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ショパン・ポロネーズアンケート対象曲説明

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〜第6回・ポロネーズ人気投票〜作品紹介編〜
このページでは、第6回ポロネーズアンケートの対象曲8曲について、個別に詳しく紹介していきます。 当初はポロネーズアンケートのページに含める予定でしたが、書き進めていくうちに予想に反して長くなって しまったので、このようにして別ページに切り分けることにしました。このページは、当サイトのポロネーズ作品 解説編よりも一部充実している部分があるため、後にポロネーズ作品解説に使い回しをすることを考えています。

ショパンのポロネーズ対象曲の説明
それでは、今回対象曲として選んだ第1番〜第7番、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズの8曲は どのような作品なのか、今一度振り返ってみたいと思います(ここは当サイトの ポロネーズ作品解説と重複する部分が多いので、読まなくても構わないです)。

第1番と第2番は、ショパンが第8番〜第16番という学習期の習作を経てポロネーズの作風を確立した作品とされ、 同じ作品番号(作品26)の姉妹作となっています。

第1番の主部は、暗いというよりも憂鬱な響きで、特に 前半部は孤独なモノローグのような旋律、後半はやや動きを伴う技巧的なパッセージと力強い和音が曲に力強さ と彩を添えます。対して中間部(トリオ)は、さらに3部に分けられ変ニ長調の穏やかで夢想的な旋律が非常に印象深く、 郷愁を誘う楽想が魅力です。また中間部中ほどにはやるせない情緒の高まりがあり、聴くたびに胸が熱くなる部分です。

第2番は暗く重々しい和音とユニゾンのリタルダンドとアッチェレランドの繰り返しで始まり、第一主題も 暗く重々しい情緒を引きずります。主部はさらにABAの3部に分けられますが、Bでは変ニ長調に移り、和音進行の 軍隊行進的な性格を持った楽句となります。対して中間部のロ長調は和音進行を基調としながら穏やかで牧歌風の旋律が 鳴り響きます。

第3番と第4番は、同様に同じ作品番号(作品40)の姉妹作ですが、これらの作品は、内容的にも全く対照的です。 明朗快活で威風堂々とした第3番「軍隊ポロネーズ」と、悲壮感漂う重く暗い第4番との対比…ポーランド出身の 大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインはこの2つの作品を、ポーランドの運命を表した作品と捉え、 「ポーランドの栄光と衰退を表している」と言っていたそうですが、まさしく言い得て妙です。

第3番「軍隊ポロネーズ」は、3部形式(ABA)をとる曲で、主部はイ長調で始まり力強い和音がポロネーズリズム を刻みながら進行し、非常に 明朗で堂々とした曲想です。中間部(トリオ)もこの曲だけはニ長調に転調するだけで曲想そのものは大きく変化せず、 終始力強い和音が鳴り響きます。本当にショパンらしい繊細で抒情豊かな旋律が全く登場しないため、ショパンの 作品の中では異色の存在ですが、何より、表も裏もないという意味では親しみやすい曲と言えるかもしれません。

第4番は、軍隊ポロネーズとは雰囲気が打って変わって沈痛で暗く重く、非常に深刻な内容の作品となっています。 ポロネーズに典型的な三部形式で、主部はハ短調の右手の和音を伴奏として左手のオクターブで重々しく暗く絶望的な旋律を 奏で、次の瞬間、その情緒が「悲しみ」となって右手に旋律を受け渡します。暗い情緒と悲しみの情緒という微妙に 異なる情緒が交互に現れるのが印象的です。主部の中ほどには爆発的な和音と右手に急き込むようなパッセージが交互に 繰り返された後、平穏なト長調のパッセージが続き、絶望的な楽想の後だけに安堵のため息をつきたくなりますが、 何とも言えず懐かしい雰囲気の響きで、郷愁を感じさせる趣がありますが、それも長くは続かず、再び重く暗い第一主題が 姿を現します。対する中間部(トリオ)は変イ長調の非常に優美で静かな楽想で始まりますが、中間部中ほどで、 2つの和音とともに平和が乱れ、やや動きを伴った楽想が現れます。主部の再現は、大幅に短縮されていますが、今度は 右手の和音の伴奏の外声部にも旋律らしきものが現れ、左手の旋律との役割分担が不明瞭となっていますが、それも最初の うちだけで、やがて元(提示された音型)に戻ります。

