはいないかもしれませんね

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ではと男の返し

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恋しいとは
重ねては申しますまい
下紐の
ほろりとほどけたときに
あなたはそれと知るでしょうから

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男が
みもこころも契りあった女でしたのに
冷たく横を向かれました

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須磨のあまの塩焼くけむりは
不意の風で
思わぬほうへ
たなびいてしまいましたか

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男は
やもめとなって
暮らしていました

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たいして長くない人の命のうちなのに
もう忘れたのだろう
あの人の心は
いかにも短いものであったなあ

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