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ショパン・ピアノ協奏曲第1番・第2番

ショパンのピアノ協奏曲について

作品の特徴
・ワルシャワ時代の若き日のショパンの記念碑的作品
・初恋の女性への想いが濃厚に反映された名曲
・青年ショパンの若々しくロマンティックな詩情に満ち溢れた憧れの歌
・華やかでピアニスティックな魅力、演奏効果の高さも
・管弦楽法の未熟さも時々指摘される
・ピアノとオーケストラとの駆け合い等の醍醐味は若干不足気味

ピアノ協奏曲(ピアノコンチェルト)は、ピアノとオーケストラ(管弦楽)による楽曲です。 ピアノ演奏者はピアノ協奏曲の主役でソリスト(ソロイスト)と呼ばれ、 オーケストラの大音響をバックに華やかな名人芸的ピアニズムを披露し、 その結果としてピアノとオーケストラの緊迫した掛け合いから生まれる壮大なドラマが大きな魅力です。 ピアノ協奏曲の発展の歴史を俯瞰すると、古典派時代モーツァルトが数々のピアノ協奏曲を作曲してその礎を築き、 ベートーヴェンは5曲の壮大なピアノ協奏曲でその様式を確立し、古典派ピアノ協奏曲としての規範を提示しました。 その規範は、一般的には第1楽章が壮大な協奏曲的ソナタ形式、第2楽章がロマンティックな抒情詩、第3楽章が軽快なロンド形式で 最後を華やかに締めくくるという構成です。また第1楽章にはピアニストが名人芸的な絢爛豪華な技巧を披露する「カデンツァ」という ソロ部分(オーケストラは休止)が挿入されるのも伝統的な様式となりました。

このようにピアノ協奏曲は非常に華やかなもので、 その楽曲の性質からも推測されるように、古典派時代よりもロマン派以降の時代に、より大きく開花し発展を遂げたと言えます。 古典派時代にもベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」のような不朽の名作はありますが、 ピアノ協奏曲の名作はロマン派以降の作品が並びます。例えばショパンの第1番・第2番、シューマン・グリーグのともにイ短調のピアノ協奏曲、 ブラームスの2曲の壮大なピアノ協奏曲、 チャイコフスキーの第1番、ラフマニノフの第2番・第3番などです。

このようにピアノ協奏曲の発展の歴史を俯瞰してみると、ピアノ協奏曲という分野に限っては、ショパンの時代は依然として黎明期にあったと言っても 過言ではないと思います。

ところでショパンの39年の生涯を概観すると、偶然と言うべきか、前半20年を祖国ポーランドで過ごし、その後ポーランドを後にして、後半20年を 主にパリとノアンの館を中心とするフランスで過ごしたことになります。つまりショパンの生涯は前半のポーランド時代と後半のフランス時代と、綺麗に2等分することができます。 ショパンはその前半生、ポーランドで過ごした時期は当然のことながら音楽界ではその名がほとんど知られておらず、 またショパン自身も作曲に専念するかピアニストとしての活動も行っていくか、決まっていない状態でした。 このような状態で、ショパンは自らの名を世に広める活動の一環として、オーケストラをバックにピアノ演奏するオリジナル作品を作り、 それを演奏会で披露するという活動を行っていました。 その必然的な結果として、ショパンの手によるピアノとオーケストラのための協奏曲的作品はこの時期、つまり前半のポーランド時代の最後に 集中しています。「ポーランド民謡の主題による幻想曲作品13」や「ラ・チ・ダレム・ラ・マーノによる変奏曲作品2」などは 「協奏曲」という名前は付いていませんが、ピアノとオーケストラのための作品で、ショパンは自らのピアノ演奏でこれらの作品を披露することにより、 楽壇から注目を集めることに成功しました。 例えば同年代の作曲家ロベルト・シューマンがショパンの「ラ・チ・ダレム・ラ・マーノによる変奏曲作品2」を聴いてショパンの才能に驚嘆し、 ドイツの音楽誌に「諸君、天才だ、脱帽したまえ」とショパンを紹介したという話はご存知の方も多いと思います。

このようにショパンは管弦楽をバックに華やかなピアニズムを披露する作品を書くという経験を積んできたわけですが、 それが確かな様式感を伴って実を結んだ、その結晶・集大成と言うべき作品が、2曲のピアノ協奏曲、つまりピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11とピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21です。

