ピアノ練習法・上達法〜誰も教えてくれなかった上達の方法 | |
〜ピアノを弾く男の子が「オカマ」と呼ばれる弊害〜
ピアノをやめたくなった初めての危機
「オカマ」と言われ続けて悩んだ日々 僕はピアノの音に惹かれて自分からピアノをやりたいと言い出して、それがきっかけで習い始めることとなったという経緯は これまでも再三述べた通りです。父親は僕にピアノを習わせること・ピアノを買うことに頑として反対していましたし、 なけなしの金でピアノを買うなどとんでもないと言い張っていましたが、 母は続かない可能性を承知で父の承諾を得ずにピアノを買ってしまった、という話も前述した通りです。 当時の僕はそんな経緯は知りませんでしたが、とにかくピアノが弾けるのが嬉しくて、1年間無邪気にピアノに向かいピアノ教室に通う日々を続けていました。 決して進度は速いわけではありませんでしたが、このままピアノを練習しレッスンに通う平和な日々が続くと当然のように考えていました。 しかし、ピアノを習い始めて2年目の新学期、僕にとってピアノをやめたいと本気で思う初めての危機が訪れました。 実は僕は小学校1年生の春休みに一応の都会から田舎のとある町に引っ越してきて、つまり転校したわけですが、 2年生の新学期早々、僕がピアノを習っていることを知った同じクラスの女子生徒数人から、「オカマ」と言われてからかわれました。 「男でピアノやってるの〜?なんで〜?」と聞いてきたので、「だってやりたかったんだもん、しょうがないじゃん」と僕が言うと、 「変なの〜!ピアノって女の子のやることでしょ?何でピアノなんてやりたいの〜?オカマ!!」と返してきました。 それ以来、僕は同じクラスの女子生徒数人から「オカマ」と呼ばれて、その都度、からかわれ、今風に言うと「いじられて」しまいました。 僕は大人しくて気が弱かったので、言い返すことができず、言われるがままサンドバッグ状態となってしまいました。 同じクラスで初めて友達となってくれた学校の先生の息子と言われる聡明な子が「そんなことを言ったらかわいそうじゃないか」と 僕をかばってくれて、僕はそれが涙が出るほど嬉しかったのですが、実は彼もピアノをかじったことがあるということが 後になって分かりました。 僕は「男でピアノを習っているというのは、そんなにおかしなことなのか、 僕は何かとんでもない勘違いをしているのか」と真剣に悩みました。 確かに周囲を見回してもピアノを習っているのは僕以外は全員女の子で、男でピアノを習っているのは僕だけでした。 僕は泣きながら家に帰ってきました。そして母親にその状況を話しました。 「学校で女子にいじめられた。ピアノなんて女の子のやるものだから、ピアノをやっているのはオカマだって。僕は男じゃない、オカマだって。 それでオカマ、オカマって、もううるさくて気が狂いそうで。これもピアノをやっているからだと思うと、もうピアノをやめたくなった」と 僕は泣きながら言いました。 「何言ってるの。男でピアノを弾く人はいっぱいいるでしょ。本当に上手いと言われる世界のプロのピアニストは男の方が多いんだよ」と 母親は言っていました。 「そうなの。よく分からないけど、周りを見てもピアノを習っている男なんて1人もいないよ。今まであまり気にしなかったんだけど、 僕って変なのかな。男でピアノをやるって変なのかな」と僕は繰り返し言って泣いていました。 「そんな子、ぶっとばしちゃえばいいじゃない。男でピアノをやっているだけで、オカマと言うなんて、そんな言い方ないでしょ」と 母親も怒っていました。「僕1人だけで、相手は何人もいるんだ。喧嘩しても勝てるわけないよ。もう嫌だ・・・」。 僕は途方に暮れていました。 今にして思えば、この時がピアノをやめる一番の危機でした。 