第5番、第6番、第7番、それにアンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズは、第1番〜第4番と比べると、内容的にも規模的 にも充実しており、さらに演奏難易度もワンランク以上上のものが求められる、質、量ともに名曲揃いとなっています。

第5番は、ポロネーズ典型の3部形式で、不気味なユニゾンが途切れながら徐々にその真の姿を現していき、 最終的には、両手オクターブの連続、連打となって高揚し、そのまま第一主題に突入します。 主部は嬰ヘ短調の暗く力強く荒々しい主題が印象的で、これが登場するたびに複雑さを 増していく方法をとって冗長にならない工夫が施されています。 その姿を変えて再登場する主題の間に右手のオクターブ上昇のパッセージを含んだエピソードが挿入され、これも遅いものと 速いものの2バージョンがあります。オクターブを含む力強い和音は幅広く目まぐるしい跳躍と正確な打鍵が要求され、 さらに右手の急速なオクターブ上昇では、正確さとレガートさが要求され、技術的にも非常に難しく書かれています。 ポロネーズの主部の後には、ポロネーズリズムを右手左手のユニゾンで延々と 刻んでいく部分が挿入されているのもユニークです。マズルカ風の中間部は、荒々しいポロネーズの主部とは打って変わって 非常に優美で平穏です。前半イ長調、後半ホ長調でほぼ同じ単位の楽想が2回繰り返されるのですが、その最後の方に出てくる 旋律に異常なほど胸を打たれるのは僕だけなのか、皆さんもそうなのか…。これは確認する術はないのですが、僕の場合、 この曲が特に好きな理由の1つがこの部分にあります。主部が再登場する部分は、主部の繰り返し単位(厳密には全然繰り返し ではありませんが)の1番目が省略された形で登場し、力強く激しい主題がそのまま曲の終わりに向かって突き進みます。 コーダは曲の規模からすれば短く静かですが、最後に力強い嬰へ音のオクターブで終わります。

「英雄ポロネーズ」(第6番)は、ショパンのポロネーズの中でも、非常に高い人気を誇る曲です。 力強く勇ましく、祖国ポーランドを愛する誇り高きプライドとして高らかに鳴り響く曲です。 序奏は力強い和音と右手の4度和音の半音階上昇パッセージのセットが4回登場しますが、これをしっかり弾くのがまず難題と して課せられます(3回目が断然難しいですね)。主部の変イ長調の第一主題は簡略版として登場し、次からがオクターブ全開の本格版と なります。両手とも跳躍が多いですが、一度位置感覚に慣れてしまえば、どうということなく弾けるようになります。 中間部は、左手のオクターブ連続部で、ホ長調で始まりますが、最後の方に嬰ニ長調(平均律では変ホ長調と同じ)に転調し、 ここで左手の動きは反時計回りから時計回りへと逆回転に切り替えます。これが2回繰り返されますが、腕力がない人や 脱力ができていない人は意外なほど疲れるようです。これが終わると、ト長調の静かで優美な楽想がしばらく続いた後、再び 第一主題が戻り、最後に華やかで短いコーダで全曲が締めくくられます。

「幻想ポロネーズ」(第7番)は、ショパンのポロネーズ中、例外的に決まった形式がなく、非常に自由な幻想曲風の 作品となっています。これはポロネーズという括りの中で位置づけるよりも、むしろポロネーズリズムがところどころに 現れる幻想曲と考えた方がしっくり来るのではないかと個人的には思っています。 本曲を捉える上で、ある程度曲の構成を明確にしておく必要があると思いますが、ここでは僕自身は次のような構成で この作品を捉えています(カッコ内の数字は小節数)。

