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2021年 第18回ショパン国際ピアノコンクール第1次予選レビュー

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~2021年 第18回ショパン国際ピアノコンクール第1次予選レビュー~

参考リンク
Chopin InstituteのYouTube公式チャンネル
ⅩⅧ KONKURS 18TH CHOPIN COMPETITON WARSAW

各予選・本選の記事
第18回ショパン国際ピアノコンクール・予備予選レビュー
第18回ショパン国際ピアノコンクール・第1次予選レビュー
第18回ショパン国際ピアノコンクール・第2次予選レビュー
第18回ショパン国際ピアノコンクール・第3次予選レビュー
第18回ショパン国際ピアノコンクール・本選レビュー

ショパンコンクール日程
第1次予選:10月3日~7日
第2次予選:10月9日~12日
第3次予選:10月14日~16日
本選:10月18日~20日


2021年第18回ショパン国際ピアノコンクール・第1次予選
ショパンコンクール第1次予選は、10月3日午後5時(ポーランド現地時間10月3日午前10時)から開催されています。

実況中継リンク
第1次予選:10月3日前半
第1次予選:10月3日後半
第1次予選:10月4日前半
第1次予選:10月4日後半
第1次予選:10月5日前半
第1次予選:10月5日後半
第1次予選:10月6日前半
第1次予選:10月6日後半
第1次予選:10月7日前半
第1次予選:10月7日後半 ← 今ここです

または下の埋め込み動画も直接見ることができます。

実況中継のアドレスはその都度、変更されます。ホームページの更新が追い付かない場合もあると思いますが、 その場合には、下のリンクをクリックしてChopin InstituteのYou Tube公式チャンネルに行ってみてください。

Chopin InstituteのYouTube公式チャンネル

審査員の交代

今回の審査員を改めて確認したところ、なんと重鎮中の重鎮マルタ・アルゲリッチがいなくなっていて、 アルトゥール・モレイラ・リマに代わっています。 事情は分かりませんが、この審査員メンバー交代が審査結果に及ぼす影響は決して小さくないと思います。 この変更が各コンテスタントにとって吉と出るか凶と出るか、成り行きを見守りたいと思います。

コンテスタント(出場者)と演奏順(9月30日発表)

ショパンコンクールの出場者の演奏はファミリーネームのアルファベット順に行われますが、その先頭は抽選で決まります。 今回は、”M”でした。従って、トップバッターは中国のXuanyi Maoさんになります。 この順は最後の本選まで反映されます。

トップバッターになるのはどう考えても不運ですが、ある程度、早い段階で演奏が終わった方が 精神的に楽かもしれず、そこはそれぞれのコンテスタント次第と言えます。 しかし、この演奏順が最後の本選まで反映されることを考えると、演奏順は後の方が若干有利とも言えそうです。

このページでも演奏順を掲載していますが、これは、 ショパンコンクール公式サイトでの発表によるものです。
日本人コンテスタント、お気に入りのコンテスタント、注目されているコンテスタントが登場する日時は 要チェックですね。

僕自身、どうしても聴けない時間帯(仕事のため、平日の午後6時30分頃まで、また午前3時以降はさすがに 睡魔に勝てなさそうで・・・)があるため、 その奏者のチェックはリアルタイムではできないですが、前半・後半の3時間の休憩時間中、または翌日の 空き時間などに、かいつまんでチェックしておきたいと思います。 これは僕が知らない間に、実はとてつもない名演を披露したコンテスタントが出ていた、 というようなチェック漏れを防ぐためです。 リアルタイムに聴けずに終わってしまった演奏を後から数分聴いて、「注目するほどではない」と思ったコンテスタントは それ以上聴かずに、判定を「?」で終わらせてしまうこともあります(前回2015年同様)。

第1次予選出場者一覧

10月3日前半10時~14時(日本時間:10月3日(日)午後5時~9時)
1.Xuanyi Mao, China
2.Tomasz Marut, Poland
3.Yupeng Mei, China
4.Arsenii Mun, Russia
5.Szymon Nehring, Poland(予備予選免除)
6.Viet Trung Nguyen, Vietnam/Poland
7.Georgijs Osokins, Latvia
8.Evren Ozel, U.S.A.(予備予選免除)
9.Kamil Pacholec, Poland(予備予選免除)
10月3日後半17時~21時(日本時間:10月4日(月)午前0時~4時)
10.Jinhyung Park, South Korea
11.Yeon-Min Park, South Korea
12.Piotr Pawlak, Poland(予備予選免除)
13.Leonardo Pierdomenico, Italy
14.Zuzanna Pietrzak, Poland
15.Hao Rao, China
16.Yangyang Ruan, China
17.Sohgo Sawada, Japan
18.Aristo Sham, China, Hong Kong
10月4日前半10時~14時(日本時間:10月4日(月)午後5時~9時)
19.Miyu Shindo, Japan
20.Talon Smith, U.S.A.
21.Kyohei Sorita, Japan
22.Szuyu Su, Chinese Taipei
23.Hayato Sumino, Japan
24.Yutong Sun, China(予備予選免除)
25.Aleksandra Świgut, Poland
26.Rikono Takeda, Japan
27.Shun Shun Tie, China
10月4日後半17時~21時(日本時間:10月5日(火)午前0時~4時)
28.Sarah Tuan, U.S.A.
29.Tomoharu Ushida, Japan(予備予選免除)
30.Zitong Wang, China
31.Zijian Wei, China
32.Marcin Wieczorek, Poland
33.Andrzej Wierciński, Poland
34.Victoria Wong, Canada
35.Yuchong Wu, China
36.Lingfei (Stephan) Xie, Canada/China
10月5日前半10時~14時(日本時間:10月5日(火)午後5時~9時)
37.Zi Xu, China
38.Yuanfan Yang, United Kingdom
39.Anastasia Yasko, Russia
40.Andrey Zenin, Russia
41.Boao Zhang, China
42.Yilan Zhao, China
43.Ziji Zhao, China
44.Piotr Alexewicz, Poland(予備予選免除)
45.Leonora Armellini, Italy
10月5日後半17時~21時(日本時間:10月6日(水)午前0時~4時)
46.J J Jun Li Bui, Canada
47.Michelle Candotti, Italy
48.Kai-Min Chang, Chinese Taipei
49.Junhui Chen, China
50.Xuehong Chen, China
51.Zixi Chen, China
52.Hyounglok Choi, South Korea
53.Federico Gad Crema, Italy
10月6日前半10時~14時(日本時間:10月6日(水)午後5時~9時)
54.Aleksandra H. Dąbek, Poland
55.Alberto Ferro, Italy
56.Yasuko Furumi, Japan
57.Alexander Gadjiev, Italy/Slovenia
58.Avery Gagliano, U.S.A.(予備予選免除)
59.Martin Garcia Garcia, Spain
60.Eva Gevorgyan, Russia/Armenia
61.Jorge Gonzalez Buajasan, Cuba
62.Joanna Goranko, Poland
10月6日後半17時~21時(日本時間:10月7日(木)午前0時~4時)
63.Chelsea Guo, U.S.A.
64.Eric Guo, Canada
65.Saaya Hara, Japan
66.Yifan Hou, China
67.Wei-Ting Hsieh, Chinese Taipei
68.Kaoruko Igarashi, Japan
69.Riko Imai, Japan
70.Junichi Ito, Japan
10月7日前半10時~14時(日本時間:10月7日(木)午後5時~9時)
71.Asaki Iwai, Japan
72.San Jittakarn, Thailand
73.Jooyeon Ka, South Korea
74.Adam Kałduński, Poland(予備予選免除)
75.Nikolay Khozyainov, Russia
76.Su Yeon Kim, South Korea
77.Aimi Kobayashi, Japan
78.Mateusz Krzyżowski, Poland
79.Jakub Kuszlik, Poland
10月7日後半17時~21時(日本時間:10月8日(木)午前0時~4時)
80.Shushi Kyomasu, Japan
81.Hyuk Lee, South Korea
82.Jaeyoon Lee, South Korea
83.Xiaoxuan Li, China
84.Bruce (Xiaoyu) Liu, Canada
85.Julia Łozowska, Poland
86.Jiana Peng, China
87.Chao Wang, China


各セッションの見どころ(聴きどころ)と管理人の予定

10月3日(第1次予選1日目)
僕自身の予定については、第1次予選初日の10月3日はコールさえかからなければ、トップバッターのXuanyi Maoさんから 聴くことができます。この人は予備予選で演奏した超難曲のエチュードOp.10-2がとても滑らかで素晴らしかったのが印象に残っています。 10月3日の前半(午後5時~)には、予備予選免除者が3人出場します。 そのうち、Szymon Nehringさんは前回2015年ショパンコンクールのファイナリストからの再挑戦ですが、 他の2人、Evren OzelさんKamil Pacholecさんの演奏は初めて聴くことになります。 未知の才能に巡り合えるか、期待大です。 また予備予選でとても軽妙で洒脱な美音と高いセンスを感じさせる演奏で、僕自身が注目しているArsenii Munさんが4番目に登場しますし、 前回ショパンコンクールファイナリストの個性派、Georgijs Osokinsさんが登場します(この人の演奏は どうしても好きになれませんが・・・)。

この日の後半には、個人的に注目している美音とダイナミズムが魅力的な再挑戦韓国人Jinhyung Parkさん、 自然な節回しと高い完成度の17歳天才中国人Hao Raoさんが出場します。 予備予選免除のPiotr Pawlakさんもどのような演奏をしてくれるか、楽しみです。 ここまで聴いて、「後は寝よう」と切り上げられれば良いのですが、 午前4時頃に、名古屋大学の医学生の沢田蒼梧さんが登場します。 ここは何としても、根性で聴き通さなければ・・・と覚悟しています。 というのも、僕自身、以前は医学生で、それに沢田蒼梧さんの音色は魅力的で日本人としては 特に期待できる人の1人でもあるためです。 睡魔に打ち勝つ自信はあまりありませんが、途中で寝落ちしないことを祈るのみです。 ここで切り札の「まぶたにマッチ棒」が出るか・・・(もちろん冗談ですよ)。 明日はできれば日中寝だめして、備えたいと思います。

10月4日(第1次予選2日目)
10月4日前半(午後5時~)は注目の日本人が目白押しです。 この日のトップは進藤実優さんで、この人の演奏も聴きたいのですが100%聴けないことは確定です。 また注目の反田恭平さんが午後6時頃から出場予定です。 ここはどうしても聴きたいのですが、仕事の関係で難しそうです。 前半・後半の休憩時間に要チェックですね。 また話題沸騰中の東大卒ユーチューバーピアニスト角野隼斗さんが午後7時30分頃から出場予定です。これは何とか間に合いそうです。 このグループの後半には、再挑戦の日本人で予備予選では説得力のある演奏を披露した竹田理琴乃さんが登場しますし、 僕自身が特に注目している、輝かしい美音と高い総合力の中国人Shun Shun Tieさんがこのセッションの「取り」です。

この日の後半は、風変わりでキュートなアジア系アメリカ人、Sarah Tuanさん(この人、小柄そうなのに、 指がすごく長いですね)から始まり、 その次に、2018年浜松国際ピアノコンクール第2位の実績で予備予選が免除された期待の日本人、牛田智大さんが登場します。 その他、前回のショパンコンクールにも出場し知名度を獲得した再挑戦のポーランド人、Andrzej Wiercińskiさん も登場しますし、美音の持ち主で個人的に注目している中国人、Lingfei (Stephan) Xieさんも登場します。 深夜というよりも明け方の時間帯で、リアルタイムでの視聴は難しいと思いますが、この人の演奏は後で必ずチェックして おきたいと思います。

10月5日(第1次予選3日目)
10月5日(火)の前半は、比較的見どころが少ないような気がします。 予備予選の演奏に関しては、この中では、ロシアのAnastasia Yaskoさんの演奏が心にすっと入ってくる 清純で美しい演奏で個人的には好きでした。 このセッションは、予備予選免除のポーランド人(Piotr Alexewiczさん)もいるので、ここに注目しましょうか。

この日の後半は、僕自身にとっては、台湾のKai-Min Changさんが大注目です。 予備予選でこの人が演奏したノクターンOp.48-1はとてつもなく美しく感動的な演奏で、危うく涙があふれ出そうになったほどです。 予備予選ではエチュードOp.10-7が弾けていなかったため、他の曲で勝負してほしいと思っているのですが・・・ (予備予選と1次予選のエチュードは重複しないようにという規定があるようですので、大丈夫そうです)。 その他、このセッションでは、韓国のHyounglok Choiさんが注目(この人は見た目が中性的ですが、 その傾向はなさそうでしょうか)と思いますが、この流れの中で 際立って優れた演奏ができるのか、見守りたいと思います。

10月6日(第1次予選4日目)
10月6日(水)の前半は、ポーランド美人Aleksandra H. Dąbekさんから始まります (いきなり変なことを言うようですが、この人、若い頃のツィマーマン(ツィメルマン)に似ていませんか?)。 日本人の古海行子さんが3番目、午後6時頃から出場予定ですが、僕の方はさすがに間に合わないと思います。 またその直後、午後6時30分頃から、2015年の浜松国際ピアノコンクールの覇者、注目のAlexander Gadjievさんが登場します。 ここはぎりぎり間に合うかどうか、ぎりぎりアウトの予感がしますが、休憩時間に必ずチェックしておきます。 その他、予備予選免除のAvery Gaglianoさん、才能豊かなロシア人女性Eva Gevorgyanさんも 登場します。