ショパンにある程度通じている方々には常識ですが、実は先に作曲されたのは第1番ではなくて第2番の方です。 第2番が1829年、ショパンが19歳の時の作品、第1番がその翌年の1830年、ショパンが20歳の時の作品で、この2曲は非常に近い時期に作曲されたことが分かります。 そして第2番よりも第1番の方が後に作曲されたにもかかわらず先に出版されたという事情があります。 作品の番号は作曲順ではなく出版順に付けられるため、このような逆転現象が起きてしまったわけです。

先に書かれたピアノ協奏曲第2番は、初恋の人 コンスタンツィア・グワドコフスカ(グラドコフスカ)への実らない片想いに悩む青年ショパンの想いが全曲を通して根底に流れており、 豊かな詩情とファンタジーを湛えたロマンティックな楽想が豊かな感興に乗って流れて行き、聴く人の胸を打つ作品です。 後に書かれたピアノ協奏曲第1番はその約1年後に作曲されており、こちらの方が規模が大きく、 より華やかで演奏効果の高い作品ですが、その根底には第2番と共通したものがあり、 片想いに悩む青年ショパンのやるせない思いが悲しみの旋律に姿を変え、聴く人に大きな感動を与える作品です。

ショパンの協奏曲的作品については管弦楽法の未熟さがよく指摘されていますが、 2曲とも、ポーランド時代の若きショパンの初々しく夢見るような旋律と華やかでピアニスティックな演奏効果が 渾然一体となった傑作で、管弦楽法の欠点を補って余りある名曲として多くの人に親しまれています。 第2番ヘ短調よりも第1番ホ短調の方が一般的には人気が高いですが、いずれの作品も、 古今東西のピアノ協奏曲の中で、チャイコフスキーの第1番、ラフマニノフの第2番、グリーグ、ベートーヴェンの第5番「皇帝」 のような超定番の名曲に並ぶ作品として、一般的な人気を獲得しています。 他の多くの作曲家のピアノ協奏曲と違って、ショパンのピアノ協奏曲にははっきりとした「カデンツァ」がありませんが、 それと同等もしくはそれ以上の効果を持つ華麗なパッセージが全編に渡ってちりばめられており、非常に華やかな作品となっています。

この後、ショパンはピアノとオーケストラの作品を手掛けることはほとんどなくなりましたが、 それはショパンが管弦楽法を苦手にしていたことに加えて、上記のような宣伝活動を行う必要がなくなったことも大いに関係していると思います。 またこの2曲のピアノ協奏曲があまりにも会心の出来で、それ以上のピアノ協奏曲はもう自分には書けないと悟ったからかもしれません。 当サイトの「ショパン・クイズ」の「ピアノ協奏曲」関連の出題の中に、「ピアノ協奏曲第3番を作曲しようとした形跡はない」 という選択肢の正誤を判定させる問題がありましたが、これは実は「×」です。 現在、あまり知られていない「演奏会用アレグロ作品46」という作品は、実は当初、3番目のピアノ協奏曲を意図して着想されたものでした。 しかしこれは早々に断念してしまったのでしょうか、確かに華やかではありますが、旋律や和声の点からは、ショパンのピアノ協奏曲第1番・第2番の 魅力には遠く及ばない冴えない作品となってしまっています。

やはりショパンのピアノ協奏曲第1番・第2番はいずれもショパンの最高傑作と言っても過言ではなく、 ショパンの前半生のポーランド時代に打ち立てた記念碑的な作品です。

5年に一度、ショパンの祖国ポーランドのワルシャワで開かれるショパン国際ピアノコンクールの本選(最終的な順位を決定する)で 課題となっているのが、まさにピアノ協奏曲です。第1番ホ短調Op.11、第2番ヘ短調Op.21のいずれを選択してもよく、選曲は出場者の任意ですが、 第1番を選ぶ出場者が圧倒的に多いです。そしてその必然的な結果というべきか、過去の歴代優勝者は本選で第1番を選曲したピアニストが大多数です (ダン・タイ・ソンなどの例外もありますが)。

皆さんは、ショパンの2曲のピアノ協奏曲、第1番と第2番、どちらがお好きでしょうか。 当サイトでも立ち上げ当初、人気投票を行ったことがありますが、やはりというべきか、第1番の方が人気が高かったです。

