「紫鏡3」久遠情愛
序章

 その日、炭野 貴子(スミノ タカコ)は一日中、特に何をするわけでもなくただぼうっと自分の部屋で無駄に時を過ごしていた。別に元々活発に出歩くほうではなかったし、無駄に時間を過ごすことが嫌いなわけでもない。ただその日は、いつにも増して、何もやる気が起きないというか、気づいたら時間が経ってしまっているような状態だった。

 あれ・・・? ふと何故か心引かれて、思い出したかのように、部屋に置いてあった鏡に何気に視線を投げる。

「えっ!?」

 貴子は思わず目をこすった。

 鏡に異変が起きたのだ。

 といっても、それはほんの一秒にさえ満たない、そんな一瞬の出来事でしかなかった。

 その出来事とは、映るはずのないものが鏡に映り込むというものだった。貴子のいる場所から見えるのは、角度的にはちょうどベッドの辺りである。なのに、部屋には貴子以外誰もいないはずなのに、その鏡には人間の姿が映し出されたのである。

 鏡に映った少年、それも美少年は、貴子と目が合うと、ひどく驚いた表情であっと言う間に消え去った。

「・・・まさか・・・幽霊?」

 貴子は恐怖のあまり、部屋から飛び出した。



 この美形の少年こそが、あの紫水 安珠――アンジェラであるのは言うまでもない。



次へ



各章へジャンプできます
第3章へ 第4章へ 終章へ


「紫鏡」シリーズ
TOPへ






Les Rois au pays de Pyjamas

オリジナル小説「紫鏡」