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ピアノ練習法・上達法〜誰も教えてくれなかった上達の方法

〜音感・リズム感を鍛える:鉄は熱いうちに打て!〜

音感・リズム感を身に付けることはピアノにおいても極めて重要

ピアノ教室では導入期から音感教育、リズム教育を始めるところが多いと思いますが、 やはりピアノにおいて音感、リズム感は音楽表現の基礎中の基礎に当たる非常に大切な要素です。

大人からピアノを習い始めた方はあまり音感やリズム感がない人が多い印象がありますが、 それは大人になってからのレイトスターターは独学者が多いこと、また音楽教室に通っている方でも 改めて音感教育、リズム感教育を受ける機会があまりないことと、 「鉄は熱いうちに打て」とタイトルにも示したように、この音感とリズム感は一定年齢を超えてしまうと あまり身に付かないとも言われていることとも関係しているようです。 特に音感はその傾向が顕著です。絶対音感の獲得年齢は個人差はありますが、6歳〜9歳が上限とも言われているほどです。 「音感とリズム感、いつ身に付けるの?今でしょう」というわけです。 何でも吸収できる柔軟な子供のうちに身に付けてしまおうというわけです。

ピアノにおける音感とリズム感の意義や重要性は初心者のうち、特に子供のうちはあまり分からないと思いますが、 とにかくピアノの先生の指示に従って音当てクイズや手拍子などで基本を身に付けてしまえば、 後で「あの時やっておいてよかった」と思える時が必ずやって来ると思います。

ここではピアノにおいて音感とリズム感が何故それほど重要なのか、そしてそれはその後、どのように生きるのかを説明したいと思います。

音感の重要性

ピアノは他の楽器と同様、あるいはそれ以上に音感が重要です。 ピアノは歌や弦楽器のように自ら音程を作る楽器ではなくて、正しい鍵盤を叩けば正しい音が出るのに、 ピアノの場合も音感はそんなに重要なのか、 と疑問に思われる方も多いと思いますが、実は音感はピアノにおいて極めて重要です。

まず音感があれば楽譜に書いてある音を、ピアノを弾かなくてもある程度頭の中で鳴らすことができます。 これはピアノを離れたところでの譜読みに大いに役立ちます。 また初見演奏では楽譜を先読みする能力が求められますが、その時にも音感の有無が大きくものを言います。 そしてこれは何よりも重要なのですが、絶対音感があると、頭の中で1つの曲を最初から最後まで正確な音程で再生することができます。 それを自分の理想のイメージに作り替えることもできてしまいます。 モーツァルトは30分の交響曲を各パートに至るまで頭の中だけで詳細に作り上げ、頭の中で自動再生することができたと言われていますが、 これも絶対音感のなせる業です。 実は僕も頭の中には自分がこう表現したいという確固たる音楽があり、あとはそれをピアノで表現するだけという状態です。 演奏する前に自分がどう弾きたいかを予め決めておくのは非常に重要なことです。

ポーランド生まれの往年の名ピアニスト・ヨーゼフ・ホフマンが著した「ピアノ演奏Q&A」という本の中に、 彼が師匠のアントン・ルビンスタインから受けたレッスンの様子を描写した部分がありますが、これは僕にとって非常に印象的でした。 ホフマンがルビンスタインの前で、ある曲を弾き始めると、ルビンスタインは「弾き始めたかね?」と尋ねたそうです。 ホフマンが手を止めて「確かに弾き始めました」と言うと、ルビンスタインは「ああ、そうか、気がつかなかったよ」と答えたということです。 ホフマンはその真意を測りかねて「先生、それはどういうことですか?」と尋ねたところ、次のような答えが返ってきたそうです。 「この曲はどんな感じの曲かね、愉快、滑稽、ユーモラス、それとも物悲しい、ロマンティック?さあ、どんなイメージだ? 私には君がこの曲にどのようなイメージを抱いているか、さっぱり分からない。だから聴こえないんだよ」と。 ホフマンは「この曲についてのイメージが出来ていませんでした」と正直に答えたそうです。 ホフマンが弾き始めてから、ルビンスタインはそのことをものの数秒で見抜いたわけです。 ルビンスタインは「弾き始める前に自分だけの確固とした音楽が頭の中に出来上がっていなければならない、でなければ 例えピアノの音に出したとしても聴く人の心に届く音楽にはならない」ということが言いたかったということでした。 天才同士の超ハイレベルのレッスンのワンシーンを想像して、若かりし頃の僕はワクワクしたものでした。

やや横道にそれましたが、自分がこう弾きたいというはっきりとしたイメージを確立できるのは絶対音感が必要条件です。 この絶対音感は獲得年齢の上限が9歳までとのことで、早ければ早いほどよいそうです。 まさに「鉄は熱いうちに打て」です。鉄は冷めてからでは変形しなくなります。 何でも吸収できる柔軟な子供のうちに優れた音感を身に付けてしまうべきです。

