譜読みの重要性〜新レパートリー開拓のために〜
ピアノレッスンの大半は、新しい曲を弾いてはマルをもらい、また次の新しい曲に着手、という流れで進んでいきますよね。
新曲に着手するときに避けて通れないのが、まさしく「譜読み」です。
この「譜読み」がスムーズに進めば、その分、短い時間で技術的課題の消化に取り掛かれることになりますし、
完成までの時間も短くてすむことになります。従って、同レベルのテクニックを持つ2人がいたとしても、
譜読みの能力に差があれば、やがてそれは進度の差となって表れ、
やがてそれがテクニックにおける差となる可能性が高いことも間違いないと思います。
これは、ピアノ演奏技術、新レパートリー獲得において、譜読みの能力がいかに大きなウエイトを占めるかを
物語っています。譜読みアレルギーの人の場合、大変で面倒な譜読みをやっと終えてレパートリーに
加わった曲は大事にする一方、新レパートリーの開拓、獲得には消極的な姿勢になりますよね。
やはり、譜読みが苦手な人は、いずれ、その苦手を克服しなければ、急速な上達は難しいと考えられます。
ツェルニー練習曲
特に、ピアノ学習者は、一部の例外を除いて、皆、寝ても覚めてもツェルニーの膨大な練習曲に向き合いながら
貴重な時間を譜読みとその後の練習に割いていくことになります。完成までに数ヶ月かける場合がある
ピアノピースと違い、ツェルニーの練習曲は1週間ないし2週間に1曲のペースで進んでいくことになるため、
完成までにかかるわずかな時間の差が、その後、膨大な進度の差となって表れることになります。
「ツェルニーは技術の習得だけでなく、譜読みの能力の習得も目的の1つでしょう?」と言われれば
それまでですが、明らかにツェルニーの練習曲は、指の訓練に重点を置いた構成になっています。
譜読みの訓練は、副産物に過ぎない、という位置づけではないでしょうか?
そもそも、譜読みが難しい曲は少ないですしね。
何か言っていることが矛盾しているようですが、譜読みが難しくないといっても、それを何の苦もなく
さらりと弾けてしまう人と多少時間がかかる人とで、その後の進度の差が歴然としてしまうのは明らかですよね。
曲数が多ければ多いほど、譜読みの能力がそのままその後の進度、結果に直結してしまうわけです。
憧れの曲に手が届かないと考える理由は?
「あの曲が弾けるようになりたいけど、今の私には到底無理だな…」という、いわゆる「憧れの曲」は、
ピアノを習った経験のある人なら誰にでもあると思います。その憧れの曲が、今の自分にとって
全く手が届かない、いわば「高嶺の花」的存在、憧れ以外の何物でもない存在、と考えているとして、
果たしてそのように考える理由は何だと思いますか?「そんなこと、考えたこともない、ただただ
今の自分には弾けるはずがないと、天を仰ぐだけ」という声が聞こえてきそうですが、よく考えてみてください。
案外、技術的には弾けるレベルになっているのではないですか?もしかしたら、譜読みがネックになって
その曲に近づけずにいるのではないですか?
例えば、初心者の人が憧れるショパンの名曲として、雨だれの前奏曲やノクターン2番を挙げる人は多いですが、
この2曲がいまだに弾けないと思っている方は、このような曲に現れる指の動き、全く出来ないレベルでしょうか?
案外、そうでもないと思います。♭3つの変ホ長調や♭5つの変ニ長調にあまり馴染みがなく、
黒鍵が多い曲であるために、譜読みが思うように進まずに断念しているというのが真相に近いのではないでしょうか?
