ピアノ練習法・上達法〜誰も教えてくれなかった上達の方法 | |
〜1曲を仕上げていく過程その5〜暗譜の方法・コツ〜
暗譜とは? 暗譜って何?というと、何を今さらと言う人も多いと思いますが、この疑問について改めて振り返りながらよく考えることが、 実は暗譜するためのよりよい方法を考えることにつながります。 暗譜というのは言うまでもなく、「楽譜」を「暗記」することです。 しかしピアノ演奏の場合、暗譜していることだけでは不十分で、 暗譜した記憶を演奏中にリアルタイムに引き出せる状態にしておかなければなりません。 しかも本番の演奏はいつも弾き慣れたピアノと違うピアノを弾くことが多く、 練習とは状況が異なり多かれ少なかれ緊張するため、 いつどんな状態でも記憶が飛ばない確実な暗譜が必要になります。
暗譜は何故必要なのか? ピアノ独奏は原則として本番は譜面を見ず暗譜で演奏します。 暗譜で演奏するはしりとなったのは名作曲家フランツ・リストだったようです。 リストは超絶技巧で華やかな演奏で聴衆を魅了しましたが、美男子でもあり、 この時代からは演奏だけでなくビジュアルも重視されるようになり、その際、楽譜を見ながら弾くと 見た目のパフォーマンスも悪く(要するに格好が悪く)、そのために暗譜で弾くことが慣習となったようです。 暗譜が苦手な人は「余計なことを・・・」と思われるかもしれませんが、 それはロマン派という時代の要請でもあったでしょうから、リストが暗譜を慣習化しなかったとしても、 いずれ誰かが(ショパンかも?)慣習化したのではないかと考えられます。 今の時代、演奏会でピアニストは暗譜で弾くことが暗黙の了解事項になっていますが、 中には暗譜で弾くことは意味がないと言って、本番の演奏会で楽譜を持って舞台に登場する 大物ピアニストもいます。しかしそれは大物ピアニストに限られたことで、 僕たちが人前で譜面を見ながら演奏したとしたら、それだけで「勉強不足」、「練習不足」、 「聴くに値しない」という烙印を押されてしまうことは、残念ながらほぼ確実です。 つまり、ピアノ学習者は本番では暗譜で弾くことが求められます。 このようにピアノを演奏する人を悩ませる忌まわしき暗譜・・・ それでは、そのような暗譜はどのようにすればできるのでしょうか?それがここでのテーマです。
暗譜ができなくて悩んでいる人は多い 「なかなか暗譜ができない」、「どうやったら暗譜できるのか」と悩んでいる方は多いと思います。 効果的な暗譜の方法はないだろうか、と思案している人は結構多いようです。 このように暗譜の方法論に関する需要は結構多いのに、暗譜の方法について解説しているサイト、ページは意外に少なく、 暗譜の方法に関しては、このインターネットの情報過多、情報氾濫の時代にも供給が需要に追い付いていないと感じています。 これは一つには記憶力が悪い人はそれがネックになって伸び悩んでいることに気付かずに 結構早い段階で挫折してピアノをやめてしまうことに一因があるのではないかと思います。 そのような人は暗譜の方法論について考える機会すらやってこなかったことになりますが、 その一方で全く挫折せずにピアノで上級レベルまで到達できた人は、 知らない間に記憶力のふるいにかけられて勝ち残った人とも言えるわけです。 当然のことながら、ピアノについて語ることができる上級者は軒並み記憶力が高く、 特別な工夫をしなくても自然に暗譜できてしまうため、暗譜の方法について改めて考える必要がなかったしその機会もなかった、 というのが真相に近いのではないかと思います。 いずれにしても、暗譜の方法論について述べることができる人は少ないということです。 僕はどうだったかというと、子供の頃は弾いているうちに自然に暗譜できてしまう子供で、 レッスンでツェルニーの練習曲を弾いているときに、先生が抜き打ちで譜面台から楽譜を外すことがありましたが、 大抵の場合、楽譜がある時と全く同じように弾けてしまっていました。 しかしその時の僕の暗譜はやや危険な状態でした。 当時の僕は同じ曲を何度も何度も繰り返し弾いていれば、指が自然に動きを覚えてしまって、 楽譜を見なくても指が勝手に動き出して、半ば無意識のうちに曲の最後まで間違えずに弾き通せる状態になることを、 暗譜だと考えていました。 確かにこれは間違いではありませんが、暗譜の1つの側面でしかなく、実は完全に正しい方法ではなかったのです。 しかし、それを指摘してくれる指導者もいませんでしたし、自分でもそれで良いと考えてしまい、 そのまま上達してしまいました。それで何の問題も起こりませんでした。 