ショピニストへの道〜ショパンを極めよう〜 > ショパン弾きのピアニスト > 横山幸雄

横山幸雄(Yukio Yokoyama, 1971〜, 日本)

 
1990年第12回ショパンコンクールで1位なしの3位
8年に渡るショパン全曲演奏会企画実現(1992年〜1999年)
1日の演奏会でショパン全212曲を弾き通し世界ギネス記録に認定(2010年5月4日)
日本が世界に誇る超絶技巧・高性能マシン、これだけ弾ける日本人は他にいるのか?

横山幸雄さんのコンクール実績は、何と言っても、1990年第12回ショパンコンクールで3位入賞を果たしたこと だと思います。それ以前にも、ロン=ティボー国際音楽コンクール・ピアノ部門で第3位、ブゾーニ国際ピアノコンクールで 第5位という素晴らしい実績を残しており、我が国では実力派として知る人ぞ知る存在ではあったようですが、彼の名が 多くの人に認知されるきっかけとなったのが、ショパンコンクール上位入賞だったことは明らかでしょう。

また、この回のショパンコンクールは、前回の優勝者スタニスラフ・ブーニンの影響で、我が国におけるショパンコンクールの 認知度(知名度)そのもの が上がっていたことや、優勝者(1位)が出なかったことなども、彼の認知度と存在感を大きく高める 結果となったように思われます。コンクールでは、優勝者がどうしてもクローズアップされるものですが、 そのような皆の注目を一身に集める存在がいなかったことで、入賞者それぞれに光が当たることになったのでは ないか、と思います。また、ショパンコンクール上位入賞(3位以内)というのは、日本人の実績としても素晴らしく、 これは、1970年第8回ショパンコンクールでの内田光子さんの第2位以来、20年ぶり2度目の快挙としても注目されました。

一昔前までは、「日本人のピアノ演奏は目をつぶって聴いていると誰が弾いているのか区別がつかなくて画一的、教科書的すぎる」 と非難されていましたが、横山幸雄さんの演奏は、ショパン作品演奏に必要な自然な感覚とシャープに立ち上がる 美しい音色、圧倒的に正確無比な演奏技術に支えられた見事なもので、一聴しただけで、はっと惹きつけられる要素を多分に 持ち合わせた逸材であることは、僕の耳にも明らかでした。ショパンの伝統的な演奏様式には従いながらも、その中の 随所に彼の「個性」が感じられたのが大きな印象を残しましたし、この人はこの後もきっと大活躍するに違いない、とそのとき 強く予感させるものがありました。それ以来、同じ日本人として、僕の最も注目する日本人ピアニストとなったのが 横山幸雄さんでした。

横山幸雄さんのこのような素晴らしい才能がどのようにして花開いたのかに興味のある方も多いのではないか、と思います。 彼の母親が街のピアノ教師ということもあり、いつでもアップライトピアノに触って遊べる環境にはあったようです。 彼はそうしているうちにピアノに強い興味を示すようになって しまったということですが、彼は幼少期から本当にピアノが好きであったこともあり、親から強制されたことは一度もない、 と彼も著書の中で記しています。特に金持ちというわけでもない普通の家庭で自由に育った子供が、こうして音楽の才能を 花開かせていくという事実は、僕にとっても大いに勇気付けられるものですし(?)、また親近感も湧いてきます。 しかし、ピアノの才能だけはずば抜けていたらしく、小学生の頃から地方のオーケストラと共演するなど、少しずつ演奏活動 を始めていたそうです。そして、13歳のとき、学生コンクールの登竜門と呼ばれる全国学生音楽コンクールのピアノ部門で優勝に 輝き、専門周辺の各氏の間でその実力が大いに注目されることになります。