この日の後半は、午前1時頃から、原沙綾さんが出場します。 またその後、無名の17歳中国人Yifan Houさんが出場します。 この人は全く注目されていないようですが、予備予選の演奏を聴く限り、僕の中では上位一握りには確実に入る逸材で、 密かに注目しています(詳しくは予備予選記事に記載した通りです)。 この深夜の時間帯の最後3人に日本人が固まってしまいました。 五十嵐薫子さん、今井理子さん、伊藤順一さんの3人です。 この時間帯は睡魔に打ち勝つのはさすがに厳しそうですが、最後まで頑張って聴いてしまうかもしれません。 というのも、10月7日(木)は仕事が休みですので、多少の無理がききます。

10月7日(第1次予選5日目)
この日は仕事が休みですので、最初から聴くことができます。 10月7日(木)の前半は、日本人の岩井亜咲さんから始まります。 また予備予選免除のポーランド人Adam Kałduńskiさんが登場します。 また前々回2010年ショパンコンクールファイナリスト、当時天才少年と騒がれたNikolay Khozyainovさんが 登場します。当時と比べて魅力が薄れてしまった印象で、僕自身、この人の演奏はあまり好きではありませんが、 それでも何故か人間として応援したくなってしまい、複雑な心境です。 そして、最も注目される日本人、小林愛実さんがここで登場します。本選進出を睨むと、ここは好位置です。 このセッション最後には、個人的に注目しているポーランド人、Jakub Kuszlikさんが登場します。 ここでも完成度抜群、安定の演奏を披露してくれるでしょうか。

この日の後半は、最初に日本人の京増修史さんが登場します。 予備予選ではミスが少なく美しい演奏をしており、今回の予選でも期待できると思います。 1次予選はエチュードOp.10-1、Op.25-6、スケルツォOp.54と攻めのプログラミングでこの人の意欲が伺われます。 また韓国のHyuk Leeさんも予備予選では良い演奏をしており、注目の1人と思っています。 その他、Xiaoxuan LiさんBruce (Xiaoyu) Liuさんは演奏の特徴や傾向は異なるものの、 予備予選ではともに大物の片鱗が垣間見られていて、 10月からの本番で大化けする可能性を秘めていると思います。

以上、今回のショパンコンクール第1次予選について、各セッション毎の見どころ、聴きどころを、 管理人の視点で概観してきました。 各セッションを聴くときの参考の一助にしていただければと思います。

全ての演奏を聴くことは不可能ですが、時間と体力の許す限り、可能な限りリアルタイムで聴いて、 コメントと評価を付けたいと思います。

管理人的ランク・各コンテスタントの演奏に対する感想・コメント

各コンテスタントの演奏を、管理人的な好みに合うかどうか、好みに合わなくてもレベルが高いかどうかで、A,B,C,D,E,?でランク付けしました。
A:非常に素晴らしい・感動した
B:好ましい演奏だと思う
C:どちらとも言えない
D:やや不満
E:大いに不満
?:演奏を聴いていない

但し言うまでもなく音楽の好みは人それぞれですし、この評価はあくまで管理人の個人的な好みによる主観的評価であることを 再度、付け加えておきます。予想というよりも、管理人の好みに合うかどうかで大きく変わるため、 誰が聴いても文句なしという抜群に上手い人を除けば、結果は外れることが多いだろうと予想されます。 ちなみに何度も書いていますが、管理人の音楽的志向は保守的で、美しくオーソドックスで完成度の高い演奏が好みです。 それと音色のウエイトがかなり高いです(好みでない音色のピアニストの演奏を聴き続けるのはかなりストレスフルですよね)。 テクニックに関しては粒が揃った軽妙で筋の良い演奏が好みで、ミスタッチは正確に拾うことができますが、 高い技術を持つ人の偶発的なミスに対しては寛容です。一方、明らかに技術的に弾けていない演奏や、 そのためにミスを乱発する演奏に対してはかなり辛い評価をする傾向があります。

10月3日(第1次予選:1日目)
前半:10時~14時(日本時間:10月3日(日)午後5時~9時)
B 1.Xuanyi Mao, China
ノクターンOp.48-1は音の輝きはあまりないものの深い音色で、美しくピアノを歌わせた完成度の高い演奏でした。 エチュードOp.10-5は軽妙で音の粒が揃い音楽的で素晴らしい演奏。エチュードOp.25-6はやや遅めのテンポですが、 音の粒立ちが素晴らしく完成度の高い素晴らしい演奏でした。幻想曲Op.49は技術的にも隙がなく完成度の高い演奏でしたが、 欲を言えばそこに輝きや閃きが欲しい気がしました。全体的な音量もやや控えめな印象です。 全体的に音の輝きや個性、面白みがあまりなく硬い印象ですが、これはトップバッターの重圧もあるのかと思いました。 但し平均的な演奏レベルは高く安定度はかなりものがあるので、まずここは通してあげたいと個人的には思います。 トップバッターはどんなに良い演奏を披露しても、あくまでそれ以降の基準にしかならず、それ自体の評価は 「とりあえず保留」となってしまうのが悲しい現実ですが・・・

D 2.Tomasz Marut, Poland
ノクターン枠でエチュードOp.10-6を選曲。直前のMaoさんの音と比較すると、とても柔らかく豊かで深くて驚きました。 音楽的でセンスの良いルバートだと思いました。 エチュードOp.10-1は非常にダイナミックですが、技術的な粗が目立ちました。 エチュードOp.10-2は一応弾けているのですが、技術的に苦しくテンポが安定せず不自然な演奏だと思いました。 スケルツォOp.54はエチュードに比べるとマシですが、ミスタッチは多く技術的にやや苦しいのが分かりました。 もう少し易しい曲で勝負するという戦術もあっただろうにと思うのですが・・・ ところどころはっとするような美しい音色が出る瞬間があり捨てがたいものはあると言えばありますが、 通過は難しいと思います。

C 3.Yupeng Mei, China
ノクターンOp.62-1はピアノが箱鳴りしていて良い音色です。閃きや感動には乏しいですが標準的で良い演奏だと 思いました。 エチュードOp.10-8は標準的なテンポで音の粒も揃っていて、表現の工夫もあり音楽的で良い演奏だと思います。 エチュードOp.25-10の主部は迫力がありこの曲にありがちな音の濁りはかなり抑えられているという印象でした。 中間部の旋律は夢想的で美しく歌わせていて良い演奏だったと思います。 幻想曲Op.49は最初の「雪の降る街を」のテーマの部分で、音を意識的に切っていて、ユニークな解釈が印象的です。 所々で、あれっ?というような大きなミスタッチが多く、また緩徐部の節回しが魅力に乏しくやや退屈なのがマイナス点で、 難所で腕が鳴るタイプのようです。このような演奏はどのように評価すればよいのか、扱いに困ります。 評価Cでとりあえず保留としておきます。通過するかどうかはこの後の出場者の演奏次第ではないかと思います。

B~C 4.Arsenii Mun, Russia
アジア系が入っていそうなイケメンロシア人男性。予備予選の演奏を聴いてから個人的に特に注目している人です。 ノクターンOp.48-2は、夢想的で美しい音色と繊細な抒情表現で最初から惹き込まれました。 予備予選で聴いたこの人のこの曲の演奏に対する感動をそのまま再確認できました。 ダイナミックな部分でも音色が豊かで表現の振幅が大きく本当に素敵な演奏です。 エチュードOp.10-1は冒頭で大きなミスタッチがあり、全体的に技術的に苦しいという印象です。 エチュードOp.10-2は粒揃いが悪く不安定で上ずっていてやや奇妙な演奏でした。 バラードOp.23は情熱的でダイナミックな演奏ですが、やや粗いと思いました。 ノクターンの表現は良いのですが、エチュード2曲が弾けていないことを考えると、 総合評価はどうひいき目に見ても、Bが妥当だろうと思います。この人の演奏をもう一度聴いてみたいとは思うため、 もう一度チャンスを、と個人的には思います。それにしても、エチュードはもっと易しい曲で勝負する戦術もあったでしょうに・・・

B 5.Szymon Nehring, Poland(予備予選免除)
前回2015年ショパンコンクールのファイナリストで再挑戦組です。 ノクターンOp.55-2はかなりルバートやためを多めに入れて曲線的に弾き進めていく演奏で、 濃厚なロマンティシズムが漂う演奏で、やや流れが停滞する印象がありました。 エチュードOp.10-10はやや遅めのテンポで、1つ1つの音をコントロールしていました。 節回しはとてもセンスが良くロマンティックで美しい演奏でした。 エチュードOp.10-1は技術的にはやや粗さはありますが、ダイナミクスと軽快さとを同居させており、センスの良さが感じられました。 バラードOp.52はテンポルバートを多用した濃厚なロマンティシズムが漂う演奏でした。 技術的には粗があり精度は高くないと思います。 このような演奏は好き嫌いがかなり分かれると思いますし、正直に言うと個人的には好きではありませんが、 これまでの平均的レベル以上は確実にあると思います。通過に一票です。

B 6.Viet Trung Nguyen, Vietnam/Poland
ノクターンOp.27-2は、やや硬いかなという印象ですが、美しい音色でセンス良く歌っていて良い演奏でした。 この曲、コンテスタントによっては聴きなれないアドリブ風な装飾的パッセージを挿入する人を最近複数見かけますが、 エキエル版にそのような記載があるのでしょうか(不勉強ですみません)。 エチュードOp.10-12は標準的で力強さも十分であり、好ましい演奏でした。 エチュードOp.25-4は多少のミスタッチはありますが、ほぼ完璧でした。右の旋律の音量がもう少し出ているとなおよいと思いましたが、 これは緊張のせいだと思います。 バラードOp.52はセンス良く美しく歌っていて、難所も技術的に上手く弾けていたと思います。 全体的にスケールが小さくこじんまりしている印象ですが、とても繊細でバランスの良い素晴らしい演奏だったと思います。

C 7.Georgijs Osokins, Latvia
ノクターンOp.62-1はかなりテンポルバートと多用した演奏で、聴く人をぐいぐいと引っ張っていくような、 なかなか興味深い演奏でした。 エチュードOp.25-6は技術的にはかなり怪しく弾けていない部分が多いですが、仕方ないと思います。 エチュードOp.10-12は、雄渾でホロヴィッツばりの凄みのあるユニークな演奏でした。 バラードOp.47も、かなり細部をデフォルメして、かなり自由に弾き進めていく癖の強い演奏でした。 こうした演奏は好みが分かれると思いますし、僕はどうしても好きにはなれないのですが、 僕ばかり1人で通過に反対意見を唱えても仕方ないと思いますし、ある程度、妥協して、この人を個性派枠で 通過させてあげてもよいかと思い始めました。ただしショパンコンクールはあくまでショパン弾きを発掘する場であることを 忘れなければ、という条件付きですが・・・

C 8.Evren Ozel, U.S.A.(予備予選免除)
ノクターンOp.62-1は深い音色でとても自然でセンスが良くロマンティックで美しい演奏でした。 エチュードOp.10-8は常識的で落ち着いたテンポで1点1画きっちりと弾いていますがミスもそれなりにあり決め手に欠ける印象です。 エチュードOp.25-4も落ち着いたテンポで良い演奏ですが、前曲同様、やや安全運転のきらいがあります。 幻想曲Op.49は常識的な好演奏ですが、やや流れが淡々としている印象です。もう少し力強く情熱的な演奏が 好みです(あくまで好みの問題ですが)。 この人の演奏は至ってオーソドックスで訴えるものが少ないようで、印象に残りにくいと思いました。 この傾向でもっと完成度の高い演奏をするコンテスタントはこの後、たくさん出てくると予想されますし、その中で この人をあえて積極的に残す理由があるかどうか・・・個人的にはこれ以上は聴かなくても・・・という感じですが・・・

C 9.Kamil Pacholec, Poland(予備予選免除)
ノクターンOp.27-2はやや薄めの美しい音色でオーソドックスで美しい演奏でした。細かいパッセージも きれいに粒が揃っていました。 エチュードOp.10-4は常識的なテンポ設定で切れ味が今一つで粒が粗いのと主題の再現部で小事故がありました。 エチュードOp.25-10の主部のオクターブ連続では強奏で音が詰まる傾向があるのが気になりました。 緩徐部のオクターブ旋律部は美しくロマンティックな演奏で良いと思いました。 舟歌Op.60はやはり薄めの響きで弱音美を際立たせることを強く意識しているように感じましたが、 個人的にはもっと重厚な低音に支えられたダイナミックで情熱的な演奏が好きです。 ピアノの鳴りが悪いような気がするのはピアノのせいなのか会場の湿度のせいなのか自分の耳が疲れているからなのか、 よく分からなくなってきました。いずれにしてもあまり惹かれるものは正直感じられなかったです。

