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ピアノ練習法・上達法〜誰も教えてくれなかった上達の方法

〜ピアノを弾くと頭がよくなるかどうかを科学的に考える〜

ピアノを弾くと頭が良くなるのか?

「ピアノを弾くと頭が良くなるか?」これは皆さんも関心があるテーマだと思います。 確かにピアノは頭を使うから脳が活性化される、だからピアノを弾くと頭が良くなると思うと考えている人は多いようですし、 もしピアノを弾くと本当に頭が良くなるのなら、ピアノを始めてみようかな、と気持ちが揺れ動く方もいるのではないかとも思います。 ピアノを弾くのはあくまでピアノが弾きたいからというのが主目的ではあるにせよ、頭も良くなるという副次的な効果もあるのなら、 ピアノを始めようというモチベーションがさらに上がるのも道理ではないかというわけです。

そこでここではピアノを弾くと本当に頭が良くなるのかを僕自身の例も交えて、真剣に考えてみたいと思います。

そもそもピアノを弾くと頭が良くなるのかどうかを議論する人が多いようですが、 何故ピアノを弾くことと頭の良さを関連付けて考えるという発想が浮かぶのでしょうか? 冒頭でも述べたようにピアノを弾くと脳が活性化されそう、ボケ防止にも良いというのは一般的にも言われていますし、 ピアノが上手い人は頭が良い人が多いという印象は皆さんもうすうす感じていると思います。 これが「ピアノを弾くこと」と「頭が良くなること」とを関連付けて考える理由ではないかと思います。

皆さんも同級生でピアノが上手かった人たちを思い出してみて下さい。学校の成績も良かったのではないでしょうか? 実は僕もそのように思われている人間で、「ピアノを弾きながら勉強もして東大に入れるって、一体どういう頭をしているんですか?」 と、まるで天然記念物を見るような目つきで羨ましそうに眺めてくる人が多いです。 また同じ中学校で学年有数のピアノ少女と言われている人は定期テストや総合テストではほぼ常に学年トップでしたし、 数年後に入会した東大ピアノの会では、会員は男性が多いにもかかわらず皆相当の腕前で難曲に果敢にチャレンジしていました。 上位大学にはピアノサークルがあるようですが、東大ピアノの会はその中でも特にレベルが高いと言われていました。 おそらくピアノ弾き、しかも達人レベルになると、こういう人が多いのではないかと思います。 ピアノだけでなく学業等で何かを成している人です。 そういう人たちを思い浮かべると、「あの人はピアノをやっているから頭が良くなったのだろう、やっぱりピアノは脳に良いんだ」と考える方も多いと思いますが、 本当にそうでしょうか?「ピアノが上手い人は頭が良い人が多いのだから当たり前ではないか」という声が聞こえてきそうですが、 よく考えてみると、そうとは言い切れないことが分かります。

一言で言えば、相関関係があるからと言ってそこに因果関係があるとは限らない、ということです。

「ピアノが上手い人は頭が良い人が圧倒的に多い」という経験的な事実は、「ピアノの上手さと頭の良さが強い正の相関関係にある」ということです。 しかしその人たちがピアノをやっているから後天的に頭が良くなったのか、それとも元々生まれつき頭の良い人だったからピアノが上手くなったのか、 というのはこの経験的な事実だけでは判断できないということです。

皆さんはどちらだと思いますか?そのどちらなのか、あるいはどちらの要素の方が濃厚なのかは、どのように調べればはっきりした結論が得られると思いますか? 少し考えてみて下さい。よく考えるとこれは結構難しい問題で、厳密に科学的な研究調査で明らかにしようとすると結構大変というか不可能であることが分かります。 まず第一に「ピアノが上手い」、「頭が良い」というのは抽象的な概念としては分かりますが、 その曖昧な概念を科学的に具体的に定義しなければ、結論を得ることはできないわけで、その定義がかなり難しいことが分かります。 「ピアノが上手い」というのは上級レベルなのか、だとすれば何をもって「上級」と定義するのか、 そして「頭が良い」というのは最終学歴なのか、それともある一定時点での全国模試の偏差値なのか、対象科目は何か? などなど、定義しなければならない事項が無数にあり、煩雑極まりないことが分かります。 しかもピアノの上手さや頭の良さは年齢や性別によっても違ってきそうなので、それ以外の複雑な要素があまりに多すぎます。

仮にそれができたとして、ピアノを弾くと頭が良くなるかどうかということは皆さん1人1人の問題であるわけなので、 できれば同一人物がピアノを習った場合と習わなかった場合とでの比較ができればよいのですが、 当然のことながら、同じ人間にピアノを習わせた場合と習わせなかった場合の2通りの生き方をさせるということは不可能です。

それならばということで、今度は同一人物が無理ならば、 同一遺伝子を持つ一卵性双生児の片方にピアノを習わせて、 もう片方にはピアノを習わせないという生き方をさせて、その2人の学業成績や知能指数を測定するというのはどうだろうかという考えも浮かぶと思いますが、 この実験は理論上は可能ではあるものの、これは倫理的な問題がある上に、 ピアノを習うか習わせないか以外の環境その他の要因を全て同一に揃えるという非現実的なことが必要とされ、 この研究も実現はまず不可能です。

このようなわけで同一人物、同一遺伝子の一卵性双生児を対象にした研究はできないことになります。 そこで次に考えるのは母集団を集めて、その集団を前向きに追跡調査していく方法と、ピアノにおいて、ある一定レベルに到達したピアノ優等生の それまでの学業成績を後ろ向きに調査する方法が考えられます。

