木々が生い茂る森の中。それでも明るい光は梢を縫って地面まで到達する。その光は多くの低草を生かし育み、豊かで清涼な空気を作り出す。恵まれた森。
その森の最奥、ひと際木々の影が色濃く浮き立つ場所に、巨大な石が存在する。
人の背丈よりも大きく、岩と呼ぶべきかと感じさせるその石は、大理石に似たマーブル模様を持ち、けれどもっと透明で、オパールのようにたくさんの色を放っている。名を「虹彩門石(コウサイモンセキ)」といった。
ふとその虹彩門石の多彩な煌めきが強さを増した。その光はぐんぐんと輝度を上げ正視できないほどの虹の光を作り出す。ただ、その光は長続きしなかった。時間にして刹那。
そして光の終息とともに、代わりとしてその場に現れたのは4つの人影。アンジェラ、紫鏡、セルリア、ダイアナだった。
「わぁー、懐かしい! この辺はちっとも変わってないのね」
まず飛び出したセルリアがそううれしそうに声をあげた。
「ここが……精霊界……」
アンジェラは少々不安な面持ちで、しかし好奇心を隠せない様子だった。
「そうよ。ようこそ精霊界へ」
紫鏡も何千年ぶりに訪れた故郷に感慨深げだ。アンジェラに向ける表情からそれが読み取れる。そして、その三人の様子を見守るダイアナは降り注ぐ光を見上げた。穏やかなようでいて、何か憂いを感じさせる横顔。たくさんの疑問符を抱いたまま、ダイアナはこの世界へ戻ってきたのだ。しかし、ダイアナの表情に気づく者はいないように感じた。紫鏡を除いては。
精霊界を取り巻くエンドフォレスト。その中でもリアンの森と呼ばれる区域に静かに存在する虹彩門石は守護精霊がその任を受け、人間界へ降りるときに利用される専用のゲートだ。普段は一方通行でしかないそのゲートをくぐるということがどれだけ特異なことか。今ここでその重大さを知っているのはダイアナと、そして紫鏡のみなのだ。
「さて。ここに長居は無用よ」
キョロキョロと辺りを見回すアンジェラと、クスクスと笑いつづけるセルリアに、紫鏡はそう告げる。
「まずは精霊界へ戻ったことをご報告しなくてはね」
「安珠くん、聖女王様にお会いできるよ!」
「えぇっ!! それってすごく緊張なんだけど……」
紫鏡とセルリアの発言にアンジェラは戸惑いを隠せない。
「大丈夫ですよ。聖女王はとても寛大で優しいお方です」
ダイアナはアンジェラの様子を見てそっと助け舟を出すようにやさしく告げた。
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