後半:17時~21時(日本時間:10月4日(月)午前0時~4時)
B 10.Jinhyung Park, South Korea
ヤマハピアノを使用。 ノクターンOp.48-1は芯のしっかりしたシャープな音色で、緩徐部は深い共感に満ちた自然なフレージング、 後半の盛り上がりも重厚で深い低音の響きに支えられてダイナミックな盛り上がりを見せていて見事でした。 エチュードOp.25-5はややミスが目立ちましたが、中間部の節回しが魅力的でした。 エチュードOp.10-1は多少のミスタッチはありますが、ほとんどの音は芯でとらえており、粒立ちが非常に良く、 音楽的にも素晴らしい演奏でした。 バラードOp.23は情熱的でダイナミックで完成度の高い演奏でした。 予備予選はもう少し良い演奏でしたが、今回も悪くないと思います。通過に一票です。

C 11.Yeon-Min Park, South Korea
スタインウエイピアノを使用。韓国人ですが日本のアイドル的な顔立ちの女性ですね。 ノクターンOp.9-3は、夢見るような明るく豊かな響きでとても自然な流れの美しい演奏でした。 この人は予備予選では前奏者のParkさんのダイナミズムの後で影が薄かったのですが、 今回の1次予選はむしろ逆でこの人の演奏の美しさが引き立つ結果となりました。 エチュードOp.25-6はテンポが安定せず怪しい演奏ですが、難曲なので致し方ないと思います。 エチュードOp.10-4は確実に弾ける遅めのテンポ設定ですが、やや粒立ちが悪く切れ味が良くないようです。 スケルツォOp.54は悪くないのですが、切れ味の悪さ、細かいパッセージの音の不揃いがどうしても気になります。 技術的に弱いのだと思います。この曲の中間部やノクターンなどは魅力的で音楽的には良いものを持っていそうですが・・・

C~D 12.Piotr Pawlak, Poland(予備予選免除)
スタインウエイピアノを使用。 ノクターン枠でエチュードOp.10-6を選曲。 遅めのテンポで憂鬱さを表現しようという意識が強いと思うのですが、そのせいか流れが停滞しているように感じました。 エチュードOp.10-2はテンポが不安定で、指が滑りがちな中間部のテンポが不自然に速くなるなど、 安心して聴けない演奏でした。テクニックが弱いのだと思います。 エチュードOp.10-12は荒削りの迫力があり、なかなか良い演奏だと思いました。 バラードOp.52ははっとする瞬間はあり、また標準より遅めのテンポによる暗い情緒表現など 惹かれる部分はありますが、やはり流れが停滞するのと、拍子感、リズム感が悪いようで、 船酔いするようなテンポルバートなど個人的には好きになれない演奏でした。

D 13.Leonardo Pierdomenico, Italy
スタインウエイピアノを使用。 ノクターンOp.62-1はクリアで澄んだ音色で深いロマンを湛えた抒情表現が見事でした。 この人は予備予選でも特に美音が際立っていたのが印象に残っています。 エチュードOp.10-10は、1指と2-5指の音量と音価のバランスが変だと思いました。 技術的にどうしても弾けないのでしょうか。これは大幅に減点せざるを得ないです。 エチュードOp.10-4は技術的に弾けていない、雑でおかしな演奏になっていました。 もっと遅いテンポで弾けばよかったのに、と思います。 バラードOp.23はそれに比べると悪くないですが、やはり技術的には粗が多い演奏でした。 いずれにしてもエチュードでの失点が大きすぎて、まず通過は難しいと思います。

※はあ~・・・良い演奏というのは、こんなにも現れないものでしょうか。今日はちょっと疲れました。 17歳天才中国人Hao Raoさんがこの悪い流れを断ち切ってくれることを期待していますが、 ちょっと眠くなってきました。そこまで頑張れるかどうか・・・ここで寝たら良眠できなさそうです(苦笑)。

B~C 14.Zuzanna Pietrzak, Poland
スタインウエイピアノを使用。 ノクターンOp.62-2は速めのテンポで比較的自在にテンポを動かした演奏。 個人的にはこの曲はもっと落ち着いた、安定したテンポの演奏が好きですが・・・ エチュードOp.10-12は情熱的で良い演奏でしたが、途中でやや大きい左手のミスの連鎖がありました。 エチュードOp.25-10はオクターブ連続の強奏で音が詰まるのは仕方ないでしょうか。 中間部の旋律部はやや大きいミスがありました。女性に多いのですが、この人はフレージングの息が短い傾向があると思います。、 個人的にはもう少し静謐で静かな情熱をじわじわと時間をかけて少しずつ放出していく演奏が好みです。 バラードOp.23は情熱的で技術的にも弾けてはいますが、やはりテンポを動かしすぎのきらいがあると思いました。 そこまで強く惹かれるものは感じませんが、1次は通過で良いのではないかと思います。

A 15.Hao Rao, China
予備予選の演奏を聴いて特に惹かれて、その時からずっと注目している17歳中国人です。 スタインウエイピアノを使用。夢見るようなソフトで優しいタッチで、ビロードのような肌触りの美しい音色。 ノクターンOp.27-2は遅めのテンポで、各楽想を俯瞰的に眺めながら息の長いフレージングで歌い上げていました。 夢見心地で素晴らしいノクターンだったと思います。 エチュードOp.10-10は遅めのテンポで1つ1つの音を大切に扱った演奏。 ショパンがこの曲に込めた思い・詩情を余すところなく表現していて素敵な演奏・・・と思ったら、 最後の方の、3重和音で移動するパッセージで音をひっかけて しまいました。ここは僕もよく引っかけるので、分かります(苦笑)。「ああ、やっちゃったか」と・・・ 同じ17歳中国人でライバル(と僕が思っている)Yifan Houさんの予備予選でのこの曲の超名演にはやはりかなわないですが・・・ エチュードOp.25-11はところどころミスタッチは散見されるものの、粒立ちは揃っており完成度は高いです。 スケルツォOp.31は、特に変ト長調で始まる第2主題の歌わせ方が何とも自然でロマンティックで素敵な演奏でした。 やはり彼は天才です。今日初めての評価Aです。あー、ここまで起きていて良いものが聴けて良かったです!

ここまでで今日は寝ます。おやすみなさい。

? 16.Yangyang Ruan, China
ノクターンOp.48-1、エチュードOp.10-7、エチュードOp.10-8、幻想曲Op.49

A~B 17.Sohgo Sawada, Japan
(リアルタイムで聴けず翌日の夜に記載) シゲル・カワイを使用。 バラードOp.23は、センスの良い自然な節回し、細かいパッセージも非常に粒立ちが良く、完成度の高い素晴らしい演奏でした。 強奏で金属的な音色になるのは、ピアノやマイクセッティングの影響もあると思います。 ノクターンOp.27-2は、予備予選で聴いた時と同じか、あるいはそれ以上に節回しのセンスの良さが光る演奏でした。 旋律や和声の進行を俯瞰して、情熱を冷静にじわじわと放出していく、フレージングの息の長さ・・・ これができているコンテスタントはほんの一握りですが、この人はそれが当たり前のようにできているように思います。 エチュードOp.25-6は最近にしては落ち着いたテンポで、やや怪しいところはありましたが、 今回のコンクール(予備予選を含めて)でこの曲を弾いたピアニストの上位一握りには確実に入ります。 エチュードOp.10-4も落ち着いたテンポで、音の粒立ちが良く、聴いていて気持ちの良い演奏でした。 全体として素晴らしい演奏でした。1次予選通過だけではなくその次も行けるレベルだと思います。

? 18.Aristo Sham, China, Hong Kong
ノクターンOp.48-1、エチュードOp.10-8、エチュードOp.25-6、バラードOp.52

10月4日(第1次予選:2日目)
前半:10時~14時(日本時間:10月4日(月)午後5時~9時)
B~C 19.Miyu Shindo, Japan
(リアルタイムで聴けず翌日の夜に記載) スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.48-1は独特の世界観を持った演奏でしたが、 音量が小さく流れが停滞しているような気もします。僕はもう少し流れが良くダイナミックな演奏が好きなので 好みの方向性は違いますが、興味深い演奏であることは確かです。 エチュードOp.25-6はミスタッチはありましたが、概ね良い演奏でした。 エチュードOp.10-1は中間部の指を一番広げなければならない部分で、やはりという音抜けとミスタッチがありましたが、 それ以外はきちんと弾けていて概ね良い演奏でした。 バラードOp.47はユニークな演奏で和音の構成音を意図的にずらして弾くなど、独特の工夫(というか癖なのでしょうか) があり、僕はそれがどうしても耳について、ねちっこく鬱陶しい感じがして好きになれないのですが、 これは好みの問題でしょうか。個人的にはもっとスマートで清々しい演奏が好みです。

? 20.Talon Smith, U.S.A.
ノクターンOp.48-1、エチュードOp.10-5、エチュードOp.25-6、バラードOp.52

A~B 21.Kyohei Sorita, Japan
(リアルタイムで聴けず翌日の夜に記載) スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.62-1は細部まで実によく考えられた表現で、聴かせどころを心得た演奏という印象でした。 ショパンの音楽そのものというよりも、 反田さんのフィルターを通して聴こえてくるといった印象の演奏でした。 エチュードOp.10-1はところどころミスタッチもありましたが、技術的にはレベルが高く表現がよく考え抜かれていました。 エチュードOp.25-10は主部のオクターブ連続部は迫力のある渾身の演奏、対する中間部は柔らかい音色で 息の長いフレージングでセンス良く歌い上げられていて素晴らしい演奏でした。 スケルツォOp.31は旋律もよく歌っていますし十分に美しいのですが、それでも立派さの方が際立っていました。 全体として非常に上手くまとめられていて、この人の手腕の確かさが際立つ印象でした。 ここは確実に通過できると思います。

A~B 22.Szuyu Su, Chinese Taipei
(リアルタイムで聴けず10/7に記載) スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.62-1はふくよかでありながらもしっかりとした芯と輝きのある素晴らしい音色でピアノをいっぱいに歌わせていて、 全ての流れが自然でこの上なく美しい極上のノクターンでした。 エチュードOp.10-1はほとんど全ての音を芯でとらえていて、しかもダイナミックで音楽的にも魅力的で素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-2は滑らかで音の粒もきれいに揃い、リズムも歯切れよく完璧な演奏でした。 幻想曲Op.49は十分にダイナミックですが、細かい音の粒にも神経が行き届いていて、美しく隙の少ない完成度の高い演奏でした。 前回2015年のKate Liuさんと似たような魅力を感じました。この人もかなりいいところまで行きそうな印象です。 リアルタイムで聴けずに危うくチェック漏れになるところでした。

B 23.Hayato Sumino, Japan
スタインウエイピアノを使用。 ノクターンOp.48-1は硬質な美音で標準的で完成度の高い演奏でした。 エチュードOp.10-1はミスタッチはそれなりにありましたが、ほとんど全ての音を芯でとらえており、 技術的には完成度の高い演奏でした。 エチュードOp.25-10は強奏でメタリックで攻撃的な音色になるのが気になりました。 中間部は硬質の音色で十分に歌のある演奏だったと思います。 スケルツォOp.20は、メカニックが売りのこの人の十八番の曲のようで、その通りの演奏でした。 総じて技術的にはかなり高いものを持っていますが、ショパンの音楽としては無機質な印象で、 個人的にはあまり惹かれるものはありませんでした。 ただ技術面はかなりの水準に達しているので、通過するのではないでしょうか。

D 24.Yutong Sun, China(予備予選免除)
スタインウエイを使用。 いきなりバラードOp.23から。かなり発音が悪いもっさりしたピアノの音、ミスタッチも乱発し、小事故もありました。 節回しがかなり粘っこい上に船酔いしそうなルバートで、どうも好きになれない演奏でした。 ノクターンOp.48-1はそもそも音色が魅力的ではないので緩徐部は退屈な印象です。 エチュードOp.10-1は一応弾けてはいますが、やはり雑な演奏だと思います。 エチュードOp.25-5はリズムの歯切れが良くなくて、もっさり感と後味の悪さが残ってしまいました。 この人はさすがに予選通過はないと思います。

予備予選免除者が登場するたびに毎回期待しているのですが、これまでのところ例外なく その期待を裏切られています。予備予選通過組よりもむしろレベルが低いように感じます。

C 25.Aleksandra Świgut, Poland
ファツィオリピアノを使用。 柔らかい暖色系の音色。ノクターンOp.27-1の曲想にこの音色は合わないと思うのですが・・・ 全体的に静かで落ち着いた演奏でした。 舟歌Op.60は、かなり薄い響きで情熱よりも響きの美しさを意識した演奏でしたが、僕はもっと情熱的な演奏が好みです。 エチュードOp.25-5は最初の付点のリズムがやや怪しいのと、全体として響きが薄いのが気になりました。 エチュードOp.10-8は軽妙なタッチで演奏しようという意識は感じられましたが、肝心の音の粒が揃っていないので、 決め手に欠ける印象になってしまいました。 この人は予備予選でも印象は今一つでしたが、どうなんでしょうか。 正直に言ってしまえば、あまり惹かれるものはないです。