結果的に彼は、東京芸大付属高校に進学することになりますが、師事していた講師が変わるのを機に、フランスのパリ高等 音楽院に留学することを決意します。このときの待遇も素晴らしいもので、フランス政府の給費留学生という特待を受けています。 詳しい事情は分からないのですが、それだけ彼の才能が買われたのだと考えてよいと思います。 後になって、横山幸雄さんはこのことを振り返り、「パリに来たのは本当によかったと思う」と述べています。 その理由として、日本の音楽的教育の環境や姿勢を挙げています。日本にいると、とにかく自分を周囲に合わせなければ ならない、それができない人は周りから変わり者扱いされてしまう、このことは、個性が必要とされる芸術家全般にとって、 表現力を伸ばすのに大きな弊害になる、という趣旨のことを言っていました。また、日本では、自分の意見をはっきり言う 文化的土壌がなく、周りに合わせるなどして協調、融合、謙遜が重んじられるのも、個性を伸ばすためには大きなネックに なる、というのも彼の懸念材料の1つだったようです。ピアノ演奏は関係ないのではないか、との意見もあろうかと思いますが、 僕も、彼と同じで、知らず知らずの間に、「物言わぬ日本人」としての在り方が演奏にも反映されてくるのではないか、と 思います。

結果として彼はパリ国立高等音楽院で、ジャック・ルヴィエ、ヴラド・ペルルミュテール、パスカル・ドヴァイヨン等の 優れた教師に師事して、その素晴らしい才能に更なる 磨き上げをかけることになるのですが、フランスでは、音楽に限らずその他の分野でも、勉強する学生側には非常に 能動的、積極的な姿勢が求められ、「自分から学び取る」という姿勢が必要になるのだそうです。 また、フランスは非常に個人主義な国でもあり、日本とは違い、個性を伸ばすには最適の環境でもあるのだそうです。 そのような異文化に慣れるのは、言葉の壁の問題と同じくらい、我々日本人にとっては大変なことだと思うのですが、 もともと個人主義で一匹狼的な傾向のあった(と思われる)彼にとって、むしろフランスの文化の方がしっくり来る のではないか、とすら思えてきます。そのような素地があったからこそ、彼のピアノの才能が大きく開花したのでは ないか、と僕は考えています。

ところで、ショパンコンクールでの横山幸雄さんの快進撃は、非常に心強いものでした。コンクール前の取材インタビュー でも、「どこまで行けそうですか?」との質問に対して、「「行けそう」ですか?やっぱり本選に行くつもりなかったら 僕は受けませんから」と答えていたのが非常に強く印象に残っています。自信の大きさが伝わってくる発言ですが、 その日本人らしからぬ堂々とした態度とはっきりと物を言う姿勢には、正直ビックリしたのを今でもよく覚えています。 しかし、その桁外れの実力と覇気は、コンクールではっきりと証明されました。第1次予選は、ノクターン、エチュード、 スケルツォから1曲ずつというプログラムで演奏曲順は任意ですが、普通の人がノクターンから弾き始めるところを、 彼は、エチュード、しかも超難曲として知られるOp.25-6の三度のエチュードから弾き始め、聴く人に強烈なインパクトを 植えつけることに成功しました。それだけでなく、この難しいエチュードを非常に俊敏な指さばきで軽々と弾く姿勢も、 若手気鋭ピアニストとは思えないほどの風格さえ感じさせ、見事なものでした。第2次予選でも、エチュードの中でも 難曲として知られるOp.10-1,2を演奏するなど、彼の優れた技巧が多くの聴き手を驚嘆させ、加えて、自然で高度な音楽性 と音色の美しさで聴く人を惹きつけることに成功しました。

横山幸雄さんは、ショパンコンクール入賞直後から、華々しい演奏活動を始めることになったわけですが、1992年から 足掛け7年に渡って、半年に一回ずつ開かれていた「ショパン全曲演奏会」という大企画が大きな注目を集めることに なりました。彼は、あらゆる作曲家の中でも、ショパンを最も得意とするピアニストで、そのような彼の持ち味が いかんなく発揮できるのがこの企画だったのではないか、と思います。また、彼は、フランスの文化に慣れ親しみ (ワインのソムリエの資格も持っているそうです)、さらにフランス楽派の影響も強く受けていることもあり、 ラヴェルやドビュッシーなどのフランス近代も得意としています。

もう一つ彼の注目すべき偉業といえば、ベートーヴェン・ピアノソナタ全曲演奏会です。ベートーヴェンは長短様々な スタイルの32曲ものピアノソナタを作曲しており、それはそのままピアノのメカニズムの発展の歴史を刻んでいるとも 言われますが、これらの演奏が難しいピアノソナタ群を非常に短い期間で弾き上げ、ライブ録音を収めた全集のCDも 発売されました。これは彼の最近の多忙な演奏活動の中でも、多くのファンを驚嘆させる大変な大仕事ではないか、 と思います。

