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ユンディ・リ(Yundi Li、1982〜、中国)

 
20世紀最後の記念すべき2000年ミレニアムに開催された第14回ショパンコンクールで優勝した、 新しい世代を代表するスターピアニストです。 コンクール出場時17歳、コンクール中18歳となった彼の優勝は、史上最年少記録となりました。 これまで、ポリーニ、ツィマーマンが18歳優勝で最年少記録でしたが、彼はその記録を見事塗りかえたのです。

ユンディ・リの演奏の特徴は、きわめて明快でケレン味のないスマートな表現、若々しくフレッシュな 感覚、そして、ピアノから非常に美しい響きを出すための、音色に対する研ぎ澄まされた感覚などだと思います。 その優れた演奏技巧を駆使して、爽快に弾き飛ばすリストのラ・カンパネラやショパンの木枯らしのエチュードを 聴いて、ピアノというのは芸術というよりスポーツだと感じさせてしまうのは、彼の若さのなせる業と言えると 思います。

彼がショパンコンクールで優勝できたのは、その類まれな演奏技巧と音色の美しさだけでなく、そのスター性に あったと言われています。彼が本選で弾いたショパンのピアノ協奏曲第1番の第3楽章の最後の何でもない部分で 音を外してしまうハプニングがあり、最後はバラバラだったという話ですが、何事もなかったかのように 取り繕って、いかにも余裕たっぷりに弾ききっているように「見せる」技は、審査員一同、皮肉な意味も込めて 感心したそうです。こういった、役者性、スター性というのは、努力の結果、身につくものではなく、もって生まれた エンターテイナーとしての立派な才能だと思います。ユンディ・リの将来性の一端をここに見ることもできるのです。

また、彼は、SMAPの木村拓哉さんに似ているというマスコミの過大宣伝なども手伝って、我が国の若い女性を 中心に、大変な人気を集めています。その熱狂ぶりは、かつての優勝者スタニスラフ・ブーニンをも凌いでいる と言っても過言ではないと思います。一部の熱烈なファンを中心にミーハー族(!?)をも獲得してしまう ユンディに羨望の眼差しを向ける男性も多くいるようです(僕を含めて)。 デビューアルバムからして、CDのジャケットのつくりに、思わず苦笑いしてしまったのは僕だけではないはずです。 まるで男性アイドル、映画俳優なみです。最近発売されたリストのアルバムも超特大ポスターつきとなっていて、 我々男にとっては、「また余計なものがついてきた」という感じで、これまた苦笑いです(苦笑)。

確かにルックスは、並以上のものといえるでしょうが、彼の魅力は、その若々しいピアニズムにあるという ことを忘れずにいたいものです。彼がここからどのように成長し、成熟した中身のある演奏を聴かせるピアニストになって いくか、目が離せないですね。

ユンディ・リ・ディスコグラフィ(所有CD)

ショパン・ピアノソナタ第3番、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ他

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15年ぶりにショパンコンクールで優勝したユンディ・リのデビューアルバムで、全てショパンの作品が収められています。ショパン コンクールの予選でも演奏したピアノソナタ第3番、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ、木枯らしのエチュードの他、 エチュード作品10-2、作品10-5「黒鍵」、ノクターン第1番、第2番、第5番、幻想即興曲といった、比較的人気の高い作品を 演奏しています。ユンディ・リの演奏スタイルは、美しい音色と高い技術に支えられた、ごくオーソドックスなもので、 若々しくフレッシュでスタイリッシュな演奏が大きな魅力だと思います。音楽表現の「深み」や「コク」、聴く人の心に訴える圧倒的な表現力 と言ったものを 彼に求める向きもありますが、弱冠18歳の彼にそうしたものを求めるのは、やや酷なのでは?と個人的には思います。 これほどの高度なテクニックを持ち、美しく耳に心地よいショパンを聴かせてくれる逸材はそう多くないのではないかと思います。 僕などは、ここで聴いた「木枯らしのエチュード」の完璧さに、正直言葉を失いましたし(笑)。今後の彼の活躍を期待させるに 十分なデビューアルバムだと思いました。…でも一言だけ言わせてもらうと、ジャケットのつくりはいただけないな〜(笑)。 ユンディ・リはアイドルではありません!れっきとしたクラシックピアニストなのですから!(笑)