B~C 26.Rikono Takeda, Japan
スタインウエイピアノを使用。 ノクターンOp.55-2は第1音から「えっ?」と耳を疑うような小さい音でした。 弱音基調のノクターンと言っても、もう少し音量があってもよいと思うのですが・・・ この曲は予備予選の時の演奏の方が良かったと思います。やはり1次予選の方が緊張するのだと思います。 エチュードOp.10-4は技術的にはまずまず弾けているのですが、音の1粒1粒に芯がないというか、迫力がないと思いました。 中間部の最後の方にちょっと目立つミスタッチの連鎖がありました。 エチュードOp.25-4は、バスの音抜けはところどころあるものの安定していて軽快で良い演奏だと思いました。 バラードOp.38はコン・フォーコ、アジタートの部分の迫力がないのが惜しいですが、自分の出せる音量の範囲内で 十分に説得力のある演奏を繰り広げていたと思います。 この音量の小ささで2階席の審査員席にはどのように聴こえるのか、気になりますが、 個人的には通過してほしいです。音量が小さいピアニストは個人的には好きではないのですが・・・

A 27.Shun Shun Tie, China
スタインウエイ300を使用。 この人は予備予選で聴いて、美音と総合力の高さとバランス・センスの良さで個人的に特に注目している人です (詳しくは予備予選レビューをご覧ください)。 ノクターンOp.62-1は深い美音で1つ1つの音に魂を込めていて静かな熱い情熱を感じさせる演奏でした。 ただこの曲は予備予選の方が音が伸びていました。ピアノや会場の湿度やマイクセッティングなどの条件の違いだと思います。 エチュードOp.10-12は情熱的で迫力があり技術的にもレベルが高く、個人的にはかなり好みの演奏でした。 エチュードOp.25-5は一転してソフトで、中間部は優しい節回し、表現の引き出しが多そうです。 バラードOp.23は、節回しもよく考えられていて、なおかつそれが自然な流れの中でセンス良く収まっていると思います。 技術的にも高いレベルで音し芯があり、粒立ちも非常に良いです。 はっとするようなひらめきには乏しいですが、超ド級の天才が現れない限り、 コンクールではこのようなタイプが最後まで勝ち残ることが多いようです。 手放しで絶賛できるわけではないですが、期待を裏切らない素晴らしい演奏でした。やや甘いですが評価Aとしておきます。

後半:17時~21時(日本時間:10月5日(火)午前0時~4時)
D 28.Sarah Tuan, U.S.A.
スタインウエイ300を使用。 エチュードOp.25-6は力みがない演奏ですが、音が軽くところどころ音抜けがあり今一つの出来でした。 エチュードOp.10-12はかなり力んだ演奏で荒っぽさが気になりました。この体格でこのピアノを扱うのは 無理があるのかな、と思いました。長い指を持て余しているように感じました。 幻想曲Op.49は悪くないのですが、音の1粒1粒が軽いのとやや雑に弾き飛ばしすぎの感があります。 和音の音量が出ている割に迫力不足に感じるのは、早いパッセージになると音の1粒1粒の音量が小さくなるからだと思います。 ノクターンOp.62-1は美しい響きが出ていましたが、流れが停滞していました。 いずれにしてもここでどんなに良い演奏をしたとしても、この1曲で挽回するのはちょっと難しいです。 この曲順にはどんな意図、戦略があるのか、僕には理解できなかったです。 いずれにしても通過は難しいと思います。

A~B 29.Tomoharu Ushida, Japan(予備予選免除)
ヤマハCFXを使用。 ノクターンOp.27-2は、最初の方でターン装飾がそのまま抜けてしまいましたが、そういう版があるのでしょうか? とても自然なルバート、センスの良い節回しで、ロマンティックにピアノを歌わせていて、上品で美しい演奏でした。 エチュードOp.10-10は内声と外声のバランスがよくテンポも抑揚も非常に自然でロマンティックで素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-12は1つ1つの音に迫力があり、技術的な完成度も高い素晴らしい演奏でした。 幻想曲Op.49は非常にダイナミックで情熱的で雄渾、まさに圧巻の演奏。 ただちょっと力みすぎなのか、一部、音色と音量のコントロールを失する箇所がありました。 全体的に音量が大きすぎと思うのですが、これは緊張のせいかもしれません。それで音が全く割れないのはさすがです。 ここは確実に通過できると思うので、次はもう少し力まずに自然体で演奏してほしいと思います。

B~C 30.Zitong Wang, China
スタインウエイを使用。 ノクターンOp.27-1は弱音美を強調した瞑想的な演奏。この曲の曲想にマッチした表現だと思いました。 エチュードOp.10-4はやや粗いですが迫力があり、今回のコンクールでのこの曲の平均的な出来は確実に上回っています。 エチュードOp.10-7は選曲する人が少ないですが(うまく弾くのが難しい曲であるためだと思います)、 内声と外声のバランスがよくロマンティックで美しい演奏でした。 幻想曲Op.49は先程の牛田さんの演奏と比べるとスケール感とダイナミズム、心への響き方はどうしても今一つ、 という印象になってしまいますが、まずまず良い演奏だと思います。 1次は通過すると思いますが、正直あまり惹かれるものは感じられず、 その先、勝ち残っていくのは難しそうな印象です。

C 31.Zijian Wei, China
スタインウエイを使用。 エチュードOp.10-8は、粒の揃い方が今一つですが、音色は良いですし美しい流れが魅力的でした。 ただ最後でかなり大きく音を外してミスの連鎖が起こってしまいました。 エチュードOp.25-6はかなり苦しいようで、ところどころ不自然にテンポが動いてしまいました。 後半は立て直してまずまずの演奏でした。 ノクターンOp.62-1は自然でロマンティックで優美な演奏でした。この人は予備予選でもこの曲を弾いていて、 その時は左手が完全に止まって危うく大事故になりかけて、こちらが冷や汗をかいた記憶があるのですが、今回は大丈夫でした。 バラードOp.52はフレージングが短い単位で完結するような印象、作品を俯瞰する方向に意識が向いていない印象で、 散漫な演奏という印象ですが、その中ではっとさせられる瞬間はかなりあり、とても興味深いと思いました。 その瞬間、瞬間を拾い集めていくと、かなりの得点になりそうです。 しかし総合的に見れば、エチュードで技術点で大きな失点があり、この人はここで終わりそうな気がします。

B 32.Marcin Wieczorek, Poland
スタインウエイ300を使用。 エチュードOp.10-1は最初の1小節は何故か右手の音がほとんど聴こえなかったのは僕だけでしょうか。 ガツンという左手のオクターブを強調していますが、右手の音の粒立ちは今一つで、右手と左手の音量のバランスが 良くない気がしました。 エチュードOp.10-10は標準的で美しい演奏でした。 ノクターンOp.62-2は、旋律はしっとりと歌わせていて中間部も品よく情熱を表現していてバランスの良い演奏だと思いました。 スケルツォOp.31も強奏部分でも引き締まったフォルティッシモが出ていますし、 第2主題のクールな節回しもなかなかセンスが良く、全体的に上手くまとめられて素晴らしい演奏だと思いました。 この人は予備予選の演奏は冴えなかった記憶があるのですが、今回の1次予選の演奏はその時の演奏よりも かなり印象が良いです。ここは通過するのではないでしょうか。

B 33.Andrzej Wierciński, Poland
スタインウエイ300を使用。前回2015年ショパンコンクールでも注目されていた再挑戦ポーランド人。 ノクターンOp.62-1は癒し系の落ち着いた良い演奏ですが、心に刺さる感動という、僕がこの曲に求める理想像とは 違いました。 エチュードOp.10-10は音楽的で良い演奏だと思いましたが、何故か右手の音色がやせてくすんでいました。 これはピアノのせいなのか、タッチのせいなのか、おそらく後者だと思います。技術的にはほぼ完璧であるだけに、 何とも惜しいです。 エチュードOp.25-11は惜しいミスタッチが散見されましたが、6年前の時と比べてミスタッチはかなり減っています。 全て偶発的なミスタッチで、技術的には消化できていると思います。 スケルツォOp.20は主部は音の粒立ちと歯切れが良く、よい演奏だと思います。中間部の緩徐部では特に惹かれるものは ありませんでしたが・・・ 6年前よりも進化していると思いますし、ここは通過すると思います。 ただ音楽的にはあまり惹かれるものを感じないので、その先、どこまで勝ち上がれるかは分からないです。

明日も仕事があるので今日はここまでにします。

? 34.Victoria Wong, Canada
ノクターンOp.27-1、エチュードOp.25-6、エチュードOp.10-12、幻想曲Op.49

? 35.Yuchong Wu, China
エチュードOp.10-1、エチュードOp.25-5、ノクターンOp.55-2、バラードOp.52

B~C 36.Lingfei (Stephan) Xie, Canada/China
(リアルタイムで聴けず翌日の夜に記載) スタインウエイを使用。 ノクターンOp.62-1は豊かで柔らかく輝かしい音色でたっぷりと歌わせた、耽美的でロマンティックな演奏でした。 ただ初めの方のゆっくりした8分音符の連続する部分の出だしが半拍~1拍ほど早く拍が欠けてしまっているのは、 予備予選同様でした。予備予選の時はこれは緊張によるミスだと思ったのですが、今回も同じ弾き方をしているということは、 ミスではなく認識の間違いの可能性が高いです。 エチュードOp.10-10はロマンティックな演奏ですが、1つ1つの音価と音量のコントロールが甘いからか、 散漫な印象でした。エチュードOp.25-11は音の粒が粗く、あまり弾けていない演奏でした。 バラードOp.52は、予備予選の時の演奏で、音価が不安定でテンポに一貫した「芯」がないような感じがして、 気になっていて、その点は予備予選でのこの人の演奏評でも書いた通りなのですが、 やはり今回の演奏も同様に気になりました。もっと凛とした簡素な響きと流れの良さがある演奏が 個人的には好きです。 この人に期待したのは僕の見当違いだったかと思いました。 でも予備予選のエチュード(Op.10-8とOp.25-5)は素晴らしかったんですよ。1次予選のエチュード(Op.10-10とOp.25-11)は どちらもよくなかったですね。1次予選敗退の可能性はあると思います。

10月5日(第1次予選:3日目)
前半:10時~14時(日本時間:10月5日(火)午後5時~9時)
? 37.Zi Xu, China
ノクターンOp.27-2、エチュードOp.10-10、エチュードOp.25-11、舟歌Op.60

? 38.Yuanfan Yang, United Kingdom
エチュードOp.10-1、エチュードOp.10-11、エチュードOp.10-3、バラードOp.47

E 39.Anastasia Yasko, Russia
(リアルタイムで聴けず、セッション間の休憩時間に記載) ノクターンOp.48-2は夢見るような音色でピアノをたっぷりと歌わせたロマンティックで素敵な演奏でした。 エチュードOp.10-8は途中までは良かったのですが、中間部になりテンポが少しおかしくなり、パッセージがつぶれて しまいました。終結部にはありえないようなミスタッチの連鎖が・・・ エチュードOp.10-2!!最初から弾き直し、そしてその後も同じ部分で弾き直して、同じ部分でつまずいて先に進めない・・・ 一体どうしたのでしょうか・・・怖すぎます。悪夢を見ているようでした。おそらく本人は 頭の中が真っ白になっていたか、あるいは意識朦朧としていたかもしれません。 そう言えば、1990年第12回ショパンコンクールで、ノクターンOp.27-2の演奏途中に失神したイギリス青年がいましたね。 あれの一歩手前だったのではないでしょうか。あのイギリス青年はその後にもう一度、演奏するチャンスをもらって、 1次予選を通過したということでしたが、この人も失神したふりをしてしまえば、あるいは・・・というのは 傍観者の見方ですね。 この人も指の動きを見る限り、Op.10-2のエチュードは普段はきちんと弾けているように思えるのですが・・・ いや、本当に久しぶりに怖いものを見てしまいました。 スケルツォOp.39はもう挽回不可能だと悟っていたからか、最初のノクターンOp.48-2のような音の伸びがなく、 この人のことが本当に可哀そうになりました。 この人、予備予選では魅力的な演奏をしていて、いいところまで行くのではないかと個人的には思っていたんですよ。 でもここで終わりですね。個人的にはもう一度チャンスをあげたいと思うのですが、コンクールはシビアです。 有終の美を飾れずに残念だったと思いますが、本当にお疲れ様でした。

? 40.Andrey Zenin, Russia
ノクターンOp.48-1、エチュードOp.10-12、エチュードOp.25-10、バラードOp.52

B 41.Boao Zhang, China
シゲル・カワイを使用。 ノクターンOp.27-1は芯のしっかりしたシャープな音色、速めのテンポで比較的淡々と弾き進めていましたが、 流れの良さの中に控えめに濃淡を入れていて、センスの良さを感じました。個人的にはもっと歌ってほしいと思いますが・・・ エチュードOp.10-4は1つ1つの音を芯でしっかり捉えていて、粒立ちが良くてテンポのブレもなく、ほぼ完璧な演奏でした。 エチュードOp.25-10の主部のオクターブの連続部は金属的に響いてしまうのは仕方ないと思いますが、技術的には完璧でした。 中間部のオクターブの「歌」はあっさり目でした。もっとロマンティックで抒情的な演奏が好きですが、わがままでしょうか。 バラードOp.52は旋律の歌わせ方が淡泊なきらいがありますが、流れは良く、技術的にも最高レベルでした。 この人は技術的には今回出場者の上位5本指に入りそうですが、音楽的には惹かれるものはあまりなく、ちょっと残念です。 この人、年齢は18歳なんですね。いきなり変なことを言うようですが、喧嘩が強そうな顔と体格をしていますね。 この人、年齢とともに成熟して音楽的な演奏になってくるでしょうか。 こういうメカニックバリバリ系も面白いと思いますし、通過で良いのではないでしょうか。

