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管理人のピアノ練習奮闘記〜第2話〜

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〜ショパン・幻想即興曲〜宿敵の複合リズム〜
ピアノを習う人なら誰もが一度は夢見るショパンの名曲。そんな名曲の中でも誰もが真っ先に挙げるのが この「幻想即興曲」でしょう。その軽やかな嬰ハ短調のパッセージを聴いただけで、「こんな音楽が この世にあったのかー」というものすごい 衝撃で言葉が出なくなったのは僕だけではないと思います。 でもちょっと待ったあー。この曲の作品番号をよく確認して欲しい。作品66。ショパンの作品番号は 74が最後だから、かなり最後の晩年の作品か、と思いきや、いやいや、これは1835年、彼が25歳の頃の 若かりし日々の思い出の作品のはず。でも生前、彼はある理由でこの曲を出版せず、言ってみれば 永遠に闇に葬る 覚悟だったんですね。友人のフォンタナにも「私の死後、この曲の譜面を燃やして灰にしてほしい」 と言い残したそうです。 そんな、もったいない、ショパンさん、あんたは自分1人でこの曲を1人占め するつもりだったのか、と聞きたくなりますが、そうではなかったようなんです。 それにしても、フォンタナの判断は正しかったですね。何でも人の言うことを素直に聞くだけでは いけないのです(自分への戒めも込めて)。

それはともかく何かこの曲に問題でもあったのか、と疑うのは当然です。とここまで書けば、相当なショパン通の方なら 僕が何を言おうとしているか、察しがついていることと思います。ほらほら、嬰ハ短調と言えば、 ベートーヴェンの「月光」ソナタも嬰ハ短調ですね。でも全然違うって? まあ、そうなんですけど、 この「月光」ソナタの第3楽章のコーダで右手が半音階を駆け上がってABAB…のトリルの後の、右手だけの 下降音型…。むむむ、あやしいな。これは。みなさん、「幻想即興曲」と「月光」ソナタ、どちらを 先に練習したかは人それぞれだと思いますけど、この部分、「幻想即興曲」のあの音型と酷似して びっくりされたのではないかと思います。ベートーヴェンとショパンでは、当然、ショパンの方が後の 時代に生きた作曲家なわけで、当然、ショパンは楽聖ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」も弾いて いたと思われます。ショパンはいわば、その部分を言葉の最上の意味で模倣して (口が滑っても「パクって」 なんて僕には言えない)、自分の作品の中に取り込んだのです。…しかし、ショパン自身は、そのこと に一種の罪悪感を感じていて、出版できなかったんだと思います。

しかし、この嬰ハ短調の素晴らしいパッセージを聞けば、誰が聞いてもショパンが作ったものとしか 思えない、美しい珠玉の音の連続です。決して「月光」のパクリなんかではないと思います。

さて、「幻想即興曲」の練習の話をしましょう。中学2年のとき当時レッスンで弾いていたベートーヴェンの 「悲愴」ソナタの第1楽章に並行して独学で弾いたのが、僕にとって自分で「幻想即興曲」を音にした 最初の瞬間でした。といっても最初から当然うまくいくはずもなく、「右手の最初はソの#で、次はラ、 あ、これは#じゃないね、次はソの、これは#だ、んで、次はファ、ああ、これはダブルシャープか、という ことはソだね、」とまあ、こんな調子で一生懸命一音一音まじめに譜読みです。そうしてまじめに音取り を続けること数時間、やっと4小節の譜読みができて、指もそれなりに覚えてきたところで、今度は 左手を見ていきます。同じ音型を2回続けた後は少しトリッキーにはなるけれども、右手の難しさに 比べたら屁でもないぜ、などと抜かしてふんぞり返ること数十分、ようやく右手と左手を合わせよう としたその瞬間、顔が真っ青に…。これは 右手と左手のリズムが違うんだよなあ。じゃあ、適当に やったろか、と持ち前の「いい加減さ」を発揮し、 本当に適当に弾いてみたんですけど…これが、もう 冗談抜きにひどくて…最初の出だしは、右手の16分音符に対して、左手は3連符。これをどう割りふるのか、 と僕は理屈で考え始めてしまい、泥沼にはまりました。数学的には4と3は「互いに素」。つまり1以外の公約数を もたないのです。8分音符(2連符)と3連符は、最小公倍数が6だから、1拍を6等分して入れ込むことは リズム練習でよくやっていましたが、この場合はそれができない、4と3の最小公倍数12で1拍を割ってしまうと もはや、ミクロの世界(なんのこっちゃ)で、流麗な音楽どころではなくなってしまう…。

頭の悪い僕は真剣に悩みました。そこで出した結論。 適当にやろう。結局、それしかないんです (これを「下手の考え、休むに似たり」と言う)。 幻想即興曲を弾いている他の人にも聞いて見ると、やはり10人いれば10人が「適当」と答えます。 要は、難しければ右手と左手を別々に練習して、後は適当に割りふれば、それで完璧なんです。 あーあ、しかし、当時の僕は、あの調子で一生懸命に譜読みをして、練習を続けること数日間、そんな 血と汗と涙の結晶であるはずの音の連続が、 たった数秒で風のように駆け抜けていってしまう事実に、茫然自失でした。 貴重な徒労、報われない努力…ああ、それも憧れのショパンの名曲であればこそなんですね。本当に ショパンの魅力、ピアノの魅力にとりつかれると恐ろしい、と如実に感じた貴重な思い出の作品でした。

それ以来、幻想即興曲は僕の大事なレパートリーになりました。技術的な精度はあの頃よりも数段 上がってますけど、弾く度にショパンを弾く喜びを体で感じられる作品です。この曲を一度弾けるように なれば、一生の宝物です。ショパンの作品の中では決して難しいほうではないですが、ショパンを弾 くと胸を張って人前で言えるためには、絶対に避けて通ることのできない名曲です。

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