1.序奏(ロ長調、1−23)
2つの和音の後、静かに天まで昇っていくかのような楽句が繰り返され、その後、 主旋律が右手や左手に交互に受け渡される不安定な和音の連続部になります。

2.ポロネーズ第1の主題提示(変イ長調、24〜51)
左手で明確なポロネーズ リズムの提示があり、続いて右手に変イ長調の第一主題が現れます(24小節目〜)。非常に転調が多く、しかも和声が時々刻々と 変化するので、その和声の微妙な移り変わりを敏感に感じ取り、アーティキュレーション、フレージングに反映させていく 必要がある部分で、冒頭からセンスが問われる、音楽的に厳しい難所となっています。

3. 経過句1(不明、52〜65)
右手に三度和音の 連続部があり、技術的には若干難しく書かれています(と言っても、作品25-6のエチュードから比べればはるかにマシですが)。

4.ポロネーズ第2の主題提示(変イ長調、ホ長調、66〜91)
ポロネーズリズムが現れる比較的快活な楽句で始まり、和音を含んだ独特のパッセージの上昇下降を挟んで 徐々に深刻さを増して、次の部分に突入します。

5. 経過句2(変ホ長調?不明、92〜107)
左手の絶え間ない3連符の伴奏、右手の16分音符の静かな音階上昇、その後、調性が非常に不安定な分裂的な楽想が現れます。

6. ポロネーズ第1の主題の再現(嬰ト短調、108〜115)
変イ長調で現れたポロネーズの第1の主題が今度は嬰ト短調で現れます。左手3連符に対して、右手はあくまでも4分音符、 8分音符ベースなので、複合リズムに気をつける必要があります。その不安定なリズム感は楽想の不安定さに呼応します。

7. 新しい主題の提示(変ロ長調、116〜127)
束の間の平穏なひとときがやってきます。しかしそれも長くは続かず、次の経過句に向かって「安定」が壊されます。

8.経過句3(不明、128〜147)
調性不明の経過句。右手は16分音符を刻み続けますが、非常に不安定な調性のまま劇的に高揚し、最後は右手だけのパッセージ となって徐々に静まり、次に続く安定部を迎えます。

9.コラール風楽想(ロ長調、148〜181)
主題が絶え間なく入れかわる本曲の中にあって、かなり長い間安定する部分です。巨視的に見れば、ポロネーズ典型の 「トリオ(中間部)」に相当するものと思われますが、構成上それは考えられないです。コラール風の瞑想的な楽想は 非常に平穏で落ち着いており、束の間ではありますが安らぎのひとときを与えてくれます(あくまで演奏者側の 立場での話。聴く側にとっては若干退屈でしょう?)

10.新しい主題の提示2(嬰ト短調、182〜198)
初めて登場する主題ですが、憂鬱に始まり徐々に憧れ、希望の芽生えとわずかなためらいとが交錯し、楽想の微妙な変化を 敏感に感じ取る必要がある部分です(それがまたショパンらしくてよいのですが)。

11.序奏への受け渡し経過句(不明〜ロ長調、199〜213)
左右両手に現れるトリルは、登場するたびに音の数が増えていき、最後は3度のトリル(但し右手のみ)となりますが、 (15)と(24)で弾けばよいので、技術的には難しくないです。

12.序奏の再現(ニ長調→ハ長調、214〜215)
序奏というのは普通再現されないものですが、この曲の場合は例外で、2小節だけ回想されます。

13.新しい主題の提示2の再現(ヘ短調、216〜221)
10.で現れた嬰ト短調の主題がここではヘ短調に移調して短く再現されます。

14.つなぎパッセージ(222〜225)
このパッセージは便宜上、13.に含めてもよかったのですが、明らかに13.とは異なる要素であるためここに切り分けました。

15.コーダへの経過句(226〜241)
右手が小刻みに6連符を刻むパッセージを主体としたテンポの速い経過句。徐々に高揚し、最後は両手の力強いユニゾンで 上昇していき、最高潮に達します。