D 42.Yilan Zhao, China
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.27-1は、かなり自由にテンポを動かしていて情熱的な演奏でした。 このような演奏は好みが分かれると思いますが、この曲は静謐で静かにじわじわと情熱を放出していく クールな頭脳と熱い心の演奏が好みです。 エチュードOp.25-6は右手の鳴りが悪くごまかしが多いのが気になりました。 エチュードOp.10-1は難しい中間部でミスタッチが多発してしまい決め手に欠ける印象でした。 バラードOp.52は普通の演奏ですが、特に強く惹かれる部分はなく、不思議なことに途中で飽きてきてしまいました。 正直に言えば、次も聴きたいとは思いませんでした。

D~E 43.Ziji Zhao, China
ファツィオリを使用。 ノクターンOp.55-2はテンポルバートもダイナミクスも妥当な表現なのに心に響かない・・・ エチュードOp.25-11は技術的にいっぱいいっぱいの苦しい演奏・・・かなりごまかしとミスが多い雑な演奏でした。 と思ったら、間髪入れずにエチュードOp.25-5に入りました。投げやりになっているのでしょうか。 確かにここからのポイント巻き返しはかなり難しいとは思いますが、最後まで全力を尽くしてほしいです。 この曲はOp.25-11に比べるとマシですが、ここから大逆転勝利をするにはよほどの名演が必要で、既に挽回不可能な 深手を負ってしまった印象です。 幻想曲Op.49は、雑に弾き飛ばす部分が多く、 既に集中力が完全に切れてしまっているように感じました。

B~C 44.Piotr Alexewicz, Poland(予備予選免除)
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.55-2はペダルが控えめで直接音の割合が高く現実的な響きで、 この曲で夢を見たいと思っている多くのショパン愛好者の期待を裏切るような演奏になってしまった印象です。 エチュードOp.10-8はぱりぱりとして粒立ちが良くよさげな演奏、と思ったら、難しい中間部でかなり 大きなミスの連鎖がありヒヤリとしました。全体として決め手に欠ける演奏になってしまいました。 エチュードOp.10-10は出だしは悪くなかったのですが、徐々に怪しくなってくる・・・これはOp.10-8と同様でした。 スケルツォOp.31は第2主題は美しく歌えていて悪くないと思いましたが、中間部が荒っぽくなってしまい、 全体として今一つの印象となってしまいました。

B~C 45.Leonora Armellini, Italy
ファツィオリを使用。2010年第16回ショパンコンクールの再挑戦。 ノクターンOp.48-1は静かな情熱を感じさせる最初の旋律部、そして後半は炎の情熱、 この曲を聴いて、久々に熱い感動がこみあげてきました。 エチュードOp.25-5は標準的で美しい演奏、中間部の旋律部も品よく歌わせていて良い演奏だったと思います。 エチュードOp.10-4は攻めに行った演奏。力強く熱い情熱のほとばしるOp.10-4でした。 スケルツォOp.54は部分部分でテンポを動かしすぎのような気がしますが、これは女性奏者にありがちですね。 もう少しフレーズ全体を見渡して冷静に弾いてほしい、というのは我々男性からの要求でしょうか。 あまりショパンらしい演奏ではないと思いますが、こういう演奏もあってもいいかとは思います。 ここは通過しそうな気がしますが、その後、どこまで行けるかは他のコンテスタント次第だと思います。

後半:17時~21時(日本時間:10月6日(水)午前0時~4時)
B 46.J J Jun Li Bui, Canada
シゲル・カワイを使用。 ノクターン枠でエチュードOp.10-3を選曲。ごく標準的で歌に満ちた演奏、中間部も情熱的で素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-4は攻めのテンポ設定で切れ味、迫力ともに十分で良い演奏でした。 エチュードOp.25-6は右手の音量は控えめながらも、しっかり聴こえていて、技術的にも音楽的にも素晴らしい演奏でした。 舟歌Op.60は最初の方は薄くバランスの良い響きで淡い色彩感が何とも美しい演奏でした。 強音でも音が割れずセンス良く鳴らしていました。 この人は普通に上手いのに、なぜノクターン枠でエチュードOp.10-3を選曲したのか、謎すぎます。 この音色ならノクターンOp.27-2などが似合いそうなのに、もったいない気がします。 それは2次以降に温存する作戦でしょうか。そうだとしたら余裕すぎますね。 他のコンテスタントの多くは1次予選を通過するのに必死なのに・・・

C 47.Michelle Candotti, Italy
スタインウエイ479を使用。2015年第17回ショパンコンクールの再挑戦。 いきなり舟歌Op.60から。この曲は重音のトリルや6度のパッセージなど、何気ない部分をいかにあっさりと、 くっきりとした粒立ちの音でさりげなく弾くかが重要ですが、この人の演奏はややもっさり感があって、 今一つ決め手に欠ける印象です。 ノクターンOp.48-1は技術的に求められるものが舟歌とは全く違い、この人にとってはこちらの方が ずっと合っていると思いました。十分に情熱的で和音のバランスもよかったと思いました。 エチュードOp.10-10は右手の響きが薄いような気がしますが、音のバランスはよく、よく歌えたなかなか良い演奏でした。 エチュードOp.25-11は、右手の音量が小さくて歯切れが悪いのが気になりました。この曲の主旋律は左手が担うとは言っても、 主役は右手のはずです。前回は1次予選通過しましたが、今回はどうでしょうか。 ここを通過したとしても次は難しいと思います。

B~C 48.Kai-Min Chang, Chinese Taipei
スタインウエイ300を使用。 ノクターンOp.48-1は予備予選の時の方がずっと音が伸びていましたが、今回のは音がかなりドライでした。 この人の一番の強みだと思っていたノクターンであまり得点が伸びない印象・・・ エチュードOp.25-5は標準的で良い演奏、中間部の旋律の節回しも良いと思いました。ミスタッチが気になりましたが・・・ エチュードOp.10-5は粒立ちがよく標準的で概ね良い演奏ですが、あまり技術的余裕がなさそうでした。 バラードOp.23は旋律の流れが今一つなのと、速いパッセージの音抜けと技術的な粗が気になりました。 ピアノによってこれほど印象が変わってしまうのも、奏者の実力のうちだと思います。

C 49.Junhui Chen, China
スタインウエイ300を使用。 ノクターンOp.48-1は前奏者よりもむしろ豊かで深い音が出ています。標準的で良い演奏だと思います。 エチュードOp.10-10は弾き急いでいるのか、右手の音量のコントロールがおかしくバラけていました。 エチュードOp.10-8は概ね良いと思いましたが、中間部最後の難所で音の粒立ちが一気に粗くなりました。 バラードOp.47はオーソドックスで音楽的にも十分に納得できる良い演奏でした。

※エチュードであら捜しをするようなコンクール用の聴き方になっている自分に嫌気がさしてきました。 逆に言うと、ミスタッチが気にならなくなるほど我を忘れるような超名演に出会えないものでしょうか。 今日は期待外れの演奏ばかりで失望しました。今日はもう寝ますが、明日以降、素晴らしい演奏を披露する コンテスタントが現れることを強く期待しています。

「半世紀に及ぶコンクールの歴史全体を通じ、初めてグランプリ候補者が素晴らしい才能であらゆる競争相手を圧倒し、 一番初めから分かってしまうということが起きた」、(中略) 「湧き上がるような、青年らしい喜びに溢れた演奏で群を抜いた。 聴く者がこの素晴らしい演奏にあら捜しを しようなどとは思いもよらなくなるほどに魂を奪ったのである」(クリスティアン・ツィマーマン(ツィメルマン)に関する記述・ 「ものがたりショパンコンクール」(イェージー・ ヴァルドルフ著、足達和子訳、音楽之友社)より引用) こんなピアニストが出てきてくれないでしょうか。

? 50.Xuehong Chen, China
ノクターンOp.27-2、エチュードOp.10-8、エチュードOp.25-6、バラードOp.23

? 51.Zixi Chen, China
ノクターンOp.62-1、エチュードOp.25-4、エチュードOp.10-1、バラードOp.47

? 52.Hyounglok Choi, South Korea
ノクターンOp.62-1、エチュードOp.25-5、エチュードOp.10-5、バラードOp.52

? 53.Federico Gad Crema, Italy
エチュードOp.25-7、エチュードOp.25-10、エチュードOp.10-12、幻想曲Op.49

10月6日(第1次予選:4日目)
前半:10時~14時(日本時間:10月6日(水)午後5時~9時)
? 54.Aleksandra H. Dąbek, Poland
ノクターンOp.27-1、エチュードOp.10-7、エチュードOp.10-5、バラードOp.47

? 55.Alberto Ferro, Italy
ノクターンOp.55-2、舟歌Op.60、エチュードOp.10-11、エチュードOp.10-12

B 56.Yasuko Furumi, Japan
スタインウエイ479を使用。前回2015年の再挑戦です。 ノクターンOp.27-1の主部の旋律は落ち着いてしっとりと美しい流れを作っていました。 中間部も情熱的でありながらコントロールも利いていて素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-5は多少の傷はありますが音の粒も比較的よく揃っており軽妙で良い演奏でした。 エチュードOp.10-2は多少の音抜けと不揃いはありますが概ね良い演奏だったと思います。 幻想曲Op.49は正確さを多少犠牲にして、ダイナミズムと情熱を前面に打ち出したスケールの大きい演奏でした。 この曲はかなり力んでいるように感じられました。 全体としては決め手に欠ける印象ではありますが、 ここは通過するのではないでしょうか。

B~C 57.Alexander Gadjiev, Italy/Slovenia
シゲル・カワイを使用。ドライでやせた独特の音色。 ノクターン枠でエチュードOp.25-7を選択。チェロを思わせる左手の旋律と右手の和音のバランスがよく、 テンポや間の取り方もよく考えられた表現だと思いました。よくこぶしがきいています。 僕はこの曲は静謐でスマートでひたすら暗い演奏が好きなので、好みとは違いますが、興味深い演奏ではありました。 エチュードOp.10-8は軽妙なタッチで遊び心がある演奏でしたが、中間部の難所で不自然にテンポが速くなる箇所がありました。 エチュードOp.25-10は主部のオクターブの連続部でオクターブの音がそのまま抜け落ちる小事故がありました。 中間部の歌はとても練り上げられた熟練の節回しという印象ですが、ややこねくり回しているような印象を持ちました。 バラードOp.52は即興性に富んでいて、テンポを比較的細かい単位で動かし、聴き手をぐいぐいと引っ張っていく演奏でした。 高い技術があるからこそ可能になるというタイプの演奏でした。 全体として、こぶしを利かせすぎている印象があり、好みが分かれる演奏だと思います。個人的には今一つでした。

A 58.Avery Gagliano, U.S.A.(予備予選免除)
スタインウエイ300を使用。 ノクターンOp.27-2は柔らかく豊かな響きで自然なフレージングで歌い上げた素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-8は中庸のテンポで音の粒がきれいに揃い、中間部も全く破綻していない、完成度の高い演奏でした。 エチュードOp.25-5も同様の傾向で、中間部の旋律部も息の長いフレージングで美しく歌い上げた素晴らしい演奏でした。 バラードOp.23は、適切なルバートを利かせて自然な流れ、後半も冷静さと情熱が程よいバランス、 技術的にも最高に近いレベルの演奏でした。 久々に素晴らしいピアニストが出てきました。ファイナリスト有力候補と思います。3人目の評価Aです。

C 59.Martin Garcia Garcia, Spain
ファツィオリを使用。前奏者の音色と比べると、かなり乾いた魅力に乏しい音色に聴こえました。 エチュードOp.25-4はまずまず弾けていますが、リズムがメリハリに欠けているように感じました。 エチュードOp.10-4は遅めのテンポですが、粒立ちが今一つでミスタッチも目立ち、今一つの演奏でした。 ノクターンOp.55-2は標準的な演奏ですが、音色が魅力に乏しく、やや流れがよくないように感じられました。 バラードOp.23は自然な演奏で技術的にも一定レベルに達しており、なかなか良い演奏でした。 最後の最後の右手の音、F音に触ってしまい、最後に良い印象を残すことができませんでした。

B~C 60.Eva Gevorgyan, Russia/Armenia
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.27-1は主部のフレージングは自然で好ましい演奏、中間部はかなりテンポを動かして情熱的な演奏でした。 エチュードOp.25-11は力強く情熱的な演奏ですが、ペダルの踏みすぎのようで音が濁っているのと、 全て強音で通していて、ダイナミクスの幅に乏しいのが気になりました。 この曲は「木枯らし」らしいもっとすっきりとした響きと陰影を求めたいです。 エチュードOp.25-4は標準的で好ましい演奏だと思いました。 スケルツォOp.54は軽快さより情熱に重きを置いたダイナミックな演奏でした。 僕はもっと精緻で抑制とコントロールが効いた冷静な演奏が好みで、この人の演奏は正直好きではありませんでした。