「この時、もうこれ以上オカマと言われるのは嫌だ、ピアノをやめればすべてが解決するから、どうかやめさせて」と泣き叫べば 母親は涙を飲んでその僕の心からの声を聞き入れていたと思います。 しかし僕は心の底でピアノを愛していました。こんなバカな女子生徒の戯言でピアノをやめさせられてたまるか、という 意地のようなものがありました。 僕は学校で「オカマ」、「オカマ」と言いたいだけ言わせておいて、相手にしないことに決めました。 「何も言い返せないの?男なのにこの弱虫!」と挑発してきましたが、僕は徹底して無視しました。 僕がその年齢相応のどこにでもいるやんちゃな少年だったら、女子生徒たちに殴りかかるところですが、僕はそういうタイプの子供ではありませんでした。 それを見抜いているから、僕をいじりの対象にしてきたのだと思うのですが、そう考えると今の僕は余計に腹が立ちます。 とにかく僕は何も言い返すこともできず絶対に手も上げない大人しい子供でした。 音楽担当のかなり年輩の定年間近と思われるおばさん先生には、ピアノを習っている男の子ということもあってかわいがられて、 小学校2年生の終わり頃、クラスの音楽の発表会のミニミュージカルのピアノ伴奏者に抜擢されて(ピアノ伴奏はもう1人:この人はクラス一のピアノ秀才と言われていた女の子でした)、 一目置かれるようになり、そうしているうちにその女子生徒たちは僕を相手にするのに飽きたのか、この「オカマ」攻撃は自然消滅しました。 こうして僕はこのピアノ人生最大の危機を乗り越えました。 以後、僕はピアノを弾く少年という珍しい立場で損をしたことは一度もありませんでした。 この「オカマ」攻撃はピアノ少年が一度は通る試練のようにも感じますが、その試練さえ乗り越えれば、ピアノを弾く男の子は一目置かれる存在になるようです。
<<この事例は氷山の一角なのか>>〜この事例から学ぶべきこと
ピアノ男児は「オカマ」と言われると、ピアノは女の子の習い事と思い込んでしまう危険性がある ピアノを習っていることで少年時代「オカマ」と言われてからかわれた男性はかなり多いようで、インターネットで検索すると、 そのような体験を語っているピアノ弾きの男性の方が大勢いることが分かります。 この「オカマ」攻撃を受けるのが大人になってからであれば、ピアノを弾くのは女性だけではなく、ピアノが上手い男性も大勢いるという事実を 知っているので、「何を言っている」くらいで軽く聞き流せると思うのですが、小学校低学年の子供には その事実を説明しても実感が伴わないので理解しにくいと思います。 「ピアノを弾く男なんて周りに一人もいないよ。だからピアノを弾く男なんて僕以外にいない」と思い込んでしまう可能性もあり これは危険なことです。「世界のプロのピアニストは男の方が多い」と周囲から言われても、小学校低学年の、しかもプロのピアニストの名前を 1人も知らないような子供には実感が伴わないため、その話の信憑性を疑問に感じてしまうわけです。 「お母さんは僕を慰め励ますために嘘を言っているのではないか」と当時の僕は思ったものでした。 その危機的状況に面して、親が取るべき行動としてはいくつか考えられますが、まず作曲家はピアニストを兼ねていることも多く、 ほとんどが男性であることを説明するのが分かりやすいと思います。 また世界的な男性ピアニストの名前を何人か知っていれば、(例えば当時20世紀の大ピアニスト、ホロヴィッツ、ルービンシュタイン、 リヒテル、ギレリス、アラウ、ミケランジェリ、グールドなどが存命で、ポリーニ、ツィメルマン、アシュケナージなど若手から中堅の世代の台頭も始まっていた時代) そのようなピアニストの名前を挙げるというのも結構説得力があると思います。 それに対して巨匠と言えるような女流ピアニストは数えるほどしかいないということを付け加えると説得力が増すと思います。
ピアノは女の子の習い事という誤った固定観念は日本特有のものなのか?
