「ここがオレたちの新しい学校だね」
「そうよ。かの名門校も今は憐れなものね」
昨年から共学校となった、名門・聖(ヒジリ)学園の正門前にふたりの男女が立っている。それは安珠(アンジュ)と晶子(ショウコ)。表向きは双子だが、実は他人。しかも、人間ではないこのふたりは今、人の平安を貪る人ならぬ悪を討つべくして立ち上がっていた。
「妖気が漂ってるよ」
肩をすくめて安珠は言った。立派な建物だ。ここに何が潜んでいるのだろうか。
「さてと・・・学校の視察といきますか」
「そうね」
何が潜んでいるのかわからない。けれどもふたりは臆することはない。ふたりは滑るように留まることなく、巨大な校内に吸い込まれていった。
さすが元女子校だけあって、女の子の姿ばかりが異様なほどに目立つ。
「おおっ。かわいい女の子がいっぱいだ」
安珠はにやけ顔で言った。
「・・・安珠ぅ、何を見ているのかしら? 貴方は」
ギロリと睨んだ晶子の顔は恐ろしい。
「いや、何でもない。あはは・・・」
さすがの安珠も晶子の方を向いて乾いた笑いを浮かべてしまう。
そしてそそくさと廊下を曲がった。
その時。
「きゃあっ」
「うわぁっ」
安珠は正面からひとりの少女にぶつかった。
「アイテテ・・・大丈夫? ごめんね」
安珠は立ち上がり、少女を助けようと手を差し出す。
「すいません」
少女がそういってその手に掴まり顔を上げたのを見て、安珠は我が目を疑った。
「か、香ちゃん!?」
「え・・・?」
その少女は安珠の恋人、天地(アマチ)香にまさにうりふたつだった。
「香ちゃんでしょ、どうしてここに?!」
安珠は興奮して、その少女の肩を激しく揺さぶりながら、一方的に話しかける。
「あ、あ、あの。ちょ、ちょっと」
「え?」
少女は安珠の揺さぶる手を止めて言った。
「あたし、かおりって子じゃありません。人違いです!!」
「え?」
安珠はきょとんとした感じで目を丸くした。
「あたし、田端 薫(タバタ カオル)って言います。かおりじゃなくて、カオルです」
「う、うそでしょォ?」
安珠はどうも信じられない様子である。しかし、違うと薫は断固として言い張る。安珠もようやく観念したようだった。
「・・・薫ちゃんかぁ。ごめん、僕の知り合いにすっごくよく似てたもんだから」
安珠は照れたように頭をかいた。
少女・・・薫は、しかしその安珠のことばを、ナンパか何かではないかと疑っているようだった。訝しげに安珠を見ている。
それを安珠はすぐに察知した。
「あ、ホントだよ。ナンパとかじゃないんだからね。証拠の人間だって、ここにいるんだからね。な、晶子」
安珠は晶子の方を向き、同意を求めた。晶子は呆れた様子で安珠に応えた。
「まぁ、そうね」
「ほらね」
薫は晶子が安珠の連れだということがわかって、やっと納得したようだった。
「ところで、おふたりは他校の方のようですケド、転入生か何かですか?」
薫は安珠と晶子が制服を着ていないのを見て尋ねた。
「うん。その予定。これから編入試験を受けるんだ」
安珠は明るく微笑んで言った。この表情に、多くの女性が安珠の虜になってしまう。屈託なく笑う安珠のその様子は、母性本能をくすぐるのだ。
しかし、その安珠とは対照的に薫の表情は穏やかでない。
「・・・そうですか。でも、この学校は生徒数も多いですし、試験はすごく難しいですよ」
「あー、そんなこと気にしなーい。大丈夫だよ。絶対に受かるから。でも、ありがとう。薫さん、優しいね。編入が正式に決まったら、また会おうね」
安珠はウインクをした。薫はまだ少し不安そうな顔をして見ている。
しかし、安珠も晶子もそんな不安には一向に構わずに廊下を歩いていった。
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