C 61.Jorge Gonzalez Buajasan, Cuba
ヤマハを使用。 ノクターンOp.48-1は標準的な演奏ですが、流れが硬直しているような印象でした。決して悪い演奏ではないとは 思うのですが・・・ バラードOp.38はコン・フォーコとアジタートの強奏の部分がアグレッシブで音量と音価のコントロールが 今一つに感じました。 エチュードOp.25-5は中庸を得た演奏で、音楽的で比較的良い演奏だったと思います。 エチュードOp.10-8は控えめなテンポでしたが、音の粒立ちが今一つで決め手に欠ける演奏になってしまいました。

D 62.Joanna Goranko, Poland
スタインウエイピアノを使用。 ノクターンOp.62-2は一聴すると普通の演奏なのですが、流麗さが今一つで散漫な印象が残ってしまいました。 スケルツォOp.31は第2主題の左手の伴奏音型に体表されるようなアルペジオの粒が粗いようで、 今一つ演奏に集中できませんでした。一言で言うと粗い演奏という印象でした。弾き込み不足でしょうか。 エチュードOp.25-6は右手の粒が粗いのと全体に右手と左手の音量のバランスが良くないように聴こえました。 エチュードOp.10-12も左手の音が粗いのと流れがあまりよくないように感じられました。 全体として惹かれるものがあまりありませんでした。

後半:17時~21時(日本時間:10月7日(木)午前0時~4時)
A~B 63.Chelsea Guo, U.S.A.
ファツィオリを使用。 ノクターンOp.62-2は遅めのテンポで、1つ1つの音と「間」を大切にした演奏ですが、 そのために流れが停滞している印象でした。ただこれは好みの問題かもしれません。 エチュードOp.25-5はリズムも各指の音量のバランスも良いと思いました。中間部の流れも自然で美しかったですが、 装飾的な右手のパッセージでミスタッチの連鎖が起こってしまいました。 エチュードOp.10-5は軽妙で音の粒立ちもよく、美しくて精妙な素晴らしい演奏だったと思います。 舟歌Op.60は細かい技術的コントロールと精妙な響きでこの作品の本来の魅力をそのまま伝える素晴らしい演奏だったと 思いました。特徴は印象に残りにくいタイプの演奏ですが、余裕の通過と思います。

B 64.Eric Guo, Canada
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.62-1は薄くて淡く儚げな音色で自然で音楽性豊かな演奏だったと思います。 エチュードOp.10-2は粒立ちもよく技術的に素晴らしい演奏だったと思います。 エチュードOp.10-4も良い演奏ですが、連続する音の1粒1粒に迫力がない感じで、迫力不足の感が否めませんでした。 舟歌Op.60は薄く美しい響きを意識しているように感じました。情熱・迫力型の舟歌と対極にある、 印象派に通じる淡い色彩感を漂わせる上品な演奏でした。 全体として、とても美しいのですが迫力不足の感があり、心に迫ってくるものがあまり感じられませんでした。 これは好みの問題だと思います。

D 65.Saaya Hara, Japan
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.27-2はやや薄めの美しい音色で自然な流れの良い演奏だったと思います。 エチュードOp.10-8は遅めのテンポで音の粒立ちの良さを意識した良い演奏だと思いました。 ただ聴き手に迫る迫力には欠けていたと思います。 エチュードOp.25-6は右手の音が不揃いで、正直に言ってしまえば、この人はこの曲には不向きではないかと思いました。 人が曲を選ぶように、曲も人を選ぶと言われる所以です。 ただこの人をかばうような言い方になってしまいますが、この曲、本当に難しいんですよ。 ピアニストが3人集まればこの曲の運指の話題に花が咲くというほどに。 前回の中桐さん同様、もっと易しい曲で勝負した方がよかったのに、と思いました。 スケルツォOp.54はもっと粒立ちの良さと歯切れの良さが欲しいですが、 これは僕のわがままとして聞き流してやって下さい。 個人的には通過してほしいですが、さすがに厳しいと思います。

A 66.Yifan Hou, China
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.27-1は予備予選の時と同様、芯の太いシャープな音色で、この作品の本来の魅力を 引き出していて見事でした。 エチュードOp.10-4は攻めに行った演奏。多少のミスタッチはありますが、それをものともしない勢いのある演奏。 音の粒立ちも歯切れも非常に良いです。 エチュードOp.25-5も切れ味がよく、中間部の旋律の抑揚も自然で歌心も不足しない演奏でした。 バラードOp.23は情熱的、ドラマティックで技術的にも素晴らしい演奏でした。 全体的に音量が大きく、すぐに音量が飽和する印象があり、やや元気が良すぎなところが玉に瑕ですが、 これは若さ故だと思います。そこを修正すれば表現にもっと陰影や濃淡が 付けられるのに、と思うのですが・・・ 予備予選で聴かせてくれたエチュードOp.10-10クラスの音楽性満点の超名演が出なかったのは少々残念ではありました。 それにしても元気がいい演奏ですね~。伸びしろ、将来性とこれからの期待とを込めて評価Aとしました(甘いかもしれませんが)。 この人、第2のユンディ・リ、なるでしょうか(もちろん良い意味で)。

C 67.Wei-Ting Hsieh, Chinese Taipei
スタインウエイ479を使用。 幻想曲Op.49は中庸を行った良い演奏だと思いましたが、ややダイナミクスに欠けるのと、 細かいパッセージの部分になると急に音量が小さくなるのが気になりました。 ノクターンOp.27-1は上品に歌わせた演奏で、美しいのですが、ややこじんまりとした印象でした。 エチュードOp.25-5は弱音美と旋律美が光るなかなか良い演奏でした。 エチュードOp.25-11は右手の音の歯切れが悪くモコモコとしているのと不揃いが気になりました。 この曲を最後に持ってきた曲順の意図がよく分からないですが、破綻せずに弾き切りました。 全体として線が細くスケールの小さい演奏で、決め手に欠ける印象です。

B 68.Kaoruko Igarashi, Japan
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.27-1は1つ1つの音を噛みしめるように大切に大切に弾き進めていく演奏でした。 そのために流れがやや悪くなってしまったように感じますが、これは好みの問題でしょうか。 エチュードOp.25-11は音の粒が揃っていて、フレーズの変わり目の右手の崩れやすい音型の処理にも 細かい神経が行き届いていて、表現の濃淡や陰影も十分についており、素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-10も音量と音色が十分にコントロールできており、自然な抑揚、ルバートも見事でした。 スケルツォOp.39はオクターブの迫力は今一つですが、弱音を効果的に使うことにより、 強音が相対的に大きく聴こえるというダイナミクスの工夫が感じられました。 コラール風和音の後のキラキラと駆け下りてくる音型もきれいに粒が揃っていて美しいです。 この人、こういう細かい動きがすごく正確で、個人的にはかなり好みの演奏です。 いや、期待以上の素晴らしい演奏でした。表情も良いですし好印象です。 予備予選ではほとんどノーマークでしたが、今日の演奏を聴いて、意外に良いところまで行けるかも、 という印象を持ちました。

C~D 69.Riko Imai, Japan
スタインウエイ300を使用。やせたドライな音色。 エチュードOp.10-1は右手の粒の揃い方が今一つで1音1音は迫力に欠ける印象で一番難しい部分でミスタッチがありましたが、 まずまずよく弾けていたと思います。 この人は音量が出そうに見えますが、エチュードOp.25-10の主部のオクターブの音量は控えめでした。 中間部のオクターブの旋律はよく歌えていたと思います。 ノクターンOp.27-2は弱音美を際立たせていて、控えめでおとなしめの演奏でした。 バラードOp.52も全体的に音量が小さくこじんまりとした印象に残りにくい演奏になってしまいました。 この人は予備予選ではもっとずっとダイナミックで伸びの良い素晴らしい音を出していた記憶があるのですが、 今日の音色はやせていて、冴えがありませんでした。 この音が会場でどのように聴こえているのかは分かりませんが、きっと冴えない音色だろうと想像できます。 これでは本人も不本意な出来だと思います。

※昨日から気になっていたのですが、このスタインウエイ300は選んではいけない楽器のような気がしました。 台湾のKai-Min Changさんも、スタインウエイ300を選んで失敗していましたから・・・

C 70.Junichi Ito, Japan
ファツィオリを使用。 ノクターンOp.62-1は落ち着いたテンポで自然な抑揚を付けていました。 淡々とした流れの中にも深い味わいがあって、好感が持てる演奏でした。 中間部の少し手前で起きた小事故には目をつぶりたいと思います(つぶってないじゃん、という突っ込みは甘んじて受けます)。 エチュードOp.10-5は音の粒立ちもよく流れも自然で美しい演奏でした。 エチュードOp.10-10も内声と外声のバランスが良く抑揚が自然でとても聴きやすい良い演奏でした。やや大きいミスタッチが あり、惜しいです。 バラードOp.38は冒頭のヘ長調の部分の素朴な歌が何とも味わい深い、そしてコン・フォーコでは・・・ 大きなミスタッチをしてしまいましたが、これはさすがに減点対象になってしまうと思います。 コーダのアジタートの部分でも大きなミスタッチの連鎖がありました。 演奏自体はなかなか味わいがあって良いのに、ところどころ大きなミスタッチがあり、何とももったいないです。 かなり緊張していたのだと思います。

10月7日(第1次予選:5日目)
前半:10時~14時(日本時間:10月7日(木)午後5時~9時)
B 71.Asaki Iwai, Japan
スタインウエイ300を使用。 ノクターンOp.9-3は明るく豊かな音色でピアノを自然に歌わせていて、抑揚も自然で良い演奏だと思います。 エチュードOp.10-2は音の粒も揃いテンポも安定しており音楽的にも自然で素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.10-4は音の鳴りと迫力は今一つですがミスも少なく良い演奏だと思います。 バラードOp.52は、柔らかく豊かな響きで自然な流れ、抑揚をつけていて技術的にも素晴らしい演奏だと思います。 通過に一票です。

※スタインウエイ300の鳴りが昨日よりもかなり改善している印象です。この人のこの楽器との相性が良いのか、 調律を改善したか、会場の湿度、マイクセッティングの影響なのかは分からないですけど・・・

B~C 72.San Jittakarn, Thailand
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.55-2はクリアで艶やかな夢見るような美音が印象的でした。 テンポルバートは多めで、ところどころ音抜けがあるのが気になりましたが、興味深い演奏だと思います。 エチュードOp.10-11は速いテンポですがアルペジオの粒立ちは今一つ。音楽的にはユニークで面白い演奏ではありました。 途中、乱れがあり、最後から2つ目の和音でミスがありましたが、減点対象にはしたくないです。 エチュードOp.10-12は左手の音の粒立ちがやや粗いですが、鍵盤を叩くことなく伸びの良いたっぷりした音量が出ていました。 かなり個性が強い演奏でした。 バラードOp.47も同様にかなり自由にテンポを動かしてユニークな演奏を繰り広げていました。 この人は美音が持ち味のようです。傷は多いですが、はっとさせられる瞬間も多く、 どこを評価するかで、評価結果が相当変わる印象の演奏でした。

B~C 73.Jooyeon Ka, South Korea
ヤマハCFXを使用。2015年ショパンコンクール(1次予選敗退)の再挑戦。 短い指でよく弾いているという印象が残っている韓国人女性。 ノクターンOp.62-1は1つ1つの音と間を大切にして丁寧に音を紡いでいくような美しい演奏でした。 エチュードOp.10-8は標準のテンポで丁寧に演奏しており、難しい中間部も安定していました。 音の粒立ちと迫力は今一つです。 エチュードOp.25-4は遅めのテンポで安全運転のきらいはありますが、良い演奏だったと思います。 バラードOp.52は丁寧に音を紡いでいく演奏で、十分に情熱的で迫力も不足しない演奏でした、 ただ全体として印象に残りにくいタイプの演奏ではありました。

B 74.Adam Kałduński, Poland(予備予選免除)
スタインウエイ479を使用。 やややせたドライな音色。 ノクターンOp.62-1は、遅めのテンポで自分の世界に入るような瞑想的な演奏。 やや流れが停滞している感は否めず、こうした演奏は好みが分かれそうです。 エチュードOp.10-5は軽快で良い演奏ではありますが、音の粒の揃い方が今一つです。 エチュードOp.25-10は強奏で音が詰まるのが難点ですが、技術的にはレベルが高く、概ね良い演奏だと思いました。 バラードOp.52は自然な流れで迫力も十分にあり、コーダも迫力があり素晴らしい演奏でした。 現在のポーランド人コンテスタントとしては技術がしっかりした正統派という印象でした。

C 75.Nikolay Khozyainov, Russia
スタインウエイ300を使用。 2010年第16回ショパンコンクールで天才少年と騒がれ、本選進出までした俊英です。 エチュードOp.25-7はペダルを控えめにして憂鬱に左手を歌わせていますが、 個人的にはもっとペダリングを入れて適度なルバートをかけてほしかったです。わがままでしょうか。 エチュードOp.25-10は音色ががらりと変わり、豊かな音色で鍵盤を叩かずにきれいなフォルティッシモが 鳴っていて、余裕と貫録を感じさせる演奏でした。 中間部は瑞々しい美音で、ルバートは少なく淡々と流していますが、一部プラルトリラーをトリルにして弾くなど、 作品に深く感情移入している印象。 エチュードOp.25-11は速めのテンポですが、右手の動きのコントロールを失う部分があり、 また左手の付点リズムの取り方に少し慎重さが足りないように感じました。 バラードOp.52はルバートはショパンの音楽としてはやや異質な印象を受けます。技術的にも粗が目立ちました。 本人はショパンコンクールにかける思いは相当なものがあるでしょうし、 おそらくこれがラストチャンスであることを考えると、温情的には 通過させてあげたいですが、コンクールはシビアですから、どうでしょうか。個人的にはNoですが・・・

