平成11年5月9日(日)〜


すずろにまどひいにけり

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仁和の帝(にんなのみかど 光孝天皇)が
芹川に行幸なさいましたおり
今はさようなことは似つかわしくないと思いますけれど
元来の勤めでありましたので
大鷹(冬の鷹狩)の鷹飼として
大役を仰せつかりました

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職務上許されました
摺狩衣(すりかりぎぬ)のたもとに
書き付けたのです

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翁のくせにと
この麗々しいかりごろもを
どうか咎めないでください
今日ばかりの命と
鶴(たづ)も鳴いていますので

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高齢である
主上のみけしき(御顔色)は
よくはありませんでした

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自分の歳を思ってのものでしたが
若くはない人は
自らのことと聞こえたとか

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みちの国で
男と女が暮らしていました

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男が
都へ帰る
と言います

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女はつらく悲しく
せめて旅立ちのうたげをと
沖にある都島というところで
酒を飲ませて詠みました

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熾きの火がついて肌身を焼くよりも
苦しくて痛いのです
あなたと
みやこ島辺と
別れてしまうのは

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男は
あてどなくみちの国まで
放浪していきました

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京に残したおもいびとに
送りました

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波間から見える
小島の浜にひさぎ(楸)があります
久しくなってしまいました
あなたにお逢いできなくなってから

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なにごともみなどうでもよくなりました
とも添えてありました

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帝が住吉に行幸なさいました

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私が初めて見てからも
すでに久しい
住吉の岸のこの姿よい松は
幾世を経てきたのか

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御神(おほんかみ)が現形(げぎやう)なさって
返しました

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むつましい間柄と
あなたは知らないかもしれません
果てなく続く瑞垣(みづがき)のように久しい世から
ことほいでいたのですよ

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