このように、ショパンコンクール後の横山幸雄さんの活躍は非常に目覚しいものです。コンサートピアニストとしても 世界各地で年間数十回に渡る演奏会をこなし、一方でレコーディングもソニークラシカルを中心に積極的に行っています。 ショパンイヤーの2010年、5月4日には、ショパン全212曲を1日の演奏会で弾き切ってしまう(もちろん暗譜で)という常人では 到底成し得ない偉業を達成し、世界ギネス記録にも認定されました。 僕はこれを後に知って、正直複雑な気持ちでした。というのも僕は横山幸雄さんの演奏を、あの遠い昔、1991年1月に ショパンコンクールのドキュメンタリー番組で初めて聴いて、「この人は違う」と興奮した時、 誰よりも感動させてくれるショパンの演奏に期待していたからです。 彼の活躍ぶりはまるでピアノをスポーツ競技か何かとの誤解を与える恐れがあるもので、 当初、僕の期待していた方向とややずれてしまっている感がありますが、 それでも彼は日本が生んだ世界に誇れる超絶技巧ピアニストとして今後も活躍が期待されます。 特に最近のラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のレコーディングなどでは、唖然とするほど素晴らしい演奏を聴かせてくれました。 既に40歳を過ぎていますが、彼の正確無比にして鋭敏な超絶技巧は恐ろしいほどに冴えわたり、 今後も超難曲を中心に彼の演奏に大きな期待がかかります。しばらくは彼の演奏会、レコーディングに目が離せない状況が続きそうです。 彼が「第2のポリーニ」にならないことを祈るばかりです。

参考図書:
「いま、ピアニスト」横山幸雄著
ピアノQ&A(上) 横山幸雄著
ピアノQ&A(下) 横山幸雄著

横山幸雄ディスコグラフィ

チャイコフスキー・ピアノ協奏曲第1番/ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番(小泉和裕指揮・東京都交響楽団)

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チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調Op.23
ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30
2012年2月28日に「横山幸雄デビュー20周年記念コンサート」の中で演奏された 3曲のピアノ協奏曲(もう1曲はラヴェルのピアノ協奏曲ト長調)からの抜粋です。
横山幸雄さんのチャイコフスキー・ピアノ協奏曲第1番は僕にとってこれが初めてではありませんでした。 実は今からさかのぼること20数年前、1991年、 つまり横山さんが1990年第12回ショパンコンクールで第3位を受賞した翌年、「東京陸上前夜演奏会」の中で 演奏しており、その模様も深夜TV放送されており、もちろん僕もリアルタイムで聴きましたし録音もして何度も聴いていました。 その時の演奏もテンポの速い若々しい演奏が魅力的でしたが、20年以上の時を経てここで聴くことができる同曲は、 僕の記憶にあるあの時の演奏とテンポはほとんど同じで、ますますダイナミックな迫力と情熱が増して、 音楽の振幅が大きくなっています。ライブ録音で無編集のはずなのにミスタッチがほとんどなく、 技術的な完成度が最高レベルなのはまさに驚異的です。 しかしこのCDでの聴きものは、さらに高い技術を要するラフマニノフのピアノ協奏曲第3番だと思います。 この曲は1990年代後半に「シャイン」という映画で取り上げられたことがあり、 その時にこの曲を知った方も多いのではないかと思います。 これをお読みの皆さんに対してはこの曲については改めて説明を要しないとは思いますが、 それでも釈迦に説法となることを覚悟の上で蛇足ながら少しだけ。 この曲は古今東西のピアノ協奏曲の中の最高峰・超難曲とされ、この曲を弾くためにピアニストを目指したというピアニストも いるほどで、ピアノ通の間では、超名曲とされる「ピアノ協奏曲第2番(ハ短調Op.18)」以上の超名曲という定評がある、 まさに超傑作です。僕の記憶が正しければ、ホロヴィッツやアルゲリッチは有名な第2番は少なくとも公の場では弾かず、 もっぱらこの第3番ばかり弾いています。横山幸雄さんは演奏会では第2番もよく弾いているようですが、 正規のCDで聴くことができるのはこの第3番です。非常に速いテンポで(全ピアニスト中、最速の部類)、 しかも圧倒的に正確無比である上に迫力満点でライブ録音ならではの感興に満ちていて、 このCDの最大の聴きものとなっています。最近の横山幸雄さんの知・情・技が混然一体となった充実ぶりを示す会心の演奏です。

