「紫鏡外伝2」ルリハコベの園
終章

 そうしてレイは今日、千歳の誕生日を迎える。千歳といえば、成人だ。大学で多くのことを学び、多くの友を得、大人の仲間入りをするのに相応しい女性へと成長していた。

 月花城・謁見の間。ここでレイはサイラによって成人の儀を執り行われた。この儀式により、精霊界で成人と認められるのだ。

「レイ」

 サイラが声をかける。

「大学での貴女の成績は大変優秀でした。貴女には、これより人間界に降り立ち、守護精霊としての役に就いてもらいます」

「・・・私が、ですか?!」

 守護精霊――それは精霊界でも選りすぐりの者にしか与えられない任務である。サイラはレイに、その役を与えるというのだ。生まれもよくわからないレイにその任が与えられるとは思っていなかったレイは、俄かに信じがたかった。

「永く、紫水晶の守護精霊が不在となっております。レイにはその役に就いてもらいたいと思います。よろしいですか」

「・・・は、はい!!」

 こんな機会に恵まれるとは思っていなかった。しかし、目の前にある好機をみすみす見逃すつもりもない。レイは引き受けることを躊躇わなかった。

「では、貴女に精霊聖五位の位を授けます。これからは貴女はシキョウという名を名乗りなさい。レイ・シキョウです」

「レイ・シキョウ・・・かしこまりました」

 聖女王から名と位を賜ると、レイは一礼して謁見の間を後にしようとした。

「あ、お待ちなさい」

 すると、サイラはそれを引き止める。

「はい、なんでしょうか」

「UNITEをここへ・・・」

 サイラはUNITEを出せという。

 何事かと思いつつも、恭しく剣を取り出すと、聖女王へ差し出した。

「このままでは、この剣は人間をも傷つけてしまいます。守護精霊として、それはあってはならないことです。人間を傷つけることのないよう、UNITEの能力を制限しましょう」

 そういいながら、サイラはUNITEに手をかざす。淡いけれど熱い光がUNITEを包んだ。

「これで良いでしょう。人々を助けるため、力を尽くしなさい」

 サイラはレイにUNITEを手渡した。その時、今までよりも大きな責任がその身にのしかかったことをレイは実感した。


★


 成人の儀が終わると、レイは一目散に青の庭へと向かう。青の庭では、レイの成人を祝うべく、セルリアが待っていた。

「セルリア!!」

「あ、レイ! 成人おめでとう!!」

 大きく手を振りながら、近づくレイにセルリアが祝いのことばを述べる。

 レイはセルリアの側まで駆け寄ると、呼吸を整えてから早速今日の報告をする。

「私、紫水晶の守護精霊として人間界に降りることになったわ」

「え!?」

 セルリアのことだ、すぐに喜びの笑顔を見せてくれるだろう――そう思っていたレイの思惑が外れたことに気付く。セルリアは少々戸惑っている様子だった。

 そして、思い出した。彼女の姉もまた、守護精霊として人間界に降りていることを。セルリアはまたしても大切な人を人間界に送り出さねばならないのだ。レイは自分の浅慮さを呪った。

「・・・セルリア」

 レイは自分の気持ちを素直にセルリアに伝えたいと思った。

「私、こんな私が守護精霊になれるなんて夢にも思わなかった。だから、聖女王様の期待に応えられるよう、守護精霊として頑張りたい。私とセルリアは親友だよ。友情は決して変わらない。例えふたりが別々の世界にいたとしてもそれは変わらない。私はいつもセルリアの幸せを願うし、セルリアを想ってる。手紙だって必ず出すよ」

 精一杯の気持ちだった。

 真剣なレイの表情を見て、そしてセルリアはくすりと笑った。

「あたしだって、いつもレイのことを想ってるよ。おめでとう、すごいじゃない」

 いつものセルリアだ――レイは安堵した。

「私、聖女王様から名前を頂戴したのよ。シキョウというの」

「シキョウ・・・素敵な名前! 今度からあたし、レイのことをシキョウって呼んでもいい?」

「もちろんよ、セルリア・・・実はまだちょっと恥ずかしいけど」




 数日後には、ふたりは別々の世界で日々を送ることになる。普通に考えれば、もう二度と会うことは叶わない。

 ルリハコベの園で、ふたりは互いの友情を確かめ合うかのように、強く抱き合った。その瞳にはそれぞれの水晶の輝きをたたえながら――



Fin,


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Les Rois au pays de Pyjamas

オリジナル小説「紫鏡」