まずピアノを習い始める子供と習わない子供とを無作為抽出して、それぞれの知的レベルを算出します。 そこに既に有意差があれば、ピアノを習い始める子供というのはその時点で知的レベルが高い傾向があるということは言えます。 これではその後の研究調査に支障を来すため、それぞれの母集団の平均知的レベルが同一になるように揃える必要性が出てきます。 (そうしないと自分という同じ人間がピアノを習うか習わないかで頭の良さが違ってくるのかどうかの結論が得られなくなります)。 そして、それぞれの母集団で各サンプルの知的レベル、学業成績を追跡調査して、2つの母集団間で有意差が出てくるかどうかを統計的に解析します。

もう1つの後ろ向き調査方法はよりシンプルで、ピアノのレベルがある一定の最終到達地点を超えた人を集めてきて、 その人たちの小中高生時代の学業成績あるいは最終学歴を調査するというものです。 しかしこれはピアノがそこまで上手くなるような人は元々頭が良いという結論との切り分けができず、 研究調査としての意義はかなり乏しいと言えます。

・・・と。色々考えてきましたが、いずれの研究も非現実的で、「ピアノを弾くと頭が良くなるかどうか」については、 皆さん各自の経験的な印象や事実から推測するしかないということになります。

僕は個人的には「ピアノを弾くと頭が良くなる」というのはある程度は真実だと思います。 ただピアノを弾く上では最低限の集中力と持続力、記憶力が必要とされ、そこでかなりの初心者が淘汰されることからは、 「もともと生まれつき優秀な学業成績を修められる資質を持っている人の方がピアノが上手くなる傾向にある」というのも、かなりの程度で真実を含んでいると思います。 この2つのいずれなのかは切り分けができない問題ですし、そもそも切り分けすることにあまり大きな意味はないと思います。

ここで僕自身の例を見ていきたいと思います。僕は最終的に東大理Tから東大理系最難関の学科に進学し、 周囲の東大卒からは秀才を通り越して天才と崇められたりもしますが、実は幼い頃は実に凡庸で頭の悪い子供でした。 言葉の発達も遅かったですし、理解力・表出力ともに非常に稚拙で周りからも心配されていました。

小学校の頃の成績は至って平凡で、主要4科目で評価「5」を取ったのは6年生の算数の1回だけでした。

しかし中学校に入るとメキメキと頭角を現して学年260人中3〜4位に入り、私立の進学校に入ってからもそこでトップクラスの成績を取り、 東大に入ってからもトップクラスの成績を取り、最終的に誰もが手の届かない学科に入ってしまった、というわけです。 このどの時期にも僕はピアノを弾いていました。特に小学校高学年から中学校に入ってからの学校での活躍は目覚ましいものがあり、 また中学校2年生以降はピアノの練習の鬼と化しました。これが僕の脳に非常に良い影響を与えていたのではないかと僕は見ています。 僕はただ単にピアノが好きで仕方がなくてピアノにかじりつく日々を過ごしていたわけですが、それが僕の脳にも非常に大きくプラスに働いていたわけです。

こう見てくると「ピアノを弾くと頭が良くなる」ということはある程度言えそうです。 僕自身の例だけですので何とも言えませんが、やはりピアノというのは音を聞いて覚えて楽譜を読んで音に出して記憶と照合し修正していく、 そしてその過程を記憶して再現していく、という結構複雑な作業が必要となるため、かなり頭を使う作業であることは間違いないです。 これを正しく行うのはかなり高度な知的労働とも言えます。頭が良くなるのも道理というわけです。

「それなら自分もピアノをやってみようかな、再開してみようかな」と気持ちが揺れ動いた方、いらっしゃるでしょうか? 確かにピアノを弾くことで脳が活性化されて頭も良くなるのは間違いなさそうですが、 それは一朝一夕にはいかないことですし、ピアノ自体が好きでなければ長続きしないと心得て下さい。 僕は凡庸な頭脳を持って生まれ、最終的には周囲が「天才」と呼ぶレベルに成り上がったわけですが、 その過程にピアノが関与したとしても、それは途方もない膨大な時間と労力を注ぎ込んだ結果です。 そのくらいピアノを弾かないと、頭が良くならないのだとしたら、割に合わないと考えた方がよさそうでもあります。

やはりピアノを弾くと頭が良くなるという副次的な効果に期待してピアノを始めたとしても、本当に好きで仕方がないというレベルでなければ、 モチベーションが続かないと思います。

ちなみに「ピアノが上手い人は頭が良い人が多い」というのは言い得ていても、その逆、つまり「頭が良い人はピアノが上手い人が多い」 というのは全く言えないです。頭が良い人にピアノをやらせても上手くならない人の方が圧倒的に多いと思われます。 ピアノは記憶力、根気、集中力、持続力以外にも、音感、リズム感、運動神経など、様々な能力が総合的に高いレベルで求められるということのようです。 ピアノで上位一握りの達人の域に達するには、言葉では表現できない魔訶不思議な総合能力を高い次元で必要とされるのだと感嘆せざるを得ないです。

自分にはそんな能力はないと悲観する必要はありません。 ピアノは自分の身の丈に合った楽しみ方ができる楽器ですし、僕の例を見ても分かるようにピアノを弾けば頭が良くなるというのも、 傾向としては言えると思います。 ただピアノは好きでないと長続きしない楽器ですし、頭が良くなる、より効率的な方法はピアノ以外にもたくさんあるでしょうから、 頭が良くなりたいからピアノを始めるというのは、見当違いではないかと思います。

皆さんがピアノを弾き続けることによって得られる効果に何を期待するのかは各自の自由ですが、 ピアノを弾くのはあくまでピアノが弾きたいから、という純粋な目的でピアノに向かうべきだと個人的には思います。

初稿:2017/06/08

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