ショパン・ピアノ協奏曲第1番/アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ(大友直人指揮大阪フィル)

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1990年第12回ショパンコンクールで第3位入賞を果たした翌年の録音で、横山幸雄さんのデビュー盤です。 彼は2曲のショパンのピアノ協奏曲のうち、特に第2番に強い思い入れと愛着を持っているそうで、個人的には第2番の方が 聴きたかったのですが、このCDは作品の人気度を考慮してのものと考えられます。 鋭く立ち上がる伸びのよい美しい音色で爽快に弾き進めていく演奏ですが、細部に対しても神経が行き届いており、 非常に完成度の高い演奏に仕上がっています。但し、ピアノ協奏曲第1番の第1楽章の第1主題の歌わせ方等、非常に個性的で 僕の感覚とは相容れないものを感じました。常にショパンの音楽のあるべき姿を追い求める横山幸雄さんの演奏にしては、 ずいぶんアクが強い節回しだな、というのが第一印象でした。その意味では、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ の方がしっくり来る演奏です。どちらの演奏も細部はともかく全体としては若々しく爽やかで、彼のデビューを飾るに 相応しい演奏に仕上がっていると思います。

ショパン・ピアノソナタ第2番・第3番・英雄ポロネーズ・スケルツォ第2番

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このCDも、前出のピアノ協奏曲第1番のCDと同様、ショパンコンクール第3位入賞の翌年の録音です。彼がショパンコンクール 第3次予選で弾いた「ピアノソナタ第2番」が高く評価されて、「最優秀ソナタ演奏賞」も合わせて受賞していますが、この CDには、音源こそ違うものの「ピアノソナタ第2番」が収録されている点が非常に興味深いのではないか、と思います。 また、さらに難易度の高い名曲、ピアノソナタ第3番も併せて収録されており、余白には英雄ポロネーズ、スケルツォ第2番 という一般に知られている名曲も収録されている、非常に内容の濃いCDとなっています。 横山幸雄さんらしい非常に几帳面な演奏で、細部に至るまで一点一画きっちりと弾き上げており、難しいパッセージ等も 曖昧さを全く残さない仕上がりとなっている点は注目に値します。非常に落ち着いて均整の取れた完成度の高い演奏で、 安心して聴くことができます。 但し、音色は硬く平坦にすぎて変化に乏しく、 特に緩徐部では退屈に感じてしまう人もいるのではないか、と思います。ただ、これは録音技術によるところも大きいと 思います。実際、その直後に彼がサントリーホールで弾いたピアノソナタ第3番の実演の放送(NHK-FM)は、このCDの演奏 内容をはるかに上回っているように感じられましたし、十分に魅力的なものでした。とにかく、ショパンのピアノソナタ第2番・ 第3番は両曲とも演奏が非常に難しく、ここまで高い完成度を持つ演奏には滅多に出会えないので、完成度、技術的正確さを 最優先にCDを選ぶ方には自信を持って推薦できる演奏です。

ショパン・エチュードOp.10,25(全24曲)&3つの新練習曲

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ショパンのエチュードは、ピアノ演奏のあらゆるテクニック、運指パターンが盛り込まれた難易度の高い曲集であるため、 驚異的な技術的正確さを売りにしている横山幸雄さんの演奏の長所が最も自然な形で発揮されるショパンの作品群ではないか、 と思います。ここでの横山さんの演奏は、以前の演奏同様、技術的な難所を細部までピシッと決めることを基本方針として 打ち出して、それにより、他のピアニストのCDとの「差別化」を図ろうという姿勢がはっきりと感じ取れます。 ショパンのエチュード集は多々ありますが、一聴してここまで欠点の少ない演奏に出会ったことはありません (技術的にはポリーニ盤よりも上)。 どんなピアニストにも技術的な得意、不得意があるため、ショパンのエチュードを全曲通して弾くと必ずその中に苦労の跡を 感じさせるものも出てくるものですが、横山幸雄さんの演奏を聴く限り、そのような痕跡を残す演奏は1曲としてないことは、 まさに驚異と言うべきでしょう。27曲通しての技術的完成度をこれほど高い水準で揃えるのは 並のピアニストには不可能と言い切ってよいと思います。その意味で、このCDの中で特に素晴らしいのは、Op.10-1,2,4、 Op.25-6,11などテンポの速い技術的に難しい作品で、爽快かつスピーディーに弾き上げながらも、技術的には全く非の 打ち所のない完全無欠の演奏です。ただ、一方で緩徐系の作品、例えばOp.10-3,6,Op.25-7などは、テンポの速い難曲に 比べるとやや平板、退屈で魅力が薄いような印象がありました。これは、音色のコクや変化に乏しいのと、ショパン独特の詩情を 深い呼吸で説得力を持って聴かせるにはまだ年齢的に若すぎることが原因として挙げられるのではないか、と思います。 ただ、全体としては非常に完成度の高いエチュード全曲盤となっており、是非、皆さんにも聴いていただきたい演奏です。