「暗譜したのに、大事な本番で頭の中が真っ白になってしまい、暗譜が飛んでしまった」 というピアノ弾きの話をよく聞きますが、幸いなことに僕は本番で暗譜が飛んだことは一度もありませんでした。 人一倍の練習量があったのは当然のことですが、僕は誰にも教わらずに、いつの間にか正しい暗譜の方法を 知らず知らずのうちに一人で実践していたという事実に、随分後になって気が付きました。 それに気づいたのは、このサイトを立ち上げてからでした。 メールや掲示板で「暗譜がなかなかできなくて困っています。暗譜の良い方法を知っていたら教えてもらえませんか」という質問を受けた時に、 自分の暗譜がどのような方法なのかを改めて振り返って、それを交えて返事を出して感謝されたのがきっかけでした。 僕はピアノの指導経験がなく、また前述したようにピアノ学習時代、サクサク暗譜できてしまう子供だったこともあって、 ピアノの先生からも改めて暗譜の方法について教わったことはありませんでした。 おそらくその必要性を感じていなかったのもあると思いますが、暗譜の方法について系統立てて教えられるピアノの先生自体少ないようです。 このように僕は暗譜力、記憶力には恵まれていたのだと思いますが、 ピアノの指導経験は全くないため、このようなサイトを立ち上げて「暗譜の方法」について訪問者から初めて質問を受けたときに 初めて「ネット上の指導者・経験者」という立場からアドバイスする必要に迫られたわけです。 そのような状況で「気合い論」、「精神論」だけで済ませるのは簡単です。 「とにかく繰り返し弾いて覚えるしかない」、「辛抱強く続けるのが一番」ということを言葉を変えて延々と語り続けるのは誰でもできますが、 質問者はそのような答えを期待しているのではないことは明らかですからね。 それではピアノの普通の指導者と何の違いもなく、質問者もその回答内容に幻滅してしまうと思います。 頑張っても頑張ってもなかなか暗譜ができなくて困っているのに、「頑張るしかない」と言われたのでは、途方に暮れてしまいますからね。 暗譜というのは得意な人、苦手な人の差が大きいと感じています。 それは記憶力の違いも大きいとは思いますが、要領・効率の違いも大きいと思います。 これは受験勉強についてもほぼ同様のことが言えます。僕は受験勉強(大学受験)に関してもスペシャリストの域に達していて、 「ピアノと受験の両立」など、その方面の記事も今後書く予定ですが、物事は全て「正しい方法」で実践し積み上げた人の勝ちです。 受験の場合も「四当五落」のような精神論が過去にはもっともらしく語られていましたが、 精根尽き果ててしまい、やる気をなくしてしまっては元も子もありません。人間に与えられたエネルギーは有限であることを考えると、 やはり効率のよい方法で少ない時間で多くの成果が出る方法を選んで実践することが求められます。 これは暗譜のような作業の場合にこそ当てはまります。 ただがむしゃらにピアノに向かって同じパッセージを繰り返すだけでは全く能がないと言わざるを得ません。 大学受験の場合は受験勉強法として成功者の体験記が数々の出版社から出版されていて、 それを読めばその科目のその分野は何をどのように勉強するのが効率的か、数々の方法が紹介されていて、 (一例を挙げれば、大学受験数学は問題を解かずに解答を見てひたすら暗記するという「受験は要領」という和田秀樹氏の本など)、 目からウロコということがままありますが、 ピアノに関しては成功者の体験記というものは残念ながら存在しません。 大学受験の成功者として皆さんが真っ先に思い浮かべるのは東京大学合格者(僕もその1人です)、国立大学医学部医学科合格者だと思いますが、 一方でピアノの成功者はどうでしょうか?僕は成功者でしょうか? 「ピアニストになりたかった・・・」という思いを今なお引きずっているくらいですから、成功者からは程遠いのは明らかです。 ピアノの成功者はポリーニ、ルービンシュタインなどの世界的大ピアニストが挙げられることが多いと思いますが、 例えばポリーニは一度弾いただけで暗譜できて決して忘れないという人だそうですし、 ルービンシュタインは時々妙な覚え違いはあるものの楽譜を見ただけで写真のように覚えてしまい、 数十分の曲を汽車の中で楽譜をみただけで暗譜してしまい、到着してから楽譜なしで演奏することができるような人だったそうです。 このような人に暗譜の方法を尋ねても、きっと皆さんにとって有益な答えは得られないことは明らかです。 明らかに次元の異なる突然変異的な才能の持ち主には、凡人の悩みなど分かるはずもないからです。 