これらの曲に限らず、多くの人が敬遠している「憧れの曲」は、
あまり極端な指の運動神経を必要とされないにもかかわらず、♯や♭が多い調性である上に、ナチュラルなどの
変音記号、臨時記号が多く譜読みがネックになって、それが理由で多くの人にとって「憧れの曲」という位置づけになっている
のではないか、と僕は考えています。求められている技術的課題は多くない曲であっても、です。
でも、考えてみれば、これは非常にもったいないことです。
逆に言えば、こういう曲は譜読みの課題さえ乗り越えられれば、ものにすることができる曲でもあるわけですよね。
というわけで、憧れの曲に向かってただ闇雲に練習をするのではなく、一度立ち止まって、
その曲が今の自分の力量を超えると考える理由を、再度、冷静によく考えてみることをおすすめします。
案外、効率の悪い努力をしていることに気付くことも多いと思います。
譜読みの遅さは曲の完成度に現れるという現実
譜読みが遅いと、進度が遅くなる、新レパートリーの開拓に消極的になる、と説明しましたが、
実は、それだけでなく、仕上げの完成度が甘くなる、という別の問題も生じてくることが多くあります。
何故かと言うと、譜読みが遅ければその分、「譜読み→音取り→確認」の作業の面倒な分、この作業回数が減り、
記憶の定着度が低くなるから、です。逆にこの作業がスムーズに行けば行くほど、記憶の定着度が高まり、
高い完成度が期待できるようになります。譜読みの遅さは、色々な弊害を引き起こす元凶となることが
これでお分かりになったかと思います。
譜読みを得意にする方法
以上、譜読みが遅い、苦手な人に起こる問題について色々な側面から議論してきましたが、
ここまで書けば、やはり誰でも譜読みアレルギーを克服して、ライバルをゴボウ抜き(?)にしたり、
憧れの曲を弾けるようにしたり、積極的に新レパートリーを獲得したりして、気持ちよくピアノを弾きたい、
と思うのではないでしょうか?もっと速く譜読みができるようになりたい、という気持ちを強く持って
いる方は、是非、その意識を持って、克服する方法を
探してみてください。僕がおすすめしたいのは、長短24調の音階(スケール)をさらって、
各調性の♯や♭の数と位置とピアノの鍵盤の位置関係を頭の中に入れてしまう方法です。
これさえ覚えれば、譜読みの速度が格段に速くなることは間違いない、と思います。
譜読みが苦手で悩んでいる方は、一度試してみる価値はあると思います。
ここでは鍵盤の図解ができないのが残念ですが、参考までに、長短24調と、♯、♭の数の関係について
表にまとめておきます。「トニイホロヘ」や「ヘロホイニトハ」という暗記法に
頼らなくても、この位置関係が各24調について条件反射的に出てくるようになるまで、
ひたすら繰り返して頭の中に叩き込んでしまってください。
効果覿面となること請け合いです!
♯or♭ | 変音記号数 | 長調 | 短調 |
--- | 0 | ハ長調 | イ短調 |
♯ | 1(ファ) | ト長調 | ホ短調 |
2(ファ、ド) | 二長調 | ロ短調 |
3(ファ、ド、ソ) | イ長調 | 嬰へ短調 |
4(ファ、ド、ソ、レ) | ホ長調 | 嬰ハ短調 |
5(ファ、ド、ソ、レ、ラ) | ロ長調 | 嬰ト短調 |
6(ファ、ド、ソ、レ、ラ、ミ) | 嬰へ長調 | 嬰二短調 |
♭ | 1(シ) | へ長調 | ニ短調 |
2(シ、ミ) | 変ロ長調 | ト短調 |
3(シ、ミ、ラ) | 変ホ長調 | ハ短調 |
4(シ、ミ、ラ、レ) | 変イ長調 | へ短調 |
5(シ、ミ、ラ、レ、ソ) | 変二長調 | 変ロ短調 |
6(シ、ミ、ラ、レ、ソ、ド) | 変ト長調 | 変ホ短調 |
※上の表を見ると、調整が全部で26調あるように見えますが、♯6個の嬰へ長調(嬰ニ短調)と♭6個の変ト長調(変ホ短調)は
平均律では事実上全く同じ調性なので、この重複分を差し引けば、全部で24調となります。
同じ変音記号の種類と数に対応する調性は、長短それぞれ1つずつあり(例えばト長調とホ短調)、
これらを「平行調」と呼びます。平行調の主音は、短調が長調の短3度下(つまり半音3つ分)下になる
という規則があります。また♯はファを起点として、5度上に1つずつ付いていきます(ファ→ド→ソ→レ→ラ→ミの順)。
一方、♭はシを起点として、5度下(ということ4度上)に1つずつ付いていきます(シ→ミ→ラ→レ→ソ→ドの順)。
このような規則性はあるものの、できるだけこの規則性に頼らなくても条件反射的にスラスラ出てくるまで
反復練習して、24調全てを自分のものにしてしまうことをおすすめします。
♯、♭アレルギーはきっと解消すると思います。
詳しい内容については、楽典の項目で説明したいと思います。