ラヴェル・夜のガスパール、水の戯れ、亡き王女のためのパヴァーヌ/ドビュッシー・映像第1集第2集

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16歳でフランスに渡り、パリ音楽院で学んだ横山幸雄さんは、フランス楽派の影響を強く受けており、ラヴェル、ドビュッシー等 のフランス近代の演奏も得意としています。ここに収められているのは、ラヴェルの夜のガスパール、亡き王女のためのパヴァーヌ、 水の戯れ、ドビュッシーの映像第1集・第2集、牧神の午後への前奏曲(横山幸雄編曲)です。キラキラと輝く磨き上げられた 美しい音色で 洗練の極地とも言える精緻で完成度の高い演奏を聴かせてくれます。音色、響きに対する卓越した鋭敏な感覚と抜群に精度の 高い演奏技巧、ペダリングの技術を持った彼にして初めて可能な演奏と言えるのではないか、と思います。演奏の極めて難しい ラヴェルの「夜のガスパール」などでは、振幅を大きく取り、クライマックスへの盛り上げ方も非常に華麗であり、高い 演奏効果を上げていますが、それにもかかわらず 技術的コントロールは細部に至るまで完璧そのものであり、制御が乱れることは一瞬としてありません。 どんな強奏でも響きは濁らずクリアであり、これは彼の抜群の耳の良さと集中力が最高の形で実を結んだ結果だと思われます。 録音の音質も極めて優秀で、ラヴェル、ドビュッシーに必要な繊細で洗練、コントロールされた響きやその微妙な変化が 聴き取れます。内容的には上記3枚のCDのいずれをも上回る演奏だと個人的には感じました。

ショパン・バラード全曲・即興曲全曲・幻想曲

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これは、横山幸雄さんの近年の目覚ましい成長ぶりが記録されたディスクだと思います。 それまでの彼は技術的な正確さを優先するあまり、どちらかというと対象物(演奏曲)から一歩身を引いて冷めた目で 客体として見つめて、どこまでも完璧かつ冷静に弾き切るという傾向があったように思われますが(これはこれで 非常に素晴らしい姿勢なのですが)、このディスクでは、彼本来の正確無比なテクニックはそのままに、そこに 作品を見つめる眼差しの「熱さ」が加わり、非常に鋭い踏み込みで演奏する姿勢に変わってきているように思います。 ショパンがバラードや幻想曲に盛り込んだドラマ性を見事なスケールで描ききっており、ピアノから引き出す表現力に 格段の進歩が見られるように感じます。彼はいわば、ここで従来の冷静沈着な演奏スタイルから脱皮して 一回りスケールの大きなピアニストへと生まれ変わったのではないか、と思えてきます。 即興曲も非常に美しく精緻な演奏ですが、こちらの方は技術的に余裕がありすぎるようで、バラードで聴かせてくれた 緊迫感のある大迫力のピアノが少々なりを潜めて、やや平板な流れに陥る箇所もあるように感じました。技術的に 易しい曲を「聴かせる」音楽表現が従来からの彼の課題であることは常々認識していましたが、このディスクでは、 少しずつ良い方向に向かって成長しつつあることを感じさせてくれる点は非常に頼もしく感じます。また、「幻想即興曲」は ショパンの自筆譜と改訂版(現在よく聴かれるもの)を考慮し、彼自身の手によって折衷が試みられているようで、 非常に興味深い演奏です。なお、このCDのタイトルは「幻想即興曲」となっているようですが、そのために、僕は 「横山幸雄のショパン・バラード集」(←このCDのこと)を探してCD陳列棚を数分間眺めて、もう少しであきらめる ところでした(これは余談ですが)。