過去のプロ野球の大打者にヒット、ホームランを量産する秘訣について尋ねたところ、「来た球を打つ」と答えた、とか、 将棋の大棋士に難解な詰将棋の初手について質問したところ、「まず王手します」と答えたという笑い話としか思えないような 逸話がありますが、要するに、天才は何も考えなくても僕たち凡人が全くできないようなことが当たり前にできてしまうということだと思います。 ここで再び暗譜の話に戻ろうと思います。 皆さんは暗譜の天才になりたいわけではないと思います。暗譜の秀才にはなれれば十分ではないでしょうか。 凡人は天才にはなれませんが、秀才にはなれます。 僕は先程も述べたように、暗譜に関してはそこそこ才能はあるのでしょうが、決して天才というわけではなく、 日々努力して数々の曲をものにしています。 そのような僕だからこそ、暗譜で悩んでいる皆さんとほぼ同じ視点で暗譜の方法について語ることができるのではないかと思います。 凡人の僕が実践している効率的な暗譜の方法は、きっと皆さんの役にも立つものと自負しています。 前述した質問者の他にも暗譜の方法に関する質問は過去に複数寄せられましたが、その際に僕が行ったのは、 自分がほぼ無意識のうちに行っている暗譜の方法を意識化し言語化するという作業です。 この作業をしてみると、暗譜というのは決して単純作業ではなく 様々な要素が複合して行われていくものだということに気づき、驚きました。 僕自身の暗譜方法を紹介することで、皆さんが何らかの気づきを得て、今後のピアノの練習に役立てることができれば、 という思いから、暗譜の方法、コツを紹介しようと思うに至ったというわけです。 当サイトでは「暗譜の前段階」については、既に「ピアノ上達を阻害する要因〜楽譜が覚えられない」の項で触れていますが、 ここでは「暗譜の前段階」ではなく、暗譜そのものを取り上げてその方法について僕自身の持論を展開したいと思います。
多くのピアノ学習者が暗黙のうちに実行している最も危険な暗譜法 皆さんはピアノの発表会の本番は必ず暗譜して臨みますよね。 その際、どのような状態で本番に臨んでいるでしょうか? ピアノを弾く多くの人が勘違いしていることですが、同じ曲を何度も何度も弾いて、 何も考えなくても指が勝手に動くようになった状態が「暗譜」だと思い込んでいる人が実に多いです。 確かにその方法も間違いではなく、突き詰めていけば完全で確実な暗譜となる可能性はありますが、 指の動きだけで覚えているとしたら、仮に何かの拍子でその動きが乱れたら、立て直せず、 最悪の場合、演奏中に止まってしまうという最悪の事態になってしまう危険があります。 もし演奏中、止まってしまい立て直せないかもしれないという不安があるという場合には、それを解決する方法を考える必要があります。 指の動きだけで覚えているとして、1つ1つ、どの音を押して弾いているか、皆さんは 頭の中だけで再現できますか?目をつぶって頭の中にピアノの鍵盤を思い浮かべて1曲通して弾いてみて下さい。 その際、どんなに速い曲でも1つ1つの指使い、その指で弾く音の音程が頭の中で完全に再現できますか? これができていれば暗譜は確実にできています。 おそらく、指が動きを覚えて何度も弾くうちに1つ1つの鍵盤の位置や順番、指の動き方を覚えてしまったのだと思います。 こういう状態になっていれば、特に問題はないと思います。 しかしこれができず指の動きだけで覚えているとしたら、これは非常に危険な状態で、 本番では上手く行かない可能性があるので、注意して下さい。 おそらく、ピアノの経験が少ない初級者、中級者の方の中には、暗譜という概念そのものを、 ピアノの先生から正しく教わっていない方が多いのではないかと思います。 完全な暗譜という概念を意識化できず、「楽譜を見なくても何となく弾ける=暗譜できている」という 曖昧で間違った認識しか持てていない方も大勢いるのではないかと思います。 しかし実際は「楽譜を見なくても弾ける」というのは「暗譜できている」ための必要条件であって、 十分条件ではありません。 それでは、確実に暗譜するためにはどうすればよいでしょうか? 効果的かつ確実に暗譜するためには、ピアノを弾く際に僕たちがほぼ無意識に行っていることを、 改めて意識化する作業が必要になります。 確実な暗譜をする上で重要なヒントは、新しい曲に取り掛かり練習し仕上げていく過程に隠されています。 それを説明していきます。 ピアノを弾く上で、ある特定の1つの音に対して次の4つの独立した基本的要素があることに皆さんは気付いていますか?
