モデルロケットを扱う上で知らなければいけないモデルロケットエンジンの構造、種類等の説明と、マルチステージ(多段式)、クラスター(束ね式)について説明します。
モデルロケットエンジンは交換式の固形燃料で、ロケットを飛行させパラシュートなどの回収装置を放出させます。工場生産の国際規約に適合したものだけをいい、トータルインパルス(全力積)によってA、B、Cなどの種類があります。モデルロケットエンジンのスペックは世界的な規格で決められており均一な製品となっていますのでモデルロケットを教材として利用する場合はシミュレーション等の数量計算が可能になります。モデルロケットエンジンへの点火は安全性を考慮して「イグナイター」による電気式で行います。
モデルロケットエンジンは推進薬、延時薬、放出薬の3つの部分より出来ています。また、外装は紙、「ノズル」「クレイキャップ」(上ふた)は粘土で出来ています。モデルロケットエンジンは日本国内では火薬類取締法が適用されます。従っていかなる理由があろうとも分解したり、みだりに放置してはいけません。
図 モデルロケットエンジンの構造
推進薬
モデルロケットエンジンの推進用の燃料です。イグナイターにより推進薬に点火されるとノズルから燃焼ガスが噴射して推力を得ます。この時ロケットは加速されます。
延時薬
延時薬はモデルロケットエンジンの推進薬の燃焼が終了した後、放出薬に点火されるまでの時間を制御します。この時ロケットは最高点へ達するまで慣性で更に上昇し、航跡煙を出します。
放出薬
モデルロケットエンジンの延時薬の燃焼が終了した後、放出薬が燃焼するとエンジンはイジェクションを行ないます。このガスによりロケットのノーズコーンが外れ、パラシュートなどの回収装置がロケット本体より放出されます。
ノズルおよびクレイキャップは粘土でできています。また、エンジンの外装は紙でできています。これは、エンジンそのものを軽量にするためと、使用済みのエンジンを万一放置された場合でも自然の力で分解され土に戻るためとされています。
モデルロケットエンジンは火薬で構成されていますので火薬類取締法が適用されます。したがって、いかなる理由があろうとも分解したり、みだりに放置してはいけません。
モデルロケットエンジンは安全なイグナイターにより点火されます。点火されると推進薬→延時薬→放出薬の順序で燃焼します。
図 モデルロケットエンジンの燃焼サイクル |
点火 モデルロケットへの点火方法は、安全なイグナイター(電気式)を用います。イグナイターは、通常2本の脚線があり、各々+−の電極となっています。脚線が交わる部分にはニクロム線がついており、それを極微量の黒色火薬が覆っています。脚線に電流が流れることによりニクロム線が赤熱して黒色火薬に着火し、次いでモデルロケットエンジンの推進薬に点火されます。
推進薬
延時薬
放出薬
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モデルロケットエンジンには、多くの種類があります。それは、エンジンの表面に書かれているアルファベットと数字の文字列によって、簡単に見分けることができます。
表面に、いろいろと英語が書いてありますが、その中に、やや大きめの文字で
「A8−3」「B6−4」などと書いてあるのが見つかると思います。
図 モデルロケットエンジンの外見
最初の英文字は「トータルインパルス(全力積)」を表わしています。下表を参照して英文字に照らし合わせて下さい。単位はNs(ニュートン・秒)になります。
次の数字は「アベレージスラスト(平均推力)」を表わしています。単位はN(ニュートン)になります。
最後の数字は「タイムディレイ(延時時間)」を表わしています。推進薬が燃焼し終わってから放出薬点火までの時間です。すなわち延時薬の燃焼時間です。単位はS(秒)になります。
下表は各種エンジンのトータルインパルスをまとめたものです。
上図の「A8−3」エンンジンの場合
A:トータルインパルス(全力積)が2.5Ns(ニュートン・秒)
8:アベレージスラスト(平均推力)が8N(ニュートン)
3:ディレイタイム(延時時間)が3S(秒)
ということが分かります。また、これらの値より他の情報も算出することができます。
エンジンの燃焼時間(推進薬の燃焼時間)は、トータルインパルスをアベレージスラストで割ることによって算出できます。
【例】エステス社のA8−3エンジンの場合
トータルインパルスが2.5Ns
アベレージスラストが8N
2.5÷8=0.3125
したがって、このエンジンの推進薬が燃焼している時間は、0.3125秒となります。
同じトータルインパルスのエンジンの場合、アベレージスラストが大きいほうがより大きな加速が得られます。
火薬量とは、クラスター(束ね式)やマルチステージ(多段式)の場合、打ち上げ時に必要なエンジンについての総火薬量となります。
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クラスターやマルチステージの場合には、一回の打ち上げ時の合計薬量が20グラムを超える場合、日本モデルロケット発行の第3級モデルロケット従事者ライセンスが必要となり、また、各都道府県知事の許可が必要となります。
たとえば2段式ロケットの場合、1段目(ブーストステージ)には通常の点火方法で点火することができますが、2段目(アッパーステージ)への点火が難しいと思われがちです。
モデルロケットの場合には、アッパーステージのエンジンへの点火は、ブーストステージのエンジンが、推進薬の燃焼終了と同時に、アッパーステージへの点火もおこないます。また、この時同時に、ブーストステージの切り離しもおこないます。シングルステージで打ち上げるときに使うエンジンでは、推進薬が燃焼を終了してから延時薬が燃焼し、続いてリカバリーシステムを放出するために放出薬に燃焼が継続されますが、ブーストステージに使うエンジンは、推進を終えたら、即座にアッパーステージに推進の役目をおわせなければなりませんので、延時薬も放出薬もありません。
ブーストステージには延時時間が0秒のエンジンを使います。これは、ブーストステージの役目として、ロケットを加速させ、次いで素早くその速度が落ちないうちにアッパーステージに推進をおこなわせるためです。
また、アッパーステージには、シングルで打ち上げるときよりも、延時時間の長いエンジンを使うのが一般的です。これは、シングルで打ち上げるときよりもロケットの速度が速いため、慣性で飛行(上昇)している時間が長いからです。上昇中にリカバリーシステムが作動(放出)されると、高度をロスするのと同時に、速度の速さのために、リカバリーシステムが受ける空気抵抗が大きく、損傷する恐れがあるためです。
クラスターの場合には、エンジンの一つ一つにイグナイターが必要となります。この場合には、通常のシングルエンジンの集合体と考えて、すべてのイグナイターに+と−のクリップを接続する方法がありますが、これですと、エンジンの数だけ、+と−のクリップが必要となってしまいます。しかし、だからと言ってすべてのイグナイターを直列(イグナイターの脚線を接触させ、一本にまとめてしまう)と、点火時に大量の電流が必要となり、また、すべてが同時に点火せず、一本でも点火してしまうとイグナイターのつながりがそこで途切れてしまい、他のイグナイターには電流が流れません。(つまり不点火となります)
したがって、クラスターの場合には必ず、イグナイターは並列になるように接続しなければなりません。なお、並列に接続したとしても、点火時には大量の電流が必要となりますので、コントローラーには、12Vバッテリーなどの電流容量の大きなものを使用しましょう。