余談ですが、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(変ロ短調Op.23)とヴァイオリン協奏曲(ニ長調Op.35)は、いずれも「チャイコン」と 略されることも多いですが、何故かショパンのピアノ協奏曲は「ショパコン」と略されることはありません。 「ショパコン」と言えば、それはショパンコンクール以外の意味はないようです。 一方、「チャイコン」という場合にはチャイコフスキーコンクールのことを指すこともあれば、上記の2曲のコンチェルトのことを指すこともあり、 それは文脈から判断することになります。何故、このような慣習があるのかは謎ですが、音楽愛好家の間では無意識のうちに暗黙の了解事項となっているのが 面白いですし興味深いところです。

詳細

ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11

第1楽章 Allegro maestoso ホ短調 3/4拍子
この第1楽章は標準的な演奏時間が19分から20分という、ショパンにしては異例の規模の大きさを誇る楽章です。 ピアノ協奏曲の慣習に従い、この第1楽章はソナタ形式で書かれていますが、まず提示部が管弦楽のみで示され、ピアノがなかなか登場しない点が特徴的です (これは第2番も同様です)。 構成は次の通りです。

管弦楽提示部:序奏(ホ短調)→第1主題(ホ短調)→第2主題(ホ長調)→副主題(ハ長調)(1回目ホ短調になりそうな部分から繰り返され、2回目にホ短調、ピアノパートへの導入) ピアノ提示部:序奏(ホ短調)→第1主題(ホ短調)→経過楽句(ホ短調→ロ短調→調性不明で目まぐるしく展開される)→第2主題(ホ長調)→軽快なパッセージを経て、 提示部終結部(ホ長調):ピアノトレモロにて終結: 管弦楽による展開部へのつなぎ: 展開部:ハ長調で開始(冒頭からピアノあり)→イ短調→展開部第2主題: いきなりホ短調から始まる管弦楽による序奏は壮大かつ重厚であり、ショパンがこの作品にかける 意気込みが伝わってきます。この序奏の動機は後にピアノの序奏にも使われます。 続くホ短調の第一主題は甘く悲しい旋律で聴くものの胸を打ちます。第2主題はホ長調で奏でられ、柔らかな響きで優しさで包み込まれる感覚になります。 この旋律も心に真っ直ぐに届く素晴らしい抒情詩です。オーケストラの序奏は実に4分を超えるか越えないか というほどの長さで、ピアノの登場の前で一旦躊躇するかのように止まりかけては再び大合奏となりますが、 ここはピアノという主役の登場を遅らせて、今か今かと待ち構える聞き手の心理の逆をいっています。 この辺にもこの作品にかけるショパンの気合が伝わってくるようです。

ピアノの登場はホ短調の和音のフォルテッシモです。甘味で切ないホ短調の第一主題はピアニスティック な装飾音が施され、既にピアノの詩人の音の世界です。もうオーケストラさようなら、といった趣。 続くホ短調〜ロ短調の経過句の処理も天才的だと思いますし、そこから華やかな 演奏技巧を示すパッセージも作品の演奏効果を高めています。それが次のホ長調の第2主題の包み込むような 優しさを増長するという意外な効果も生んでいます。この長い旋律は ためらいがちになったり伸びやかになったりしますが、この表情の移ろいを的確に捉えて説得力豊かな演奏 をするのは極めて難しいです。しかしその一方で弾いていて実に気持ちのよい部分でもあります。この長い旋律が終わると、短い経過句 を挟んで、ホ長調で始まる技術的に華やかな部分に入るが、ここは同じものが2回繰り返され、そのまま 提示部を終えます。技術的に華麗な部分を作って重和音のトリルでオーケストラにバトンタッチする 手法は、これより少し前に作曲されたピアノ協奏曲第2番とほとんど同じです。

オーケストラの中間奏の後、展開部の初めにピアノで提示されるハ長調の旋律は、第一主題に準じたものですが、これは 甘いというより、すがすがしく爽やかな響きです。しかしすぐに憂いを帯びたイ短調に変わり、ピアニスティック な装飾が施されるなどの処理がなされ、いよいよ展開部の主眼とも言うべき難所に突入します。ホ長調 と同一和音(但しここは調性的にはホ長調ではないようです)の後の4度の連続は「英雄ポロネーズ」の序奏を 少しだけ難しくしたような感じです。その後いやがうえにも盛り上がる展開部、その最高到達点は嬰へ長調 の駆け下りるパッセージから左手の半音階下降に乗って右手がアルペジオを奏でる部分から始まっています。 技術的にはコーダに並ぶ最高の難所の一つとされています。ここは弾けるようになると弾いていて本当に 気持ちのよい部分です。心を鬼にして猛練習することをお薦めします。