1. 譜面上の音符の位置 皆さんも譜読みして音取りする際に、これらの4つの要素を考えながら進めていますよね。 実際の1つの音が、譜面ではオタマジャクシのような記号として書かれ、 それは耳で聴くと特定の音の高さを持ち、 その音はピアノの特定の鍵盤に対応し、その音をどの指で弾くかが決まっている、というわけです。 (ここでは便宜上、音の長さ(音価)、強弱、音色の議論は抜きにして考えています)。 譜面を読む際、まず楽譜にある♯や♭の数(と位置)を確認して調性を把握し、拍子を把握した後、 譜面上の音の位置を読み、それをピアノの鍵盤上の位置に瞬時に変換して、実際にその鍵盤を押す、 そしてその音の高さが正しいことを再度譜面を見て確認するというような作業をしていると思います。 効率の良い暗譜の方法や考え方の大事なヒントは実はこの作業に隠されているのですが、 この作業を同じ箇所に対して行っていると、改めて音の高さや鍵盤の位置を気にしなくても、 何となく弾けてしまうため、音の高さや鍵盤の位置に意識を向けることが徐々に少なくなって、 この3つの独立した基本的要素に立ち返ることを忘れてしまう傾向にあるようです。 しかし、これは非常にもったいないことです。 これでは、頑張って譜読みしたその努力の一部というか半分以上を水に流してしまうようなものだからです。 つまり1つの音が譜面上の位置、実際の音の高さ、鍵盤上の位置、運指と4つの情報を持つわけですから、 それらについて独立に記憶できれば、より強固で確実な暗譜となるわけです。 但し、音の高さを記憶するには絶対音感が必要になるため、絶対音感がない人の場合には、 この「音の高さ」を記憶するという作業は省くしかないと思われます。 あとは譜面上の位置と鍵盤上の位置、運指についてそれぞれ独立に暗記できればよいわけです。 「独立に暗記」とは言っても、当然それらは並行して進めていくことになりますし、 曲を弾きながらそれぞれの記憶を強化・定着させていくわけです。 音の情報には以上の4種類があることを意識するだけで記憶の定着度はかなりの向上が期待できます。 ただ漫然と練習するのではなく、譜読みの段階から暗譜を意識して、以上述べたことを意識して取り組むと、 暗譜までの時間がかなり短縮し、より確実な暗譜ができるはずです。 その際のコツとしては、演奏する際の指の動きを動き(つまり「線」)でとらえるだけでなく、 どの指がどの音に対応しているかを、1つ1つ意識して「点」でとらえて、 頭で確実に覚えるという意識を持つと、記憶が強化されます。 例えば、皆さんがよくやっているNHKのラジオ体操は次にどのような動きをするか、 頭で考えなくても体で覚えていると思いますが、それを頭でも覚えた方が確実ということです。 そして、曲を弾く場合には、常に曲の構成を意識することです。そしてその構成を覚えて、 今自分が弾いているのはその曲の中のどの部分なのかを常に意識することが、本番の演奏で「迷子」にならないために必要です。 三部形式、複合三部形式、ソナタ形式、ロンド形式など、そしてそれぞれの曲の第1主題、第2主題、展開部など、 それがどの部分に対応するのかを頭で確実に理解しておくことが、確実な暗譜のために必要になります。 ショパンの曲では、幻想ポロネーズなど構成が複雑で特殊な曲もあり、これを暗譜で弾く場合、 曲の構成を詳細に把握して覚えることが求められますが、暗譜の際の考え方は同様です。
時々楽譜を見ないで弾いてみる
定着度の確認・記憶のメンテナンス〜曲の途中の色々な部分から弾き始めてみる 皆さんも今、暗譜で弾ける曲を、曲の途中の色々な部分から弾き始めてみて下さい。 弾き始められましたか?それとも「ええと・・・」となってしまいましたか? 最初から最後までなら弾き通せても、途中からとなると弾き始められないというケースは多いようです。 これは暗譜が完全ではない証拠です。より完全な暗譜とするためには、曲の色々な部分から弾き始めて 弾けるようにしていくという作業も非常に有効です。 自分でランダムに選んだ箇所から弾き始めてみるということを時々やってみるのが効果的です。 そうすることで、記憶がより強化され、仮にその周辺でつまづいたとしても立て直しができるようになります。 以上、暗譜について詳しく説明してきました。 皆さんの中で「これは」と思うような収穫はありましたか? 何か新たな発見や収穫があれば、是非、明日からの練習に取り入れて下さい。
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