リズム感の重要性:日本人は3拍子に弱い

ピアノを演奏する上で音感と並んでリズム感も非常に重要です。 ピアノ演奏において音感とリズム感は車の両輪とも言えるもので、どちらかが欠けていても素晴らしい演奏にはなりません。 特に日本人は3拍子に弱いと言われますが、この3拍子の基本とバリエーションを 正しく理解し体感できるようにすることが特に重要です。

3拍子の音楽というのは西洋音楽特有のようで、少なくとも日本においては古来、3拍子の音楽は存在していないのではないかと思います。 日本の古来の音楽というと雅楽を思い浮かべますが、例えば短歌や俳句は実は4拍子系だったりします。 五七五七七は、例えば「はるすぎて○○○、なつきたるらし○、しろたへの○○○、○ころもほしたり、あまのかぐやま○○○」というように、 ○を「休符」として、4拍子で調子を揃える歌い方をします。これは俳句であっても同様ですし、川柳や都都逸でも同じです。 三三七拍子も実は4拍子です。「●●●〇●●●〇●●●●●●●〇」というように〇を休符としてこのように拍を刻むので、 4拍子になります。三本締めなども同様です。

また日本の演歌やポップス、ムードミュージックも日本製の音楽は圧倒的に4拍子が多いです。

以上のように日本人は4拍子の音楽は身の回りにたくさんあり、知らず知らずのうちに4拍子のリズム感は育っているように感じます。 しかし3拍子の音楽は日本製の音楽にはあまり登場しないようです。 ところが、クラシック音楽、西洋音楽では3拍子は非常に頻繁に登場します。この3拍子が無意識に正しく刻めるようなリズム感を育てないと 西洋音楽を演奏するピアノ弾きには到底なれないと考えるべきです。

日本人は3拍子になじみが薄いからか本当に苦手です。その一例を挙げたいと思います。

例えば誰もが知っている「Happy birthday to you」の歌・・・この歌は3拍子の歌ですが、出だしの1拍目がアウフタクト(つまりこの場合は3拍目) であることを正しく理解、体感して歌っている日本人はどれだけいるでしょうか。周囲の人たちの歌い方を聴いていると、 2拍×3で刻んでいる人が大半です。こんなにリズム音痴なのは日本人だけなのではないか、日本はとんでもない音楽後進国だと思うと悲しい気持ちになります。 やや身近すぎる例を挙げましたが、3拍子を頭の中で正しく刻めるようにすることがリズム練習の最初の課題と言ってもよいと思います。

クラシック音楽において3拍子の音楽の代表格は何と言ってもワルツ(円舞曲)ですが、 3拍子の音楽をざっと挙げても、メヌエット、ワルツ、スケルツォ、バラード、ポロネーズ、マズルカ、ボレロなどなど、色々挙がりますし、 このどれにも分類されない3拍子の作品も非常に多いです。 皆さんが大好きなショパンは、ポーランド人ということでポロネーズやマズルカのリズムが身体に染みついているからか、3拍子が大好きです。 ショパンを弾く際には他のどの作曲家よりも卓越したリズム感覚が必要と感じます。

またそれだけでなく右手と左手で異なるリズムを奏する複合リズム(ポリリズム)の曲もあります。 皆さんが知っているところではショパンの幻想即興曲がその代表です。また皆さんにはなじみがないかもしれませんが、 スクリャービンはポリリズムが大好きです。スクリャービンが弾けるようになるのは、ピアノ弾きの中のほんの一握りの選ばれし者で、 皆さんにとっては全く無縁の世界かもしれませんが、皆さんが上達して上位一握りのレベルに到達して、そのような曲を弾く際にも、 リズム感をしっかり身に付けていれば「怖いものなし」です。

またしっかりとしたリズム感覚を養成することは、そのリズムを崩す際の正しい崩し方を知る上でも重要です。 美しい行書体、草書体を書くには、基本となる楷書体がしっかり書けなければならないのと同じです。 音楽における正しい崩し方(デフォルメ)はテンポルバートに代表されますが、これは正しいリズム感の上にしか成り立たない表現です。 適当にテンポを動かしただけの音楽は聴く人に強い不安と緊張を強いるだけで、心地よい音楽にはならないわけです。 その意味でも、しっかりとした正確なリズム感覚を身に付けることは大切です。

以上、ピアノにおいて音感とリズム感を身に付けることがいかに重要かを具体例を交えて説明してきました。 いずれも時期的には子供のうち、早ければ早いほど良いです。 などとこれを呼んでいる皆さんはその獲得年齢を過ぎてしまっているでしょうから、このページはあまり意味はなかったかもしれません。 あくまで参考ということで、頭の中に入れておいていただければ幸いです。

初稿:2017年6月15日

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