再現部は同じくホ短調の第一主題で奏でられます。ホ短調からロ短調の経過句までは提示部とほぼ同じですが、 その後、調性の調整が行われ、第2主題は提示部のホ長調に対して短3度高いト長調で 再現されます。ト長調という調性のため、再現部のこの旋律は爽やかですがすがしい感じですが、後半はショパン 独特の甘美さの中に青春の憂いを含んだ素晴らしいパッセージが現れ、ここは何度聴いても新鮮な響き で胸に迫ってきます。

続くホ短調のコーダはトリッキーな右手の動きに対し、左手がトリル&跳躍という動きで、 耳に聞こえる以上に技術的には難しく、何を隠そう、僕はこの部分が一番苦労しました。ここを抜けると ハ短調から始まる調性不明の経過句があり、技術的に華やかになって、やはり重和音のトリルでピアノ が終了し、最後は管弦楽の短い締め&トゥッティで華々しく幕を閉じます。
ショパンのありとあらゆる作品の中で最も規模の大きい作品(本楽章の平均演奏時間は19分〜20分) ですが、決してそんな長さを感じさせません。従来のピアノ協奏曲の伝統でもあったカデンツァはないですが、 それに相当する技術的な難所はたくさんあり、外面的な演奏効果は極めて高いですし、内面的にも非常に 充実したショパンの最初期の最高傑作と呼べると思います。

第2楽章 Romance Larghetto ホ長調 4/4拍子
夜想曲風のロマンス。静かな管弦楽の伴奏に乗ってピアノで奏でられる旋律は静謐なたたずまいの 中に豊かなロマンの香りが漂い、その極上のリリシズムはこの世のものとは思えないほどです。本楽章の 構成は一般にはロンド形式といわれていますが、私自身は「管弦楽の短い序奏+@ホ長調の短い主題+Aロ長調の長い主題+ B嬰ハ短調のやや動きを伴った中間部+C嬰ト長調(表記上の調性)の長い主題(再現)+Dホ長調の コーダ」という構成で捉えています。技術的には難しくないですが、ゆっくりした3度や6度、スケールと いった基礎技術は必要とされ、演奏技術の洗練度が要求されています。極めて美しい楽章です。

第3楽章 Rondo Vivace ホ長調 4/4拍子
ロンド形式の軽快な最終楽章。管弦楽の短い序奏の後、すぐにピアノでホ長調のロンドの主題が 示されます。この主題は登場する度に様々な装飾が施され、技術的に凝ったパッセージに姿を変えていきます。 この主題は前半3度繰り返された後、嬰ハ短調で始まる技術的な難所を迎えます。ピアノでイ長調のユニゾンのメロディー を奏でる息抜きの箇所を挟んで今度はイ長調で始まる難所に突入。ここを終えると、再び軽快な第1主題の 登場となりますが、今度はすぐに速いユニゾンで始まる、本楽章最高の山場を迎えます。ピアノの技術も 本楽章のみならず、全曲を通して最高の難度に達し、ここが最後にして最大の見せ場でもあります。 それが静まると、例のユニゾンのメロディーが今度はホ長調で再現され、 曲の最後は左右の技術的に華やかなユニゾンで全曲を締めくくります。ショパンの最初期の最高傑作、ピアノ 協奏曲第1番の幕切れに相応しい堂々とした終わり方です。

ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21


この作品は非常に繊細で優雅でロマンティックな旋律とハーモニーが魅力的な傑作です。 当時、ショパンは同じワルシャワ音楽院の声楽科に通うソプラノ歌手のコンスタンツィア・グワドコフスカ(グラドコフスカ)に 片想いしていましたが、彼女にその思いを伝えることができず、そのやるせない思いは作品の中で昇華され結晶化されました。 「これは僕にとって不幸なことなのかもしれないが、僕には今、理想の女性がいる。この半年間、毎晩のように夢の中に彼女が出てくるのだが、 まだ一度も口をきいたことがない。僕は心の中で彼女に忠実に使えてきた。彼女のことを夢に見、彼女のことを想いながら 僕はコンチェルトのアダージョを書いた。」という一節が当時の友人に宛てた手紙の中にありますが、 この「コンチェルトのアダージョ」というのが、まさにピアノ協奏曲第2番の第2楽章(ラルゲット)のことです。 ショパンにとって「理想の女性」を想いながら、決して実現することのない片想いに病みながら、そのどうしようもない思いを この作品の中で昇華させました。片想いにひたすら病んでも何もできず涙するだけの僕たちと違い、 音楽作品の中にその思いを投影し不朽の名作を生みだすことのできる天才作曲家は、まだ少しは幸せなのではないかと思うこともあります。

