──おはなし──

ここでは未発表の作品を紹介しています。
小さな小さなお話です。

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2017年 

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2017年・秋のおはなし                 「温泉で・・・」

この時期の温泉街は、旅行客でにぎやかになります。
あちらこちらで立つ湯煙に、心を落ち着かせ、楽しいひと時を過ごすのは格別です。

高校時代からの親友で7人組のグループ。
私たちは、このグループに「お姫様会」と名付け、たまに会っては、お茶や、ランチをして楽しんでいました。

この日は1泊二日で、ずっと行きたかった温泉に行けることになり、家族から離れてリフレッシュ旅行のつもりでした。

エー子、ケー子、チーコ、マー子、ミー子、ユー子、ヨー子

この7人は高校卒業後、それぞれの道を歩んでいましたが、お互い仲良く付き合ってきました。

このグループで泊まりがけの旅行だなんて、高校の卒業旅行以来。
みんなうれしくて、心が弾んでいました。

でも、こういうときって心に隙ができているのです。あの事件が起きるまでは、このことに誰も気づかなかったのです。

私たちは風情ある情緒たっぷりの温泉街で、ショッピングや観光を楽しんでいました。
旅館に着いた後も、夕食を済ませると、すぐに出かけました。

その時、女将さんが
「必ず温泉は夜中の12時までに入り終えて下さいね。露天風呂からの夜景がとても綺麗なんですよ。
でも深夜を過ぎると、灯りが次々と消えていきますから・・・・・・・・・・・・」

私たちは。女将さんがまだ話終わらないうちに、部屋を出て何の深い意味も考えずに、夜遅くまで町でウロウロしていました。


エー子…「ねぇねぇ、そういえばお風呂は12時までにとか、言ってなかったっけ?」
ケー子…「今、何時?」
チー子…「11時半よ」
マー子…「急がないと…」
ミー子…「なんで12時なんかな?まるでシンデレラじゃない、ハハハ」
ユー子…「きっと、掃除するのよ」
ヨー子…「じゃ、入浴の途中で追い出されちゃうとか…?」
みんな…「まさかねぇ…」

部屋に着いたときは11時40分でした。
私たちは大急ぎで、露天風呂のある別館に行きました。

そこは、風呂自体には灯りが無く、夜景から入る薄明かりだけ。
聞こえる音と言ったら、虫の音が聞こえてくるくらいで、静かな落ち着いた感じの、いいお風呂でした。

私たちは、この素晴らしい温泉に酔いしれていました。

しばらくすると、夜景の電灯が次々と消えだし、みるみるうちに真っ暗になったのです。
隣にいる友人の顔さえも分からないくらいに…

こんなに暗くなったんじゃもう風呂から出るしかない、そう思った時でした。
風呂のお湯が一瞬にして冷たくなったのです。

あんなに熱いくらいだったお湯がもう、氷水のようです。

風呂から出ようとした時でした。誰かが私の足をつかんだんです。
足元を見ると、無数の骸骨がひしめき合って、私たちを水風呂と化した湯船の中にひっぱりこもうとしているのです。

私たちは必至で逃げようと、もがきましたが、ひっぱる力が強くて体が、ずんずんと引きづり込まれていくのです。
助けを呼ぼうとしても声も出ません。
7人で力をくいしばって、引きづり込まれないように、7人が離れないように私たちは手つなぎ、なんとか持ちこたえていました。

どのくらい時間がたったのでしょうか、エー子とケー子が動いていないことに気が付きました。

私もだんだん体の感覚が無くなってきました。
チー子もマー子もミー子も、そしてユー子まで…
次々と、水の中に沈んで行きました。

助けたくても、骸骨が邪魔をして私の体は思うように動きません。

やっとの思いで
       「助けて〜」
           と私は全身の力を振り絞って叫びました。

私の声が旅館の事務所に届き、女将さんがあわてて駆けつけてくれました。

女将さんは何やら呪文のような言葉を言いながら、私たち7人を助けてくれました。

「あなたたち、私の言いつけを守りませんでしたね。
ここは、昔、戦の途中で怪我をした人たちが治療をするために作られた温泉なんだよ。
だから、12時を過ぎると、まだ未練が残っている人たちの為に供養できるように、温泉を開放しているんだよ。」


人の言うことには、耳を貸さなければいけない・・・・・・・・・
このとき、本当にそう思いました。

きっと、あの骸骨たちは、よそ者の私たちに腹を立てていたのでしょう・・・・・・・・・・

でも、困ったことに二度と温泉へは行けなくなってしまいました。

なぜなら、あの時、あの骸骨たちにつかまれた、無数の手形が何年たっても体のあちこちに残って、消えないからです。


                                           おしまい