A 76.Su Yeon Kim, South Korea
スタインウエイ479を使用。 エチュードOp.48-2は豊かで深い音色で、ふくいくとしたロマンと香りの高い極上に近いレベルの演奏。感動しました。 ノクターンでここまで感動を誘えるのは本物の証です。 エチュードOp.10-8は1つ1つの音が輝いていて、高い芸術性を感じさせる優れた演奏。 エチュードOp.25-6は一部不明瞭なところはありますが、技術的レベルは高く良い演奏でした。 スケルツォOp.39は主部のオクターブもメリハリと迫力があり聴いていて爽快感がありました。 コラール風和音の後のキラキラと駆け下りてくる音型もきれいに粒が揃い、音も磨き上げられていました。 全体として、とても素晴らしい演奏で感動しました。5人目の評価Aです。

B 77.Aimi Kobayashi, Japan
スタインウエイ479を使用。 椅子が合わないようで、椅子を変えてもらい手間取るというハプニングがありました。 6年前にもこの人、同じようなことをした記憶がありますが、これは心証的にはどうなのでしょうか。 ノクターンOp.48-2は自然で美しい流れを作っていて良い演奏だと思いました。 ただ直前のキム・スヨンさんの素晴らしすぎるこの曲の演奏を聴いた後では、正直どうしても聴き劣りしてしまいます。 エチュードOp.25-11は技術的にもよく弾けていたと思います。そこに音の1粒1粒がくっきりしていて 迫力があれば、もっとよかったと思いますが、聴く人の立場でないものねだりはしないことにします。 エチュードOp.10-10はおとなしめの演奏。抑揚は自然で技術的レベルも高いです。 スケルツォOp.54は軽快で自然な演奏ですが、音の立ち上がりと切れ味が今一つでした。 この曲に切れ味を求めたい僕にはやや物足りない演奏でした。これは好みの問題でしょうか。 その前の奏者のSu Yeon Kimさんと比べるとどうしても聴き劣りしてしまいます。

C 78.Mateusz Krzyżowski, Poland
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.48-2はコクのある美音でまろやかで上品な音楽づくりが耳に心地よく響きました。 エチュードOp.10-11はアルペジオがやや不安定ですが、自然な抑揚を付けていて音楽的で良い演奏だったと思います。 エチュードOp.25-11は技術的コントロールにやや難あり、やや明瞭さに欠ける印象でした。 スケルツォOp.31はロマンティックに歌わせていて迫力も十分で好ましい演奏だとは思いますが、 僕としては、全体として散漫な印象でした。 全体として技術的に弱い印象でした。

A~B 79.Jakub Kuszlik, Poland
スタインウエイ479を使用。 予備予選の演奏を聴いてから、個人的に注目しているポーランド人コンテスタントです。 ノクターンOp.62-2は、暖かく深くまろやかな音色で、心が癒される素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.25-6は技術的にやや怪しいですが、まずまず良い演奏だと思います。、 エチュードOp.10-4は比較的落ち着いたテンポで、安定した完成度の高い素晴らしい演奏でした。 スケルツォOp.39は主部は十分に迫力があり、高音から駆け下りてくるキラキラした音型も 粒がきれいに揃い素晴らしい演奏だと思いました。 この安定感と安心感、貫録は何なのでしょうか? 他のコンテスタントとは比べるのが難しい独特の魅力とオーラを放っているように感じます。 予備予選のときもこれをどう評価すればよいか、最後の最後まで悩みましたが、 やはりすごい人のような気がして、評価Aとしました。 しかし今回はそこまでではないような気がします。

後半:17時~21時(日本時間:10月8日(金)午前0時~4時)
B~C 80.Shushi Kyomasu, Japan
ヤマハCFXを使用。 ノクターンOp.62-2は、静かなたたずまいの演奏。美しいのですが、反面やや地味な印象もありました。 エチュードOp.10-1は技術的にレベルの高い演奏で、抑揚もよく考えられていて、良い演奏だったと思います。 音を引っかける箇所もそれなりにありましたが、仕方がないと思います。 エチュードOp.25-6は技術的に怪しいところが結構ありましたが、きれいに弾けているところは非常にきれいで、 これが本来の実力なのだろうと思いました。 スケルツォOp.54は、歯切れもよく音がキラキラと輝いていましたが、ところどころ音が抜けるのが気になりました。 それなりにキズも多いのですが、音がキラキラと輝いていて美しく上品で、ショパンらしい演奏という印象でした。 ただ全体的に、この人の演奏は予備予選の方が良かったように思います。

C 81.Hyuk Lee, South Korea
シゲル・カワイを使用。輝きはあまりないものの、くっきりとした輪郭のある音色。 ノクターンOp.48-1の主部の節回しはあっさり目、後半は硬質のフォルテで華麗に盛り上げており、 ダイナミックで情熱的で完成度の高い演奏でした。ただ音はややうるさい感じの印象です。 エチュードOp.25-5は歯切れも良く、中間部の各声部の弾き分け、旋律の歌わせ方も板についた自然さで さりげなく素晴らしい演奏でした。 エチュードOp.25-11は、ところどころ大きなミスがあり、細かい動きも怪しい部分があり、 やや荒削りな演奏という印象でした。 ただその割に1つ1つの音がくっきりしていて濁りはあまりないのは、この人の持っている音色とペダリングの工夫だろうと思います。 幻想曲Op.49は情熱的かつダイナミックな演奏ですが、音色が硬質すぎて強奏で音が詰まるのが気になりました。 予備予選の演奏はそれなりに良かった記憶があるのですが、今日は調子が悪いのでしょうか。 個人的にはもう一度チャンスをあげたい気持ちですが、難しいでしょうか。

D 82.Jaeyoon Lee, South Korea
スタインウエイ479を使用。 ノクターンOp.27-2は薄く上品な響きでしたが、やや淡泊で平板な印象がありました。 エチュードOp.25-5の主部のスケルツァンドの付点リズムの部分が弾けていないようでしたが、中間部はまずまずでした。 エチュードOp.25-11は右手の音の粒がややモコモコとしているのとミスタッチが目立ちました。 スケルツォOp.39は主部のオクターブは迫力不足だからなのか全体として散漫な印象を残してしまったと思います。 全ての作品において何か良い印象を残すことができなかったように感じました。

D 83.Xiaoxuan Li, China
スタインウエイ300を使用。 ノクターンOp.48-1は低音の深い響きが魅力的。落ち着いた音の運び方、後半の盛り上げ方、和音の鳴らし方など、 立派なのですが、やや硬い印象がありました。 エチュードOp.10-10は音量を控えめにして美音を際立たせる弾き方。やや訴えるものは弱くミスタッチが目立ちました。 エチュードOp.25-11はミスタッチがかなり多く、決め手に欠ける印象を残してしまいました。 スケルツォOp.39は悪くないのですが、やはりミスタッチが多く散漫な印象を残してしまいました。 この人も予備予選の時よりもかなり調子が悪そうでした。

A~B 84.Bruce (Xiaoyu) Liu, Canada
ファツィオリを使用。硬質で輪郭のはっきりした音色。 ノクターンOp.27-1は、クールな節回しで全体的に引き締まった演奏でした。 エチュードOp.10-4はかなり切れ味がありミスタッチも少なく完成度の高い演奏でした。 エチュードOp.25-4は歯切れの良いリズムで気持ちよく聴ける優れた演奏でした。 スケルツォOp.54も音の粒立ちと切れ味、歯切れがよく、終始、気持ちよく聴けました。 久しぶりに自分のストライクゾーンど真ん中に近いキレキレのスケルツォ4番が聴けました。 全体として非常に技術的レベルが高く、完成度の高い素晴らしい演奏でした。 この人、今日は絶好調なのでしょうか。 この人もかなりのところまで行けそうな気がします。

良い演奏が聴けたところで、今日はここまでにしたいと思います。

? 85.Julia Łozowska, Poland
ノクターンOp.9-3、エチュードOp.10-5、エチュードOp.25-10、バラードOp.23

? 86.Jiana Peng, China
エチュードOp.10-10、エチュードOp.25-11、ノクターンOp.27-1、バラードOp.38

? 87.Chao Wang, China
エチュードOp.10-11、エチュードOp.10-1、ノクターンOp.27-1、バラードOp.23


1次予選通過者(10月8日朝(ポーランド現地時間10月7日深夜)発表)

引用元:Stage I results announced!

1. Mr Piotr Alexewicz, Poland
2. Ms Leonora Armellini, Italy
3. Mr J J Jun Li Bui, Canada
4. Ms Michelle Candotti, Italy
5. Mr Kai-Min Chang, Chinese Taipei
6. Mr Xuehong Chen, China
7. Mr Hyounglok Choi, South Korea
8. Mr Federico Gad Crema, Italy
9. Mr Alberto Ferro, Italy
10. Ms Yasuko Furumi, Japan
11. Mr Alexander Gadjiev, Italy/Slovenia
12. Ms Avery Gagliano, U.S.A.
13. Mr Martin Garcia Garcia, Spain
14. Ms Eva Gevorgyan, Russia/Armenia
15. Ms Wei-Ting Hsieh, Chinese Taipei
16. Mr Adam Kałduński, Poland
17. Mr Nikolay Khozyainov, Russia
18. Ms Su Yeon Kim, South Korea
19. Ms Aimi Kobayashi, Japan
20. Mr Mateusz Krzyżowski, Poland
21. Mr Jakub Kuszlik, Poland
22. Mr Shushi Kyomasu, Japan
23. Mr Hyuk Lee, South Korea
24. Mr Bruce (Xiaoyu) Liu, Canada
25. Mr Arsenii Mun, Russia
26. Mr Szymon Nehring, Poland
27. Mr Viet Trung Nguyen, Vietnam/Poland
28. Mr Georgijs Osokins, Latvia
29. Mr Evren Ozel, U.S.A.
30. Mr Kamil Pacholec, Poland
31. Mr Hao Rao, China
32. Mr Sohgo Sawada, Japan
33. Mr Aristo Sham, China, Hong Kong
34. Ms Miyu Shindo, Japan
35. Mr Talon Smith, U.S.A.
36. Mr Kyohei Sorita, Japan
37. Ms Szuyu Su, Chinese Taipei
38. Mr Hayato Sumino, Japan
39. Mr Yutong Sun, China
40. Mr Tomoharu Ushida, Japan
41. Mr Marcin Wieczorek, Poland
42. Mr Andrzej Wierciński, Poland
43. Mr Yuchong Wu, China
44. Mr Lingfei (Stephan) Xie, Canada/China
45. Mr Zi Xu, China

審査結果に対する感想

1次予選の演奏をあらかた聴き終えた後の感想ですが、結論から先に言うと、明らかに突出したコンテスタントはいないと思いました。

僕が今回の1次予選で評価Aを付けたのは、Hao Raoさん(中国)、Shun Shun Tieさん(中国)、Avery Gaglianoさん(アメリカ)、 Yifan Houさん(中国)、Su Yeon Kimさん(韓国)の5人でした。

そのうち予備予選から特に注目していたのは、Shun Shun Tieさん(中国)、Yifan Houさん(中国)で、 これは予備予選レビューに記載した通りです。 しかしこの2人は、今回の1次予選であえなく敗退となりました。 また当初上位4人に挙げた韓国のJinhyng Parkさん(25歳)も落選で、 予備予選とは全く違い、ピアノの音が伸びず敗退かと思っていた台湾のKai-Min Changさんが かろうじて(と思います)通過したのみでした。

一方、そこには及ばないものの、有力候補と思っていた、Hao Raoさん(17歳中国人)、Arsenii Munさん(22歳ロシア)、 Jakub Kuszlikさん(24歳ポーランド人)、Lingfei(Stefan) Xieさん(20歳カナダ/中国人)、日本の反田恭平さん(27歳)は 全員通過していました。

日本人では、反田恭平さん、牛田智大さん、沢田蒼梧さん、角野隼斗さん、京増修史さん、小林愛実さん、進藤実優さん、 古海行子さんの8人が通過していました。日本人が予想以上に通過していて嬉しいですし、しかもそれぞれ1人1人、 キャラクターが違い、2次予選以降が楽しみになってきました。 一方で僕が必ず通るだろうと思っていた五十嵐薫子さんが落ちてしまったのは残念でした。 この人は非常に丁寧な音楽づくりで、Op.25-11で撃沈していくコンテスタントの中、この人はOp.25-11を選んで 成功させた非常に数少ないコンテスタントの1人でした。最後のスケルツォ3番も精妙で素晴らしかったと思います。 この人が何故、落ちたのか・・・ダイナミクスでしょうか、音色でしょうか。いずれにしても不運だったと思います。