16.ポロネーズ第1の主題再現(兼コーダ)(変イ長調、242〜249)
最初は静かに現れたポロネーズの第1の主題が、同じ調性でありながら、今度は非常に充実した和音の伴奏に支えられながら 力強く高らかに鳴り響きます。

17.コーダ(250〜288(最後))
16.の勢いそのままにさらに気分は高揚していき、息もつかせぬほどの素晴らしく華やかな演奏効果を上げながら、 最後に向かって勝利の歓喜が爆発します。しかし、最後にそのままの勢いで突っ走って終わるのではなく、 一度気分が落ち着いた後、左手のトリルが現れる楽句を経て、唐突とも思える力強い和音の一撃で幕を閉じる、という 終わり方もユニークです。あらゆる点においてショパンの独創性が強烈に現れた、非常にユニークな名曲ではないか、 と思います。

構成の把握の仕方については異論がある方もいらっしゃるかもしれませんが、一応の目安としてはこのように考えています。 何しろ、構成そのものが他に例を見ない完全に独創的なものであり、非常に「気まぐれ」な性質を持っているので、 各部分を細かく切り分けていくとこのような煩雑な構成になってしまうのは避けられないと思います。

アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22は、まず初めに1830年から31年にかけて華麗なる大ポロネーズが 管弦楽付きで作曲され、この作品の出版に伴い、前半の「アンダンテスピアナート」が後の1834年になって作曲されたようです。 「スピアナート」というのはイタリア語で「滑らか」という意味だそうですが、確かにト長調の流れるような左手の伴奏に 乗って奏でられる右手の旋律は非常に清清しく爽やかで、そこに一抹のメランコリーが漂う、何とも新鮮で魅力的な楽想となって います。しかし深刻さは全くなくあくまでも清潔な詩情を漂わせている点に注目しておきたいと思います。 この旋律がしばらく続くと、次は右手が16分音符で高音から静かに駆け下り、静かに上昇していく美しい部分に移ります。 その次に、和音進行を主体とするコラール風の「トリオ」がしばらく続き、その後で再び直前の楽想が繰り返され、 アンダンテスピアナートは静かに幕を閉じます。「華麗なる大ポロネーズ」が始まる前には本来管弦楽の序奏があるのですが、 現在は、ピアノで独奏されるケースが多くなっています。 メインの「華麗なる大ポロネーズ」は、まず初めに変ホ長調のポロネーズ主題が示され、それが非常に細かく装飾されながら 登場するたびに華やかさを増していきます。右手のパッセージには細かい3連符の連続や装飾的な和音がふんだんに盛り込まれ、 細やかで正確無比で均質なタッチ、技術が要求され、かなりの難易度です。中間部は77小節目、左右オクターブ進行によって 始まります。非常に細かな装飾的かつ技巧的なパッセージが連続し、これらを誤魔化すことなく弾くのは意外に大変です。 また右手には六度和音のレガート等も現れ、技術的に難しいパッセージが次々と現れます。 この中間部が終わると、再び変ホ長調のポロネーズの主題が戻ってきます(161小節目〜)。主部は全く同じような形で 再現され、最後に技巧的で華やかなコーダに突入し、右手が絶え間なく三連符を刻み、最後は華やかなアルペジオと 力強いオクターブで全曲を締めくくります(221小節目〜279小節目)。全曲を通して技巧的なパッセージのオンパレードで、 これらの細かく装飾的なパッセージを誤魔化すことなくきれいに弾くことは非常に難しく、ショパンのあらゆる作品の 中でも、バラード第4番、ピアノソナタ第3番、ピアノ協奏曲第1番、エチュード作品10-1、25-6などと並んで最も難しい曲 の1つに数えられます。

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