「あーあ。これでこの学校ともお別れか」
安珠はつまらなさそうに両手を頭の後ろに組んで、空を仰ぎながら言った。
天気は快晴。風は冷たいが、空は澄んだ美しい青を広げている。
「そうね、たった三日しかいなかったのに、もう転校なんて・・・でもまぁ、私たちの記憶は消してしまうんだけどね」
晶子も残念そうである。
「ところで、生徒会長は本当に大丈夫かなぁ?」
安珠が心配そうに呟く。
精霊の剣で切られ、倒れた永遠子は意識がいまだ戻らないようだった。
「・・・彼女は父親を慕うばかりに、あの怨霊たちに目をつけられてしまった。そして、私怨に加担させられた。そのときに、自分にとって邪魔者だった人間の魂をひとつ、口にしてしまってたから」
紫鏡は伏し目がちな様子でことばを漏らした。
「でも、きっと大丈夫よ。Uniteで浄化したあとだし、あとはあたしにまかせてよ」
沈みがちな空気を吹き飛ばすように明るく香は言った。
香の持つ癒しの力は、多くの者を救う。永遠子も恐らく香にかかれば、以前のように元気になるだろう。そして、憎しみや妬みを忘れて穏やかに過ごせれば一番だ。
「香ちゃん、香ちゃんも僕たちと一緒に行こうよ」
安珠は香に言った。
「うん。そうねぇ・・・行きたいのは山々だけど、後から追っかけるわ。先に行ってて。後片付けが残ってるんだもん」
「後片付けって・・・それじゃ台所に立つ母親のセリフだよ」
「でも、そんなもんよぉ」
香はくすくすとかわいらしく笑った。
「とにかく、きちんと追っかけるから、もう行きなさいな」
「あ、うん・・・絶対だよ」
安珠は念を押す。
香はそれに、はいはいと頷き、それを見届けてからようやく安珠は歩き出した。
すでに晶子はずっと先を歩いている。
「お、おい、紫鏡! オレを置いていくなよ」
慌てて安珠は晶子を追った。
「早く来なさい! 置いていくわよ、本当に! ノロマなんだから、まったく」
「なんだとぉっ」
安珠は晶子に飛びかかる。
そんなふたりのじゃれあう後ろ姿を見ながら、香はひとり微笑みをもらした。
「あのふたりったら、本当にわかってないなぁ。自分の気持ちにあそこまで気付かないなんて、ホント鈍感すぎるわよ」
そう言ったあとすぐに、香は真顔になって空を仰ぐと、今度はもっと小さな声でためらいがちに呟いた。
「今度こそ、やっぱりふたりに真実を話さなくっちゃ。あのふたりのためにも・・・そしてあたし自身のためにも」
見上げる青空は目に眩しく、日の温かさが体を包んでいた。しかし、香の心模様はそれとは裏腹に、自然と目頭が熱くなる。
ふうっとひとつ、香はため息をもらすと小さくなるふたりの後ろ姿に背を向けて、しっかりとした足取りで歩き出した。自分たちの行く末をその瞳で見届けるために。
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