リスト・超絶技巧練習曲全曲

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このディスクは、古楽において数々の名盤の制作に携わってきた名プロデューサーであるヴォルフ・エリクソン氏の企画に よって進められた録音で、彼が最も注目する日本人ピアニストとして、他ならぬ横山幸雄さんが大抜擢された点がまず注目され ます。彼の技術が抜きん出ていることはもちろん、それだけでなく、音色に対する研ぎ澄まされた鋭敏な感覚と卓越した 自然で高度な音楽性が、エリクソン氏を完全に魅了したからとのことです。 ところで、リストの超絶技巧練習曲は、技術的な難易度が驚異的に高いのは皆さんもご存知の通りで、そのため古今東西数々の ヴィルトゥオーゾピアニストが 技を競い合うように録音を試みていたようですが、あまりに超絶技巧を追求しすぎて音楽表現が疎かになったり、または、 技術的な完全再現を実現するに至らなかったりと、内容的に満足のいく録音が決して多くない点もこのディスクを制作する大きな 動機となったようです。横山幸雄さんは、このリストの超絶技巧練習曲を、非常に速いテンポでダイナミズムを非常に大きく 取ることによって一種大胆とも思える鋭い踏み込みで弾き上げていき、その体当たり的な気迫と集中力の高さから生まれる緊迫感 は凄まじいものですが、技術的な精度は極めて高く、全く文句のつけようの ないほどの最高水準の完成度を実現しています。また、どんな強奏になっても非常に純度の高い洗練された音色と和音の響きの バランスが保たれているのは驚異という他なく、そこにある種の余裕すら漂うのには、「感心」を通り越して半ば呆れてしまうほど 見事なものです。そこには、リストの超絶技巧練習曲各曲の中に本来存在している真に芸術的な味わいや奥行きの深さも 見事に表現されており、テクニックの披露だけで終わってしまうことの多いこれらの作品の内なる魅力を再発見させて くれる演奏としても非常に高く評価できると思います。このディスクは 第25回国際F.リスト賞レコードグランプリ最優秀賞を受賞しているということだそうで、横山幸雄さんの数あるディスクの 中でも最高傑作として位置づけられる名盤とのことです。

横山幸雄・その他のディスク(管理人が未聴のもの)

ベートーヴェン・ピアノソナタ「熱情」、「テレーゼ」、「ハンマークラヴィーア」

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ショパン・ノクターン第1集

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ショパン・ノクターン第2集

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グリーグ・ピアノ協奏曲/抒情小曲集

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ベートーヴェン12会〜ベートーヴェン:ピアノ作品全集(12枚組)

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ベートーヴェン・ピアノソナタ「月光」、「熱情」、「悲愴」、「テレーゼ」(全集からの抜粋)

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シェール・ショパン(ショパン作品選集)

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収録曲:
1.ポロネーズ第7番変イ長調op.61「幻想ポロネーズ」
2.マズルカ第11番ホ短調op.17-2
3.マズルカ第21番嬰ハ短調op.30-4
4.マズルカ第29番嬰ハ短調op.41-4
5.マズルカ第38番嬰ヘ短調op.59-3
6.マズルカ第41番嬰ハ短調op.63-3
7.マズルカ第49番ヘ短調op.68-4
8.ワルツ第1番変ホ長調op.18「華麗なる大円舞曲」
9.ワルツ第6番変ニ長調op.64-1「小犬のワルツ」
10.ワルツ第7番嬰ハ短調op.64-2
11.エチュード第3番ホ長調op.10-3「別れの曲」
12.エチュード第12番ハ短調op.10-12「革命のエチュード」
13.プレリュード第15番変ニ長調op.28-15「雨だれのプレリュード」
14.タランテラ変イ長調op.43
15.子守歌変ニ長調op.57
16.舟歌嬰ヘ長調op.60

レザムルーズ(ラヴェル&ルクー・ヴァイオリンソナタ他、vn:矢部達哉)

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エシェゾー(フランク&フォーレ・ヴァイオリンソナタ他、vn:矢部達哉)

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ベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集(ジャパン・チェンバーオーケストラ)

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Yukio plays Yokoyama

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更新履歴
2002/10/** 初稿
2005/10/07 全面更新

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