ナメワッカ岳 遙かなる険しき山
2006.08.12〜14日/GP
新冠ダム〜奥新冠発電所〜奥新冠ダム〜新冠川〜ベッピリガイ沢二股〜西沢〜山頂(往復)
ナメワッカ岳は、幌尻湖の南東に位置、日高中部主稜線の名峰である幌尻岳・エサオマントッタベツ岳・カムイエクウチカウシ山又西側のイドンナップ岳等に囲まれ、遙かなる険峻なる山である。
登山経路は、尾根ルートでは、日高主稜線のナメワッカ分岐から長大な尾根一筋にて踏まれる。
沢ルートでは南側と北側が挙げられるが、南側の2本の何れの沢まではアプローチが長大であり、昨秋に「中の峰」「大山」登頂の経験から3泊4日は必要と思われる。
北側ではベッピリガイ沢次いで北斜面の沢筋を詰めるのは「北海道の山と谷(下)」掲載では難易度が高く、事実、昨年に北側に位置する「二岐山」からベッピリガイ沢越しに間近に眺めた幾筋の沢筋は深く急峻で迫力があり、私には到底近寄れない。
今回、「ガイドブックにない北海道の山50」著者である八谷和彦氏/夫人と私3人でベッピリガイ沢二股から西斜面へと迂回する沢筋を辿り山頂に至った記録である。
このルート計画の難関は2つ、最初は新冠ダムから奥新冠ダム先の幌尻湖北端までの往復66Kmの林道越え、次いで情報が皆無の西側の沢筋である。
1日目:新冠ダムの林道ゲートで「地図がガイドの山歩き」さんのメンバーNaさんに声を掛けられビックリ!!活気溢れる顔が懐かしく、YA氏・KO氏に「レサッピ」ルート情報を伝えていると同行者の八谷夫妻と合流する。
新冠ダムの林道ゲートは、近日に施錠された模様、登山道のあるイドンナップ岳も一層遠くなった感であり、私達も奥新冠発電所までの往復33Km林道越えは想定外の追加である。
新冠湖沿いに踏むテント泊装備のMTBのペダルは重く、湖面の情景を楽しむ余裕は無いが、高低差が僅少なのは救いである。
新冠ダムより17Kmの奥新冠発電所に到着、ここから更に16Km先の幌尻湖北端までは新冠川沿い渓谷林道の急坂が続き、昨年に林道越えを経験しているだけに複雑な心境である。
「いこい橋」の橋中に設置されている「回転ゲート」を抜ける手前で自転車が一台パンク!!歩くのみである。
暑中、MTB押しが辛い急坂に喘ぐと懐かしい奥新冠ダムの静寂感が漂い、入渓点の幌尻湖北端の新冠川は間近である。
自転車をデポ、林道から小沢を下り渡渉、新冠川右岸沿いの鹿道を辿り広い河原景観に入渓、ペッピリガイ沢と新冠川二股の730高点に到着、この地点までは昨年の「二岐山」で経験済みである。
本日は、ベッピリガイ沢二股にてテント泊予定であり、右股に進み釜が現れるとベッピリガイ沢C760二股であり、10m滝が本沢へと落ち込む。
二股左岸を高巻く、斜面にテント場を確保すると夕闇が迫り、最初の関門を突破する。
明日の山行計画を練るが、沢筋が不明な為、最悪の場合は山頂での宿営を考慮して全装備を担ぎ上げる事とする。
2日目:早朝、二股口の小滝を捲く為、テント場尾根を直接捲き、C780沢に降り立つとC970まで沢筋が一旦緩やかに変化する間、相次いで滝又は釜の回廊続き地形に高巻く箇所が多く、予想以上の険しさである。
特にC950屈曲部のゴルジュは狭小で水流は速く難所、両岸の断崖は高く馬鹿捲き地形であり、八谷氏が岩部に差し込んだピッケルを足場に何とか左岸の岩上に這い上がり、ロープで後続を引き揚げると最大の難所を突破する…チームワークの勝利である。
再びC970からC1020まで滝が出現、その都度に危なげな高捲きを繰り返すとC1120以降は沢筋様相が一変、岩盤沢筋の緊張した場面から解放される広い沢はガレ岩が直線的に延びる。
