漆黒の中に浮かび上がる山々。地の底から滲み出してきたような光。
この神秘の帷と光の世界の見えない扉をそっと開けてみたい。
具体的に描かず感じさせること
―――山水の様式美で表現しようとするものは。
私は単なる風景を描く気はない。山水は精神世界をイメージとしてもっています。それを、私たちが生活している現代と今に生きている古典・伝統との格闘によって自分なりの表現を作り出してきたのです。
―――もう少し説明してください。
作品化にあたり最も大切なことは見る人にインパクトを与える強さを持つこと。それを私は形象の単純化によって深遠さを求めています。山が静かに発している強力なエネルギーをどう表現していくか。形態から線のイメージを見ると弧形のような線形が抽出できます。その線のイメージの中にある何かを形にしようと少しずつ膨張させたり、単純化させていく。
―――それで弧の形が山の輪郭と決まってきた。
エネルギーは「気」であり、気は呼吸しています。山はその皮膚(山肌)で呼吸しているのです。そのエネルギーを感じさせるものとして弧は、左右同じようだが微妙に違います。富士山の左右の姿のように。
―――山肌は弧が鱗のようだが、もう一つの点描法は?
米芾(☆べいふつ)(北宋末の画家・書家。米の形をした点で山水を描いた)が創始した、「米点」と呼ぶ、横にした点の重なり方で絵の深さ、空間を表現する米点(☆べいてん)法です。私はいわゆる描く輪郭線を放棄したい、輪郭が墨のぼかし滲む線で感じさせる技法、線を放棄してどうそれを感じさせることができるか。具体的に描かずに感じさせられるか、試行錯誤の重複て、新たな技法をつくりました。
一回塗りでこそ生きる墨色
―――地の底からの光というか、光源不明の光だからこそ神秘的。
現実的な「光」でなく、夢なかの「光」、心に感じる「光」。エネルギーを表現するには西洋の透視光線法と違って、自由に「光たち」と遊ぶのです。気(エネルギー)を展開すると光になる――それを表現するための墨色のぼかしなのです。
月刊水墨画誌
2014年2月号紹介
私の濃墨とぼかし
での作品づくり
心に感じる形象、光、気
その単純化象徴化によって作品の深遠さを
―――墨を入れてから空刷毛でぼかすのでしょうか。
空刷毛は汚れやすいので注意してください。水を刷いて淡墨を伸ばすのも、墨が私の話を聞くような状態にするのですが、これは説明が難しいので、みなさんはぼかしに際しては次の三点を心がけてください。①水はいつもきれいに。②筆や刷毛はいつもきれいに。③なるべく重複させない。紙にもよるですが水を刷くとき、墨を入れるとき、ぼかしを入れるとき、行き一回のみで筆や刷毛を返さないこと。これが清浄を保ち、活墨――生きる墨になります。
―――この神秘な光は漆黒の闇があればこそですね。
最も濃い黒も淡墨もなるべく一回塗りです。墨の透明感、重量感のある状態が得られます。この一回塗りでは水が大切です。水と墨の融合の関係を図りながら描いていくのです。まず水を刷いて後、やや数分間を待つ、(水は紙の上の状態をよく見る)適当の時間帯に紙の上に軽く刷いて、墨を濃いままの状態で紙面に浮かべるわけです。それによって艶のない真っ黒な墨色が得られるのです。これを重ねてしまうと、墨が動き紙の中に入り込んでこのマットな黒が出ません。タイマーをつけて、水でどのくらい濡らし何時何分あとに墨を入れるか、これを二年間以上のテストしてたどり着いた結論です。
―――一点の作品の完成までに何日ぐらいかけるのですか。
毎日描くわけではないが、一日に十何枚程度、作品のベースをつくります。それをすぐ仕上がるではなく、時間の経過で、作品を冷静に見ることが必要です。そして仕上げていくわけですが、何ヶ月以上置けば、意識していなかったところが出てきます。私はそれを「神の手」と呼んでいます。それを生かして作品の完成につながることになります。
水墨秘技
破筆法
破れる筆で対象を描く、巧く破筆の割れた毛部分を生かす水墨表現技法です。(中国宋時代の梁楷や日本では曽我蕭白の作品にはすてに破れた筆で描いた様子が観られている。この「破筆画法」は呉一騏の現代版です。)
破筆画法による作例
筆底乾坤
破れる筆の運筆による、意外と妙な筆跡や線と面が面白く現われ。偶然性が満ちた破筆法と破墨法の併用でわたしの「水墨黄山」シリーズ作品の主な表現技法です。
「破筆山水の極意」一筆を以て天道を貫う
破れた筆の筆跡や、線と面が面白くに現われ、濃淡潤渇など偶然性と同時に、さまざまな表情が醸し出してくれる。現わる「筆跡」が新たな画面が生み、それを生かしながら「天人合一」という理念で、一氣呵成に描き出すことが破筆技法の極意である。
描きながら偶然性が満ちた筆跡が森羅万象に画面に現われ、それのイメージを感じされながら、画面上の構成、筆跡の巧み、線と面の疎密、墨の濃淡変化、余白の妙用などを臨機応変的なフロセスが作品に要求される。それは破筆の神韻である。
深い妙味の「妙技」どころでもある。描きながら増幅されたイメージ的原風景が限りなく湧いてくれる。
その筆跡によるあらゆる連想に展開させ、臨機応変によるさまざまな心象ができ、変化を起こしていく。心象のある余韻が画面を気韻生動に展開、意象的イメージと連携しながら、新たな空間やバランスを生み出されてくる。それは現代の水墨画表現にも応用できる技法である。
破筆法による無意識的なでき部分に画面上の構成や筆の運び状態による、面白くに展開することは偶然性と必然性が生み、それを生かしながらさらなる作品の筆技墨趣の品格が高くなれる。
破筆技法はすべて「破筆の妙用」にある。
水墨藝術社企画・実技動画DVDビデオ水墨技法教材
DVDビデオ各巻の時間は約60分各家庭用DVDプレーヤー再生できます
DVD動画水墨画秘技教材見本動画実技DVDビデオ「破筆山水」No.5
破筆法の基本筆法=破れた筆で墨の濃淡をつける方法による墨色の変化は豊かになる。また破筆の一部分か全部使うと、さらに変化をみられる、用筆の軽重であらゆる筆勢が面白い筆跡を生かし、新たな筆技墨趣できる。作品に筆遊びや韻味も上がるでしょう。
筆中含める墨の濃淡によるさらに天成的な余韻が生み、同時に破れた筆の毛の一部の筆勢を利用し、細かい部分も描き出すこともさらなる筆韻が昇華される。