それともう1つ。旋律を歌わせる天才として僕が特に注目していたAnastasia YaskoさんがエチュードOp.10-2の冒頭で止まってしまい、 先に進めなくなるという大事故のことです。僕はこの人の最初のノクターンOp.48-2を聴いて鳥肌が立つほど感動し (ノクターンで僕がここまで感動することは滅多にありません)、 この人には是非、本選まで進んでほしい、そうしたらコンチェルトのロマンティックな旋律はどんなに映えるだろうか、 と期待していたくらいです。 だからこのような事故を起こしてしまったことが残念で残念で仕方ありませんでした。 僕が審査員だったら、このノクターンだけでも、通過にYesを付けていたと思います。それくらい素晴らしかったです。 しかしやはりというべきか敗退となりました。 この事故がトラウマにならなければ、と僕は心の底から願っています。ピアノを歌わせることにかけては かけがえのない天才で、この人を落選させたことで、ショパンコンクールは本当に惜しい逸材を失ってしまいました。

予備予選の演奏を聴いてから僕が一押ししていたYifan Houさんに関してですが、実は1次予選の演奏を聴いているときに 一抹の不安を感じていました。音がガチャガチャとうるさく聴こえたんですよ。予備予選の時は決してそんなことは なかったんですけど、これはピアノの調律や会場の湿度、反響の程度など、いろいろな条件によるものだと思います。 それで結局、若くて元気一杯の超絶技巧ショパンになってしまいました。それでもここは絶対に通過するはずですし、 この人のポテンシャルはずば抜けているのは間違いないため、期待を込めて評価Aとしてしまいました。 これは僕の「評価A」という記述から、間接的に審査結果に影響を及ぼす可能性があると考えての、 半ば戦略的な行為でした。この音色がピアノや会場の条件による運の悪さであることは、プロであれば 誰が聴いても分かると思いますし、それならなおのこと「今回は不運だったから、もう一度チャンスを与えよう」 となるのが筋だと思うのですが、審査員達が何を考えているのか、全く理解できません。 それはともかくもう終わってしまったことなので、これ以上あれこれ言っても仕方のないことです。 この人はこう弾きたいと思ったことは何でもできそうな超絶技巧を持っていそうですので、 4年間、演奏に深みを持たせる研鑽を積んで、次回のショパンコンクールでその才能を花開かせてほしいと思っています。

もう1人のShun Shun Tieさんについては、ピアノの音色も素晴らしく技術的にも素晴らしい演奏だと思いました。 この人の演奏に関しては予備予選でミスタッチが多かったバラード1番もよく弾けていましたし、この1次予選の方が 出来はよかったと僕は思うのですが、それで何故敗退となってしまったのか、全く理由が分かりません。 この人を落とすなら、それよりも先に落とすべき人は少なく見積もっても80人(ほとんど全員ですね)くらいはいるように感じたのですが。 この1次予選では中国人の「大粛清」が行われていましたが、僕としては中国人はもっと多くのコンテスタントが 通過してもよかったと思えました。しかし中国は既にユンディ・リという優勝者を出していますし、 2人目の中国人優勝者を出すことに反対する審査員が多数を占めてしまい、その総意でこのような粛清が行われた、 しかもその中でも超絶技巧を持つYifan Houさんと、高い総合力を持つバランス型のShun Shun Tieさんが、最も脅威だった、 だからこの2人が2次予選以降、勢いを得て他のコンテスタントを圧倒していくのを阻止するために、 この早い段階でその芽を摘み取った、というのは、考えすぎでしょうか。想像で物を言うなと言われるかもしれませんが、 そうとでも考えなければ、この結果はつじつまが全く合いません。 中国人にはHao Raoさんという有力候補がいるではないかと言われるかもしれませんが、Hao Raoさんの演奏は 美しい反面、おとなしく地味であるため、入賞することはあっても、優勝するタイプではないと思います。 そこが、Yifan HouさんやShun Shun Tieさんとの大きな違いです。

このように書くと、僕は中国寄りの「売国奴」かと誤解してしまう方も出てきてしまうかもしれませんが、 僕は極めて中立な立場でものを言っています。いや、むしろ日本人優勝者が出ることを強く望んでいるくらいです。 ただこうしてショパンコンクールを聴くことの一番の目的は、未知の才能に出会うことです。 それがたまたま今回は中国人だっただけで、これが日本人だったらそれが僕にとっては何より嬉しいことです。

今回、僕がトップ2だと思っていた中国の超有力候補がこうして1次予選で早々と姿を消したということは、 それだけでも日本人コンテスタントの入賞の可能性が上がったのだと、前向きに考えたいと思います。 特に今回は牛田智大さん、反田恭平さん、沢田蒼梧さん、角野隼斗さん、京増修史さんの5人の男性陣に特に期待しています。

牛田智大さんは1次予選でとても感じの良い笑顔でステージに登場し、王子様のオーラを感じさせてくれました。 これだけでも無条件に応援したくなりますし、演奏内容も胸に迫る圧巻の演奏でしたから、相乗効果も絶大です。 実は日本人の1次予選の演奏で、僕が最も好きだったのがこの人の演奏でした。 技術的にも素晴らしい上に、幻想曲Op.49では情熱的かつダイナミックで聴く人の心に迫ってくる 曰く形容しがたい迫力がありました。 雰囲気もスター性がありますし、今回、日本人で優勝できるとしたら、きっとこの人に違いない、と思わせるものがあります。

反田恭平さんは、もう既にコンサートピアニストとしてのプロの貫録、手腕というものがあり、 ショパンらしいかどうかはともかく演奏内容は立派で風格さえ漂う見事なものでした。 日本人でチケットが最も取りにくいピアニストというキャッチフレーズは、もはやピアノ愛好者の間では 浸透しきっていますし、あえてショパンコンクールに出なくてもピアニストとして十分に食べていけると思うのですが、 その彼が今回のショパンコンクールに挑戦してきたのは、並々ならぬ決意があったのだろうと思います。 ワルシャワで数年間ショパンを学び、今回のコンクールには全力で向かってきていると思います。 この気迫とこの人の演奏の凄みがツボにはまれば、あるいは僕たちが期待している以上の結果を 我が国に持って帰ってきてくれる可能性はあると思いますし、それを期待しています。

沢田蒼梧さんは現役医学生でありながら、ピアノを専門に学んできた人に交じって、遜色ない、 いやそれを上回るピアノの腕があって驚かされます。 きめの細かい筋の良いテクニックと音楽性、ショパンらしい音色を持っていて惹きつけられました。 僕もピアノを弾く医師なので分かるのですが、医師になることよりもピアニストとして世に出ることの方が1万倍以上も 難易度が高いです。その超絶的な難易度に挑戦し世界最高峰のピアニストの登竜門に果敢に挑む彼の姿は、 僕を、そして僕だけでなくピアノを趣味とする医師に大きな勇気と感動を与えてくれます。 頭脳もピアノの腕も僕は彼の足元にも及びませんが、僕のはるか雲の上の上位互換として、彼には大いに期待しています。 是非、奇跡の演奏を連発して本選進出、そして入賞を、というのが僕の望みです。 そうなれば医師にはならずにピアニストとして頑張ってほしいと思います。 (医師ピアニストの前例としては、北大医学部卒の上杉春雄さんがいますね)。

角野隼斗さんは東大卒ユーチューバーピアニストとして、一部のコアファン層にその名が知られている ピアニストです。僕はこの方面についてはあまり関心がなかったため、最近までこの人のことを知らなかったのですが、 開成中学・高校から東大理Ⅰ、工学部に進学して修士課程まで修了しています。 僕も実は東大卒で(高校はもちろん違いますが)、東大卒ピアノ愛好者という立場で、 この人の活躍を期待している1人です。 予備予選のレビューのページにも書いたことですが、この人がYou Tubeでアップしている 木枯らしのエチュードは本当に完璧で素晴らしく、 ショパンコンクール本番でこのレベルの演奏ができているコンテスタントは皆無と言ってよいほどでした。 もちろんあのYou Tubeの演奏は、自宅の弾き慣れたピアノで取り直しを重ねてベスト中のベストを満を持して世に問うたもの だと思いますし、それを本番で同様のレベルで演奏するのは不可能に近いでしょうが、 それだけのポテンシャルを持っているということではあります。ただ、あの木枯らしのエチュード、 どう聴いても音取りの段階の間違いの音があり、予備予選でも修正されていませんでした。 この人はアンチ層も結構多いようで、「あれ、音違ってらあ、知らないっと」という感じで冷ややかな目で 見て見ぬふりをしている人も多いと思うのですが、あれを指摘してあげる人はいないのでしょうか? (と言っても和声学的にはほぼ影響を与えない音違いのため、目立ちにくいですし、まあいいかと黙認している人が 多数ではないかと思っています)。 この人はすごい経歴とピアノの才能を持っていて、それは十分認知されているのですから、 もっと庶民的な態度でファンサービスを心がければ、もっと多くのファンの心をつかめるだろうに、 もったいないと思うこともしばしばです。 2次予選以降、どこまで勝ち進んでいけるか、注目して見ていきたいと思います。

そして京増修史さん、この人はとにかく音がキラキラとして美しくて上品です。おまけにずるいことに 日本人男性コンテスタント1の精悍な顔立ちの爽やかイケメンですね。モテそうで羨ましすぎます(いまだに独身中年非モテ男の嘆き)。 「天は二物を与えず」という諺の最たる例外がこの人ではないでしょうか。 予備予選で聴かせてくれた美しい舟歌に感動して、この人はいいところまで行くだろうと 密かに期待していました。昨日の演奏は緊張によるものなのか、予備予選の時に比べるとやや音抜けが目立ちましたが、 それでも音色は美しく魅力的な演奏でした。キャラクターが濃い日本人男性コンテスタントの中にあって、 やや存在感は薄いかもしれませんが、この人の演奏の格調高さと比類のない美しさは別格と思います。

その他の日本人コンテスタントにも是非、1つでも上のステージに進んでほしいと思います。

10月9日から第2次予選がスタートします。 このページの更新はこれで最後です。次は2次予選レビューでお会いしましょう。


審査員

審査員長
カタジーナ・ポポヴァ・ズィドロン(ピアニスト、指導者、ラファウ・ブレハッチの先生として有名)
審査員(肩書)
ドミトリー・アレクセーエフ(ピアニスト)
サ・チェン(2000年第14回ショパンコンクール第4位)
ダン・タイ・ソン(1980年第10回ショパンコンクール第1位)
海老彰子(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
フィリップ・ジュジアノ(1995年第13回ショパンコンクール第2位(1位なし))
ネルソン・ゲルナー(1990年ジュネーブ国際音楽コンクール・ピアノ部門第1位)
アダム・ハラシェヴィッチ(1955年第5回ショパンコンクール第1位)
クシシトフ・ヤブウォンスキ(1985年第11回ショパンコンクール第3位)
ケヴィン・ケナー(1990年第12回ショパンコンクール第2位(1位なし))
アルトゥール・モレイラ・リマ(1965年第7回ショパンコンクール第2位)
ヤヌシュ・オレイニチャク(1970年第8回ショパンコンクール第6位)
ピョートル・パレチニ(1970年第8回ショパンコンクール第3位)
エヴァ・ポブウォツカ(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
ジョン・リンク(音楽学者、ショパン研究家、大学教授)
ヴォイチェフ・シフィタワ(ピアニスト・1990年第12回ショパンコンクール・セミファイナリスト(棄権))
ディーナ・ヨッフェ(1975年第9回ショパンコンクール第2位)


第1次予選課題曲

①以下のエチュードより1曲
エチュード ハ長調 Op.10-1
エチュード 嬰ハ短調 Op.10-4
エチュード 変ト長調 Op.10-5
エチュード ヘ長調 Op.10-8
エチュード ハ短調 Op.10-12
エチュード イ短調 Op.25-11

②以下のエチュードより1曲
エチュード イ短調 Op.10-2
エチュード ハ長調 Op.10-7
エチュード 変イ長調 Op.10-10
エチュード 変ホ長調 Op.10-11
エチュード イ短調 Op.25-4
エチュード ホ短調 Op.25-5
エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
エチュード ロ短調 Op.25-10

③以下の作品の中から1曲
ノクターン ロ長調 Op.9-3
ノクターン 嬰ハ短調 Op.27-1
ノクターン 変ニ長調 Op.27-2
ノクターン ト長調 Op.37-2
ノクターン ハ短調 Op.48-1
ノクターン 嬰ヘ短調 Op.48-2
ノクターン 変ホ長調 Op.55-2
ノクターン ロ長調 Op.62-1
ノクターン ホ長調 Op.62-2
エチュード ホ長調 Op.10-3
エチュード 変ホ短調 Op.10-6
エチュード 嬰ハ短調 Op.25-7

④以下の作品の中から1曲
バラード 第1番 ト短調 Op.23
バラード 第2番 ヘ長調 Op.38
バラード 第3番 変イ長調 Op.47
バラード 第4番 ヘ短調 Op.52
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
幻想曲 ヘ短調 Op.49
スケルツォ 第1番 ロ短調 Op.20
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op.39
スケルツォ 第4番 ホ長調 Op.54

以上4つの作品を演奏。①、②は続けて演奏。それ以外の曲順は任意。

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