平和と民主主義をもとめる
韓国の人々
いま,韓国が流行です.本屋でもインタネットでも,韓国情報は結構豊富です.しかし韓国における民主運動を手軽に概観できるようなハンドブックはほとんどありません.
実際に向こうの人たちにあってみると,民主運動が極めて活発なことが分かりますが,なかなか日本まで情報が伝わってきません.
この情報ギャップの原因は二つあると思います.ひとつは韓国には国家保安法という治安維持法の流れを汲む弾圧法がいまも生きており,迂闊にものがしゃべられないという事情です.現在も数百人の良心囚が獄につながれており,なかには20年以上も囚われている人もいます.北朝鮮の支持はおろか社会主義を口にしただけでも逮捕されることがありうるのです.
ふたつめはハングルの壁です.字が読めない,読めても意味がわからないという二重の厳しさが,韓国情報への接近を妨げてきました.しかし最近ではインタネット上で自動翻訳が利用できるようになり,ところどころちんぷんかんぷんながらも,どうやら大意は汲み取れるところまできています.
今回,主として在日韓国人の人たちのインタネット情報を利用して,韓国の民主運動の紹介をまとめてみました.これから韓国と接触を持とうと考えている皆さんの参考になればと思います.
内容の紹介
1.反戦・平和のたたかい
韓国がおかれている情況で,日本とはまったく異なる条件が二つあります.ひとつは北朝鮮の存在であり(根本的には,国土が分断されているということですが),ひとつは巨大な米軍の存在です.
このために韓国国民は,反共思想によっておさえこまれ,軍事独裁やその亜流を受け入れてきました.米軍は韓国軍の統帥権をいまも保持し,軍事的にはいまも韓国はアメリカの属国となっています.
2000年の南北首脳会談以来,このような雰囲気は大きく変わりつつあります.「北の脅威」がなくなれば,米軍の駐留する必然性もなくなります.
これまで沈黙を余儀なくされていた,米軍の横暴に対する批判も噴出してきました.その先頭に立っているのが,梅香里(メヒャンリ)の米軍射爆場反対のたたかいです.また,去年秋に朝鮮戦争当時の老斤里(ノグンリ)における住民虐殺事件も暴露されましたが,この事件に国民的憤激が起こったのも,米軍の存在そのものに対する国民の疑いが広がってきたからでしょう.
反戦のたたかいは,韓米行政協定の改正運動へと集約されつつありますが,いうまでもなくそれらの運動は,究極的には,行政協定の存在理由である韓米相互防衛条約の廃止と,米軍の全面撤退の方向に進んでいくと思います.
それは韓国一国でできるものではなく,日米安保条約とガイドライン,日韓軍事協力のネットワークを打ち崩し,東アジアに「平等なパートナーシップに基づく平和のネットワーク」を構築していく共同のたたかいになるでしょう.
この章には,01「韓米行政協定の解説」,02「梅香里のたたかい」,03「老斤里事件の紹介」の三つを載せています.また,昨年梅香里を訪問した西丸さんの04「梅香里基地闘争」を載せました.
2.韓国労働者のたたかい
韓国の労働運動の特徴は,大企業の労働組合が戦闘的だということです.たとえば,日本でも有名な現代自動車の労組は,民主労総の中でも最大最強の単産です.また闘争時にはストライキだけでなく,工場や会社への篭城を決行しますから,最後は必ずといってよいほど機動隊の導入と乱闘で終わることになります.
最近,韓国労働運動は金大中政権との対決姿勢を鮮明にしています.集会のスローガンには「金大中政権打倒」が加わるようになりました.その分岐となったのが,大宇自動車の首切り反対闘争です.
このブックレットには,05「大宇のたたかいの経過」を報告しておきます.
経過を知るために,金泳三大統領を退陣に追い込んだ,97年初頭の民主労総のゼネストの経過を,06「北海道AALAの総会報告98年版」から抜粋して掲載します.
また,98年に道労連機関紙に載せた07「韓国の労働運動」という文章を再録します.
3.民主主義をもとめるたたかい
先ほども触れたように,韓国には国家保安法という人民弾圧の悪法が今も生きています.国家保安法は戦前の日本支配時代の治安維持法を手本に作られたということで,基本的人権や思想・信条の自由などおよそ無視したとんでもない法律です.軍事独裁時代にはこの法律がフルに利用され,多くの良心的な人々が捕らえられ,獄につながれました.現在の大統領である金大中氏が,日本から無理やり拉致され,死刑を宣告されたのは皆さんご存知でしょう.
いま韓国では,08「国家保安法を改正しよう」という動きが活発になっています.その動きを紹介します.
もちろん,改正などと言わずにいっそ廃止すべきなのでしょうが,「北の脅威」が現存する中では,なかなかそこまで一気には行かないようです.
韓国の進歩的な出版社に勤めている人の話を聞くことができました.このたびマルクスの「経済学批判要綱」のハングル版を出版するそうです.科学的社会主義に対する関心が韓国内にも広がっているとは聞いていましたが,そこまで行っているのかとびっくりしました.
