ピアノレッスンにおける練習曲の位置づけ
「教本(練習曲)との正しい付き合い方」などと言うと、あたかも絶対に正しい唯一の方法があるかのような印象を
与えてしまうかもしれませんが、実はそうではなく、あくまで僕自身の持論に過ぎないことをまず初めにお断りしておきたいと思います。
この項目で述べることは僕自身の体験から感じたこと、考えたこと、経験則として
導き出されたことで、ピアノ教育の場で一般的に推奨されていることとは異なる可能性もあることも付け加えておきます。
「練習曲」と言えば?
「練習曲」というと、皆さんはどのような曲集を思い浮かべるでしょうか?
バイエル、ハノン、ツェルニー、ブルグミュラーなどなど、曲集の名前はたくさん挙がりますね。
その中でも、皆さんにとって最も付き合いが長く深いのが、ツェルニーではないでしょうか?
まずピアノの習い始めにバイエルなどから入り、遅い人でも2年から3年でツェルニーに移るのが一般的なコースです。
その後、ツェルニー100番→30番→40番→50番と、ツェルニーを軸としてピアノレッスンが進んでいくのが一般的です。
つまり、日本のピアノ教育現場では、ピアノ講師、生徒ともにツェルニーに束縛されているとさえ言えるのが現状です。
誤解を恐れず極論すると、ここでのテーマは「ツェルニーの練習曲といかに付き合うか」と言い切っても良いと思います。
「ピアノの上達のためにツェルニーの練習曲なんて必要ない」と言い切る人は少ないと思いますが、
ここでのテーマはツェルニーの練習曲が必要かどうかではありません。ツェルニーの練習曲との上手な付き合い方、距離の取り方です。
しかしこれは一概には言い切れないのが現実で、現在、指導者のもとでピアノを習っている方は是非、その指示に従って下さい。
あまり正しくない方法でツェルニーの練習曲を使っている指導者も少なくないとは思いますが、
僕はそこに干渉できる立場にはないので、それ以上言うことはできません。
従って、ここから先は僕自身の個人的な意見です。
ツェルニー100番練習曲を全曲弾くのは百害あって一利なし
バイエルが終了して、バイエルに代わる次の曲集として最もよく使われるのは、ツェルニー100番練習曲ではないかと思います。
しかし、これをまともに100曲全て課題に出されると、生徒本人はやる気を失って脱落してしまいます。
管理人のピアノ歴でも書いていますが、僕がこの100曲のうち、課題に出されたのは半分強、曲数にすると60曲程度だったと思います。
これを1曲も飛ばさずに全曲弾かされていたら、どこかで挫折していたか、あるいはその分、そっくりそのまま進度が
遅れてしまっただろうと思います。このような僕の経験をもとに一つの教訓にすると、
上記の小タイトルにも書いたように、「ツェルニー100番練習曲を全曲弾くのは百害あって一利なし」です。
さすがにこの曲をほとんど弾かずに次のツェルニー30番に行ってしまうのではバイエルとの技術的レベルの乖離が大きすぎるので、
あくまで程度問題です。僕自身の個人的意見では、ツェルニー100番練習曲のうち実際に弾くのは50曲程度が妥当なのではないでしょうか。
ツェルニー30番練習曲・ツェルニー40番練習曲は是非とも全曲を
ツェルニー100番練習曲を終えると、それに代わる教則本として一般的に使われるのはツェルニー30番練習曲です。
その後に使われるのがツェルニー40番練習曲です。
ツェルニー100番練習曲とは違い、この2つの練習曲集は曲数も少ないことですし、1曲1曲技術的な課題をこなすことで
得られるものが多いため、曲を飛ばすことなく全曲弾いてほしいと思います。
ツェルニーの練習曲は、特にベートーヴェン、リストを弾くための技術的な基礎を身に付ける上で極めて重要です。
このツェルニー30番練習曲・40番練習曲を終えると中級を突破し、上級者への仲間入りを果たします。
ツェルニー50番練習曲・ツェルニー60番練習曲は必要に応じて
ツェルニー40番練習曲を終えると、それに代わる教則本として一般的に使われるのはツェルニー50番練習曲です。
ツェルニー30番練習曲・40番練習曲は、僕の中でピアノ上達において必須・必修という位置づけですが、
ツェルニー50番練習曲は必ずしも必修というわけではありません。
ただ僕は個人的にはツェルニー50番練習曲は全曲弾くことをお奨めします。
ツェルニー40番練習曲よりも1曲の長さが長くなり技術的にも難しくなりますが、
その分、技術的に得るものは多く、これを全曲弾くことで得られる対価も大きいと思います。
ただこの辺りのレベルになると、ツェルニーの練習曲だけでなく、クラーマー=ビューロー、モシュコフスキーの練習曲など、
それに代わる、いやそれ以上に練習の効果のある練習曲集があるので、そちらに移行していく方が良いかもしれません。
ショパンのエチュードは極めてハイレベルですが、その中でも比較的易しい作品もあるので、
そのような作品をこの時期から弾いていくのも極めて有効です。
ツェルニー50番練習曲が終わると、それに代わる教則本として一応存在するのがツェルニー60番練習曲ですが、
一般的にこの曲集はあまり使われないようです。既にピアノ演奏の基礎はこの時点でかなり出来上がっていることが多いので、
それ以上、ツェルニーの練習曲を使う必要はなくなっています。それよりもショパンのエチュード、バッハの平均律クラヴィーア曲集、
古典派の難しいピアノソナタなどを集中的に勉強していく方が、技術的にも音楽的にもより高いレベルの演奏能力が
獲得できるという考え方が主流です。
ここでは、ピアノ学習者及びピアノ講師を対象に記事を書きましたが、次の項では、
独学者の場合、これらの練習曲とどのように付き合うべきかについて書きたいと思います。