C1160で涸沢となり、山頂部を確信する地形を見上げ、今後の予定を検討した結果、荷物をデポして山頂を目指す事に変更、ザイルを背負い点在する雪渓に暑中の冷気を感じつつ高度を上げる。
C1380付近、八谷氏が直登沢を地図標定をするが確信を持てるルンゼが見当たらず、本沢を辿るも南西尾根の1721方向に向かう迂回ルートとなる。
C1480から沢筋を離れて急斜面に取り付き、尾根次いで東斜面へと方向修正しつつ、中密度の藪漕ぎにて南尾根に上がる。
細目の尾根筋からは一気に展望が開けて名峰が連なり、尾根上ピーク2つ目にはナメワッカ岳(三角点)の山容が間近に眺め…ここまで辿り着いたと感慨深い。
尾根東側の鹿道を時折拾い、日高主稜線のナメワッカ分岐からの支稜線が合流する山頂部に到着…長大なる林道越え、厳しかった沢筋そしてテント場から流れた多くの時間…3人で握手である。
頂上達成感が満杯の山頂部は、三角点が設置され、視界を遮る事のない展望に八谷氏がナメワッカ分岐を指さし、過去、エサオマントッタベツ岳経由で2泊3日を要してナメワッカ分岐から支稜線を辿った想いでを語る…豪快な稜線歩きであるが厳しさを実感する。
下山、テント場から山頂までの標高差1000mに要した時間は7時間15分、時間的余裕は無く直線的に眼下の沢筋へと下降開始である。
当初予定した直登沢は、山頂直下、標高差150m程の斜面は濃密なるハイマツが広がり、登頂ルートは多少迂回となったが、南尾根コースを選択した八谷氏が正解と知った強烈な藪斜面である。
直登沢を順調に下降、C1430二股で陸上自衛隊ヘリ墜落の残骸集積を発見するが、パイロットは幸運にも負傷程度だとしても、この日高の奥深さを考えると生存する確率は極めて低いと判断する。
C1200デポ地点からテント場までの下降中に集中的な降雨、沢水が濁り釜の深さが判断困難、夕暮れまでの時間を計りつつ、高捲き、懸垂下降を4度繰り返し、釜を泳いだりとテント場到着…八谷氏が夫人・私3人がアクデントも無く無事に帰る事ができたと意味深い握手である…本当に良かった!!
テント設営後、間もなく夕暮れであり、山頂以外は休憩時間も皆無の行動、テント場目前で夫人が「お腹が減った…と軽食を口に押し込む」状況に象徴される本日の行動時間は13時間10分にも及び手強かったナメワッカ岳山頂であったと爆睡する。
3日目:頂上を踏めた実感を味わいつつ、再び沢から林道に上がり33Kmの往路を引き返すが、自転車1台はパンクの状況、私は先行して引き返し補助手伝いとペダルを漕ぐ。
休憩もなく走り抜けた林道から登山口の新冠ダムを眺めた瞬間は嬉しかったが、余裕も無く再び林道をミニバイクで折り返すと八谷夫妻の健脚に驚く地点で遭遇、遠大なる山行も終わりである。
備考:ルート特色
●新冠ダムゲートは通年封鎖となる模様であり往復66Km林道歩き
●ナメワッカ岳西側の沢筋は当初難所も出現、ザイル必須
●標高差に比較して所要時間大
一日目 新冠ダムゲート 7時間15分 テント場(ベッピリガイ沢C760二股) 2日目 4時間10分 C1160涸沢 2時間05分 C1710南尾根 1時間 山 頂 5時間50分 テント場(ベッピリガイ沢C760二股) 3日目 5時間05分 新冠ダム 1 二股山からの山容
2 C950ゴルジュ
3 南尾根から山頂部
4 三角点から最高峰
5 ナメワッカ分岐からの支稜線
6 イドンナップ岳
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