──おはなし──

ここでは未発表の作品を紹介しています。
小さな小さなお話です。

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2016年  

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2016年・冬のおはなし                 「使命」

仕事ですっかり遅くなってしまった私は、終電に乗り遅れてしまった。
「この寒空に野宿か・・・・・」
途方に暮れている私の目の前で、反対路線にも最終電車が到着した。

向こう側も終電なんだな・・・私は独り言をつぶやき、人が電車から降りてくる様をボーッと眺めていた。

終電だというのに、人が多い。
眠らない町・・・大都会がそう言われるのも無理ないな〜
と、妙に納得しながら私はまだ、ボーッと眺めていた。

しばらくして、私は、ふと気付いた。
あの人たちは何かが違う。

最初は分からなかったが、確かに変だ。
そうだ、あんな服装は今の時代にはないはずだ。
もんぺ姿に、軍服・・・持ち物だって風呂敷包みや布製のカバンに丸い形をした水筒・・・

と不思議な気持ちで私はまだ眺めていた。
すると、車掌が線路を超えて私の所へやってきた。
「君、どこまで行くのかね?」
「はい、A峠前までです。」
「そうか、終電に間に合わなかったんだな・・・
 乗客を一人残らず送り届けるのが私の使命。さっ、早くついてきなさい。」
私は車掌に連れられて線路を横切り電車に乗った。

誰もいなくなった車内は、レトロな作りだった。電車は、今来た線路を
反対方向に出発した。
窓から外を眺めていると、さっき降りた人たちが歩いていた。

その人たちを見て、私は声をあげそうになるのを必死でこらえながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
彼らの着ている服の中身は、みんな骸骨だったのだ。

もしや、車掌も骸骨・・・?
私は怖くて顔を上げられずにいた。

「次はA峠前・・・A峠前・・・」

車内アナウンスで、我に帰った私は急いで電車を降りた。

「お客様・・・180円です。」
「ああ、どうもありがとう。」

お礼を言った私に車掌は
「当然です。私の使命ですから・・・」
と答えた。

運賃を車掌に支払うと、電車はまた、反対方向に動き出した。  

その時、私は見てしまった。車掌がかぶっている帽子の下が骸骨だったのを・・・

                                                                
                                    おしまい