第1楽章 Maestoso ヘ短調 4/4拍子
協奏曲風のソナタ形式。 本曲の場合も、提示部に管弦楽の長大な序奏が置かれています。ヘ短調で始まる序奏は、焦燥に 駆られる不安定な楽句となっていますが、しばらくすると、変イ長調に転調します。この旋律は 後にピアノによって受け継がれます。片想いに苦しみ悶えるショパンの病んだ心がそのまま 投影された管弦楽序奏といえるでしょう。音域の広いユニゾンに始まる長い序奏の後に奏でられる 第1主題は、片想いに病んだ彼の悲しみをそのまま音にしたような旋律で、胸が痛くなるほど 甘く悲しい旋律です。それが終わると、華やかなパッセージが続き、やがてその楽句は、 深深とした柔らかな管弦楽の伴奏の中で、悲しみが甘い夢に向かって昇華していくような 雰囲気の楽想とともに、僕達を異次元の夢の世界へと誘ってくれます。ピアノの第2主題は変イ長調 で始まり、色彩豊かで繊細な旋律となっています。やがて音階等の装飾的なパッセージを経て、 ハ短調で始まる終結部となり、豊かな感興に乗って奏でるピアノパートが次第に高揚していき、 最後は重和音のトリルで、管弦楽に受け渡します。
軽やかなユニゾンで始まる本楽章の中間部は、本曲中技術的な難所としても知られ、とくに ヘ長調で始まる16分音符を主体とした後半部は、左手右手が絶え間なく不規則に動き回るので、 非常に弾きにくいです。演奏効果の高い部分なので、ここがうまく決まれば、本作品が非常に 引き締まり、情に流されないバランスのとれた演奏となるようなので、演奏者にとっては、ここを技術的に上手く 弾くことも大きな課題となります。
再現部は、提示部で現れた序奏の断片の後、いきなり変イ長調の第2主題から始まります。この第2主題部 には、後半様々な美しいパッセージが現れ、終結部はヘ短調で始まります。提示部のハ短調の終結部と 相対的にはほぼ同じものですが、調性が異なるため、その雰囲気に大きな違いが感じられるのは なかなか興味深いところです。最後は華やかなピアノのパッセージとこれも重和音のトリルにより 管弦楽にバトンタッチして、あとは管弦楽のみで終結し、最後はトゥッティで力強く終わります。

第2楽章 Larghetto 変イ長調 4/4拍子
3部形式。主部の変イ長調の旋律は非常に甘く悲しく夢見心地の調べです。透明なガラス細工のように繊細で、 トリルや装飾的パッセージがその豊かな楽想に彩りを添えます。ここは、本曲中、初恋の女性への憧憬の思いが 最も色濃く反映されているようです。ここを聴いてそのあまりの繊細さに不覚にも 涙を落としてしまった人も多いのではないかと思います。中間部では、管弦楽のトレモロの中で、 ピアノが不規則に動くユニゾンをひたすら弾き続けます。その焦燥感漂う楽句からは、彼の苦しみ悶える 様子が伝わってきて胸がうずくようです。 本楽章のこの夢見心地の幻想は、若きショパンの苦悩が昇華したもので、本曲のロマンティックな 雰囲気を象徴しているようです。

第3楽章 Allegro Vivace ヘ短調 3/4拍子
ロンド形式。ポーランドの民族精神が現れた楽章で、マズルカリズムやクラコヴィアクといった ポーランドの民族舞曲のリズムが現れます。ロンドの主題は軽やかですが、へ短調という調性のため、 民族色がより強調されているように聞こえます。管弦楽の中間奏を挟んで前半は、この主題が2回 繰り返されます。その後は、ピアノの華麗なパッセージが延々と続き、ピアニストの独壇場となります。 その中の小休止として、弦のピッツィカートに乗って、クラコヴィアク風のリズムをユニゾンで刻む ところもユニークです。3連符による長いピアノのパッセージはコーダと並び本楽章最大の聴かせどころ でもあります。 その後、再びロンドの主題に戻りますが、これは再現されるたびに装飾音が増えていきます。 コーダは一転してヘ長調に変わり、非常に華々しく華麗なパッセージで、全曲を締めくくります。

曲目 名曲度(最高5)体感難易度(最高10)一般的認知度(最高5)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11★★★★★★★★★★★★★★★★★★★+α
ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

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