男児がピアノを習いにくい状況は日本のピアノ界に甚大な被害をもたらす ピアノ男児が「オカマ」と言われるのは、ピアノを習うのが女の子ばかりという状況に原因があるようですが、 そもそも「ピアノは女の子の習い事」という固定観念は日本特有のものなのでしょうか。 海外でも似たような状況なのでしょうか? もしこれが日本特有のものだとすると、それが日本のピアノ界に与える損失は測り知れないと思います。 僕は「オカマ」攻撃の日々をからくも乗り越え、そしてピアノ少年として一応は成功して、 一応ピアノをある程度極めて今日に至るわけですが、僕があの辛い日々を乗り越えられたのは、 ピアノが好きだったからです。「好き」という気持ちがここまで強かったからこそ、危機的状況を乗り切ることができたわけです。
「ピアノを習っている」ことを隠す男児、ピアノをやめる男児が大勢いるという事実 僕の例はおそらく氷山の一角で、「オカマ」攻撃を受けて、それを理由に本当にピアノをやめてしまったピアノ男児も多いと想像できます。 また僕のような直接攻撃でなくても、僕のように「オカマ」と執拗に言われて、からかわれているような状況を目の当たりにすると、 「実は密かにピアノを習っているがカムアウトしていない状態のピアノ男児」が、学校で「ピアノを習っている」と公言しにくい状況と なってしまいます。「ピアノを習っている」と公言したがために「オカマ」攻撃の矛先が自分にも向けられるのではないかという 不安と恐怖とストレスはかなりのものと想像できます。 実は僕と同じ小学校・中学校でピアノを習っているという少年は2〜3人ほどいたようですが、彼らはいずれも「ピアノを習っている」 と自己紹介などで公言したことはありませんし、学校のピアノを弾いたこともありませんでした。 おそらく僕のような目に遭うのを恐れていたのではないかと思えてきます。 ピアノを習っていることを公言できないということは、学校でピアノを弾く機会、ピアノで活躍する機会が永遠にやってこない ということです。これはピアノを習い続けるモチベーションの低下につながり、いずれ自然消滅してしまう可能性が高くなります。 また直接的、間接的にこのような「オカマ」攻撃の対象になることはなくても、ピアノ教室に行けば周囲の生徒は女の子しかいない、 黒一点という状況では、「男の自分がここにいていいのだろうか」という「場違い感」を強く抱くことも多いと思います。 「僕はピアノをやりたかったけど、やっぱり男でピアノをやるのは変なのかな」と余計なことを考え始めてしまう子も多いと思います。 「野球もやりたいしサッカーもやりたいしゲームもやりたい」という、小学生男児をとりまく昨今の状況では、 ピアノを続ける積極的理由に乏しくなり、ピアノから遠のいていく要因となりえます。 男児がピアノを習いにくく感じる環境がある限り、ピアノ男児のピアノ離れは一定割合で起こらざるを得ない状況と思います。 このように考えると、少なくとも我が国では男児がピアノを習い続ける環境は極めて劣悪と言わざるを得ません。 これは日本のピアノ界にとって甚大な損失と被害をもたらすと僕は考えています。
男児が当たり前にピアノが習える環境を 男児がピアノを習いにくい環境が何故それほど問題なのか、ピアノは女の子に任せればいいじゃないか、という意見もあろうかと思いますが、 あえて僕はそれに異を唱えたいと思います。 僕自身の感覚から言えば、一般的には男児と女児のピアノの能力は女児の方が上と思います。 男児の方が指先が不器用で落ち着きがなく、頭の働かせ方も女児に比べると今一つということが多いようです。 しかしそれは平均を考えた場合の話であって、ピアノ男児はピアノ女児と比べて母数が圧倒的に少ない割に、日本人ピアニストでさえも 男性ピアニストの割合が一定数あることが分かります。これはひとたびピアノを始めてしまえば女児よりも男児の方が大成する可能性が 圧倒的に高いことを示しています。分かりやすく言えば、男児はピアノの平均的能力は女児に劣るが、突出した突然変異的な才能を持つ人は 男児に多い、つまり女児の方は高い平均値の周りにある程度固まって分布しているのに対して、男児の方は平均値こそ低いが 分布が非常に幅広くその分突出した突然変異的な才能を持つ天才児の割合が女児と比較して高いという印象を持ちます。 つまりある1人のピアノ生徒がピアニストとして突出した稀有の存在となる見込みは男児の方が高いと言ってよい状況と思います。 