朝、まだ日が昇る前にレイは目を覚ます。
そして、朝日が昇り始め段々と白む空の中、近くの小川へ水を汲みに出かける。
そこで顔を洗い、木桶に水を汲むと、家へ戻り朝食の準備をいそいそと始める。
暖炉に火をおこし、山羊から搾った乳を温め、木の実や茸でスープを作る。木のテーブルを水拭きし、食器を並べる。
それが毎日の日課となった。
別に無理に早起きをしているわけではない。
戦場に身を置いていたときは、安らかな眠りを求めることはできなかった。故に、グリーンの元へ身を置いて一週間、こんなにぐっすりと毎日安らかに眠ることができて、レイは本当に満足している。
朝食の準備が終わるころ、目を覚ましたグリーンが自室から現れた。
「グリーン!! おはよう! メシ、できてるよ、さぁ食ってくれ」
目を輝かせながらレイは元気に声をかけた。
「・・・おはよう」
静かに朝の挨拶を交わすと、グリーンは席について、朝食を摂り始めた。
それを確認するとレイも席につき、豪快に朝食を食い荒らし始める。
グリーンよりも早く朝食を食べ終わらせると、レイはうずうずしながらグリーンが食事を終えるのを待っていた。
「・・・レイ」
「何だ!?」
グリーンの呼びかけに前のめるように身を乗り出して、レイは即座に返事する。
「君は、いつまでここにいるつもりだ? 私のように、こんな精霊界の片隅で隠居しているような者に師事しても、仕方ないだろう?」
そう、レイが弟子にしてくれと申し込んでからの一週間、グリーンは弟子をとるつもりなどないと言い続けていた。
それでもレイは食い下がる。
「だって、グリーンほどの剣士は、あたし、今まで見たことないんだよ。そんな人の弟子になりたいと思って何が悪い? 当然のことだろう?」
「君のご家族は心配していないのか?」
「!!」
グリーンのそのひとことに、レイは下を向いた。
「あたしに・・・家族なんていないよ。天涯孤独ってヤツ。あたしを拾って育ててくれたフルーラ母さんも、四年前に死んだ」
レイは顔を上げると、その強い眼差しでグリーンを見据えた。
「フルーラ母さんは、妖魔狩りを仕事にしてた。あたしは母さんが大好きだった。そりゃおっかない人だったケド、でもすごくあったかくって、母さんと一緒にいるだけで、すごく幸せだったんだ・・・なのに、四年前―――母さんは死んだ。妖魔に殺されたんだ。他に身寄りなんかないあたしが食いつないでいくには、傭兵になるしかなかった!」
「・・・そうか」
グリーンは静かにことばを漏らす。レイの生い立ちを知り、それに答えることばを持ち合わせることのないグリーンが唯一漏らしたことばだった。
「でさ、考えたんだよ。あたしはみなし児だし、誰からも必要とされない存在だ。傭兵って言ってもただの下っ端だし、こうしてあたしひとり消えたって、今ごろになっても誰も気に留めたりなんかしちゃくれない。でも! 母さんみたいに社会に貢献して、人に喜ばれる仕事をしたい!! それが妖魔と戦うことなら、それでもいい。妖魔の侵略による戦争に参加することだって構わない。だけど、今のままのあたしじゃ全然ダメなんだ、弱すぎちゃってさ。あたし、自分の存在価値ってのを見つけたいんだよ!!」
グリーンは自分の思いを一気にまくし立てるレイのそのことばを聞くと、深い溜め息をひとつついた。
「・・・レイ、君の気持ちはよくわかった。ただ・・・」
「ただ!?」
言いよどむグリーンに、やはり気持ちを汲んではもらえないのか、と悲痛な表情でレイは訊き返す。
「・・・弟子になるからには、その訓練は厳しいものになるぞ。ついてこられるか?」
「!! うんっ! ありがとう、グリーン!!」
立ち上がり、神に祈るように、レイはそのありったけの喜びを身体中で表した。
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