国家保安法を乗り越えながら,韓国民主運動が成長して来た経過については,98年に書いた09「韓国民主運動」を読んでください.
最近結成された韓国の10「社会労働党」という政党は,たんに韓国史上初めての近代的政党というだけではなく,明確に科学的社会主義の実現を目指す政党です.結成大会にはフランスや南アフリカの共産党からの祝電もあったそうです.ただし組織原則はもうひとつ不明なところがあります.今のところ,実体としては民主労総の政治局そのものといった感じもします.むしろ日本の旧社会党のようなイメージを考えているのかもしれません.
なにぶんにも労働組合の闘士を中核とする組織ですから,少々がさつなところがあるようで,フェミニスト,エコロジスト,平和運動家などからは一定の批判もあるようです.いずれにしても今後が注目される組織です.
昨年の総選挙には,ソウルの進歩的組織を結集した青年進歩党という組織も候補者を出しています.こちらの組織の詳細は目下不明です.知っている人がいたら教えてください.
学生運動を中心とする進歩的な運動には,反米民族主義と祖国統一を前面に押し出すNL派と,韓国自身の民主的変革を優先課題とするPD派の流れがあり,両派の論争が続いているそうです.前者が北朝鮮支持派で後者は金日成思想の否定派とも言われますが,ただの耳打ち情報ですから真偽は不明です.
4.韓国の民主的医療運動
これまで韓国の医療運動の全体像がつかみにくかったのですが,今回少し見えてきました.
韓国の民主的医療運動は全体として保健医療団体代表者会議という連絡会議に結集しています.この組織は,「国民の健康を守ろうとする自覚した保健医療関係者たちの自主的で進歩的の団体たちの連帯組職」です.この間,ムンソングミョングンの水銀中毒事件,ウォンジン・レ―ヨンの職業病事件などの環境汚染追放活動,疑問死の真相糾明の共同活動,医療保険統合一元化の活動などを展開してきました.会の設立目的は以下のように述べられています.
1.進歩的保険医療団体の連帯と団結
2.保険医療政策の開発および保険医療の改革
3.医療から疎外された人たちに対する医療支援
4.北朝鮮の子供たちへの医療支援および統一保健医療のモデル開発
保健医療団体代表者会議に結集しているのは,健康社会のための薬剤師会,健康社会のための歯科医師会,キリスト教青年医療関係者会議,労動と健康研究会,人道主義実践医師協議会,真の医療実現をめざす青年韓医師会,平等社会をめざす民衆医療連会,それに全国保健医療労組の八つの団体です.結集人員4万人を豪語していますが,そのほとんどは民主労総に結集するという医療労働者の組織です.しかし労組は「加盟してますよ」という程度の参加で,実体としては人医協を中心とする進歩的医師の結集体のようです.
これまでは民主化を目指す医師が,人道主義実践医師協議会(人医協)に加盟して運動してきました.しかし最近,「保健医療の改革」を中心に実践する人たちと,「医療から疎外された人たち」のための医療実践に取り組む人たちが,おのおのに展開し始めているようです.また,昨年の「医薬分業」騒ぎで,組織内に一定の混乱ももたらされているようです.
代表者会議を構成する組織の中で,いまもっとも活発に動いているのが民衆医療連会,略して民医連です.この組織は明確な政治的立場を持ち,民主労総とも連携しながら,職場の安全・衛生,社保闘争などに積極的に取り組んでいます.どんな立場かは,以下の「規約前文」を見ればでしょう.
医療は,市場経済原理により運営される一つの商品でしかない.我々の根本的任務は,保健医療部門から営利性を徹底的に排撃し,労動者- 民衆の健康権を確保するため一切の障害をとり除き,医療を社会化することにある.我々がめざす保健医療の社会化は,労動者- 民衆が政治の主体となる時,初めて実現可能となる.
我々は,労動者- 民衆が必要なすべての医療を提供される世の中,労動者- 民衆が政治の主体となる世の中を実現するために進むだろう.また総則二条にはこう書いてあります.
韓国の保健我々は,進歩的勢力との連帯を通じ,韓国の資本主義社会の根本的変革(韓国社会の変革)に寄与する.
今回の訪問で,女性幹部の金柾延さんにお会いすることができました.折悪しく新入会員の歓迎会の最中ということで,ほとんど話を聞くことができませんでしたが,急速に会員が拡大しているようです.とはいっても公称会員数は未だ二桁にとどまっていますから,サークルに毛が生えた程度のものです.
また,地域医療の実践を目的とする医療生協もいくつか生まれています.韓国の医療生協は日本の医療生協と深く関わっており,埼玉医療生協や川崎医療生協に数次にわたる見学団を派遣しているとのことです.
ここでは,民医連が作った啓蒙用の11「社保パンフ」の抜粋,97年に訪問したソウル市内の民主的診療所である12「広津(こうじん)医療福祉センター」の訪問記を掲載します.