世界的ピアニストも男性ピアニストの方が圧倒的に多く、ショパン国際コンクールの歴代優勝者も男性の方がはるかに多いのも、 そういう現象で説明可能と思います。 こうしてみてくると、「日本人ピアニストがショパンコンクールに優勝できない」最大の原因は、男児がピアノを習いにくい環境にも 大きな要因があると思えてなりません。 極論してしまうと、僕たちにとって、ピアノという分野に関してはどこにでもいそうな秀才は全く必要ありません。 一世紀に何人も生まれないような超天才のピアノ演奏に酔いしれるのが最も大きな楽しみです。 具体例で言えば、古くはディヌ・リパッティ、その後、クリスティアン・ツィメルマン、ラファウ・ブレハッチといった 超付きの正統派の逸材たちです。僕は日本からもそれに肩を並べる逸材が出てきてほしいと願いながら、ショパンコンクール視聴を 楽しんでいるのですが、その僕の期待は毎回見事なほどに裏切られています。 その期待に応えてくれる日本人の逸材が登場するのがいつのことになるのか分かりませんが、僕はそれを男性ピアニストに期待します。 その理由は前述した通り、突出した突然変異的な才能を持つ確率は男性の方が圧倒的に高いという統計上の数字が示しているからです。 それにショパンという作曲家は当然男性ですから、ショパンの心の機微を理解して演奏に反映させるのは男性ピアニストの方が断然有利です。 その意味でも男性ピアニストの登場に期待したいわけです。 「オカマ」という心無い言葉をピアノ男児に投げかけるのは、もしかしたらその子が突然変異的なとてつもない 才能の持ち主かもしれないのに、その才能の芽が出る前に摘み取ってしまうということです。 またピアノは女の子の習い事という固定観念のために男児がピアノを習いにくい環境を変えないということも、 結果的には日本人天才ピアニストの出現を阻む大きな要因となっているように思われます。 僕はこれまで音楽関係の書籍を見てきましたが、このような意見を述べている文章には出会ったことはありません。 僕自身の偏見なのかもしれませんが、とにかくピアノ男児がピアノを習いやすい環境にすることで、 日本のピアノ界の閉塞した状況を打開することは十分可能と考えています。 このようにピアノは女の子の習い事という固定観念と風習が日本のピアノ界に与える損失は極めて甚大です。 特に才能豊かなピアノ男児の成長の芽を摘み取ってしまう「オカマ」攻撃とピアノ男児への偏見の目の撲滅に向けて、 日本全体で取り組まないと、日本のピアノ界はどんどん遅れを取っていきます。 今やアジア勢で中国、韓国にも抜かれ、日本は一番のピアノ後進国となってしまいました。
「オカマ」攻撃を今後受ける可能性があるピアノ男児(およびその両親)に贈る言葉 僕はピアノ男児として「オカマ」攻撃の中、生還することができました。 これはひとえに幸運以外の何物でもないと思います。 「オカマ」攻撃を受けて、生還するが撃沈するかは、本当に紙一重で運次第と言ってもよい状況です。 ピアノがこれほど好きだった僕でさえ、母親に必死で「ピアノをやめたい」と泣き叫んだくらいですし、 その僕の言葉を母親が聞き入れてピアノをやめさせていれば、今のピアノ弾きとしての僕は存在しなかったことになります。 もしピアノを弾く男の子を持つご両親の方がこれをお読みであれば、「ピアノをやめたい」というのが、 「オカマ」攻撃によるものだとしたら、その言葉は絶対に聞き入れないで子供を説得して下さい。 本当にピアノが上手い人は男の人の方が多い、世界的ピアニストとしてこういう偉人がいるんだ、とでも言って、 このサイトの「ショパン弾きのピアニスト」のトップページでも読んで聞かせてあげて下さい。 ここに列挙されているピアニストのほとんどが男性であることを知って、目を見開くと思います。 「あなたも頑張ればこのような人たちのようになれるかもしれない、頑張ろう」とでも言って励ましてあげて下さい。 本当にその励ましによって、そのピアノ少年が日本のピアノ界の星として輝く可能性だって、絶対ないとは言い切れないのではないでしょうか。 そのようなピアノ男児への励まし1つ1つが、日本のピアノ界を変えていくように思われてなりません。 「ピアノは女の子の習い事」という日本の風潮を皆さん1人1人の手で変えていくことが、 今の日本のピアノ界の瀕死の状況を救う大きな原動力になるのではないかと思います。
初稿:2017年6月17日
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