リスト・ピアノソナタロ短調、ラ・カンパネラ他

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収録曲は、全てリストの作品で、ピアノソナタロ短調、ラ・カンパネラ、献呈、愛の夢第3番、タランテラ、リゴレット・パラフレーズ を演奏しています。非常に高度な技巧を生かしきったリスト演奏ですが、多くの腕達者な若手気鋭ピアニストにありがちな、単なる 暴走、自己満足、あるいは腕自慢で終わってしまわないところが、ユンディ・リの素晴らしさだと思います。ピアノから出す響きは 十分に配慮して整えられて、その やや薄めの響きから醸し出される透明感は、リストの作品のテクスチュアの美しさを十分に引き出していて好感が持てます。 ピアノソナタロ短調の緩徐部でも、独特の「詩情」を微妙なニュアンスとともに醸し出していて見事ですし、ラ・カンパネラの終結部では、 速いテンポで爽快に一直線に弾き飛ばす弾き方がスポーティーな魅力に満ちています。 全体的に、リストの曲芸的ピアニズムを前面に押し出すのではなく、謙虚な姿勢で作品それ自体の持つ美しさを引き出そうとする真摯な 態度が感じられて、非常に好感の持てる演奏となっています。ここから彼がどのように成長していくのか、楽しみですね。

ショパン・スケルツォ第1番〜第4番&即興曲第1番〜第3番

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ショパンのスケルツォ集&即興曲集。幻想即興曲が抜けているのは、第1作のショパン・デビューアルバムで既出だからでしょう。 明るく輝かしい音色、粒の揃ったタッチで高水準のスケルツォを聴かせてくれます。ショパンの詩情に溺れることなく、かといって、 腕自慢に走りすぎることもなく、響きやテンポのバランスを重視して1曲1曲、極めてオーソドックスに美しく弾き上げていきます。 強奏でも、決して響きのバランスが崩れることがなく、しっかりと制御できているのは、「専門的に訓練された耳」を持っている 何よりの証拠でしょう。 こういった演奏は往々にして「可もなく不可もない教科書通りの悪い意味での模範的演奏」という傾向に陥りやすいのですが、ここでのユンディ・リの演奏の場合は、 細部の彫琢、制御を心がけることにより、「品のよさ」が自然と滲み出る演奏となっていることが大きな特徴と言えると思います。 即興曲集では、従来の彼と比較すると、より柔軟で板についた伸縮自在のテンポルバート(でも理に適っている)で、表現のスケールが 大きくなっていて、いわゆる「優等生的な」ピアニストから脱皮しつつあるのが聴き取れます。我々男性の聴き手は、彼のルックスなどの 先入観から、彼に対して必要以上に手厳しい評価を下してしまいがちですが、客観的に見れば、彼ほどピアノ演奏に対してしっかりとした 向上心と真摯な態度を持った若手ピアニストは少ないのではないかと思います。表現の成熟度の面から見れば、まだまだ課題は多い ですが、現時点でこれだけのものが表現できれば今後の期待大だと思います。

ユンディ・リその他のCD(管理人が未聴のもの)

ユンディ・リ・イン・ウィーン

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収録曲:
スカルラッティ・ソナタ ホ長調 K.380
スカルラッティ・ソナタ ト長調 K.13
モーツァルト・ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330
シューマン・謝肉祭 作品9
リスト・スペイン狂詩曲

ポートレイト

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収録曲:
1.ショパン: アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22
2.ショパン: 夜想曲 第2番 変ホ長調 作品9の2
3.ショパン: 夜想曲 第5番 嬰ヘ長調 作品15の2
4.ショパン: 練習曲 第5番 変ト長調 作品10の5「黒鍵」
5.ショパン: ワルツ 第5番 変イ長調 作品42
6.ショパン: 幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
7.シューマン: トロイメライ(「子供の情景」から) 作品15の7
8.シューマン・「謝肉祭」から 第12曲「ショパン」
9.リスト: ラ・カンパネラ(パガニーニの主題による大練習曲 S.141から第3番)
10.リスト: 献呈 S.566
11.リスト: 愛の夢 第3番 S.541
12.リスト: リゴレット・パラフレーズ S.434
13.モシュコフスキ: 15の巨匠的練習曲 第6番 ヘ長調 作品72の6
14.中国民謡/編曲林尓耀: サン・フラワー(向阻花)

トロイメライ~ロマンティック・ピアノ名曲集

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収録曲:
1.ワルツ第5番変イ長調op.42(ショパン)
2.「謝肉祭」~ショパンop.9-12(シューマン)
3.夜想曲第20番嬰ハ短調遺作(ショパン)
4.サン・フラワー(向阻花)(中国民謡/林尓耀編)
5.前奏曲第4番ホ短調op.28-4(ショパン)
6.「子供の情景」~トロイメライop.15-7(シューマン)
7.マズルカ第22番嬰ト短調op.33-1(ショパン)
8.マズルカ第23番ニ長調op.33-2(ショパン)
9.モシュコフスキ: 15の巨匠的練習曲 第6番 ヘ長調 作品72の6

更新履歴
2002/10/** 初稿
2005/07/03 CD評追加

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