Explorer Spirit 雑記帳 宇宙 トピックス
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矮惑星
正式名称は「準惑星」に決まった
太陽の周りには九つの惑星がある。水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星である。これらの星は夜空にたくさんある普通の星々とは違った動きをすることから惑星と名づけられた。つい最近、三年に一度開かれる国際天文学連合総会でこの惑星系列から冥王星を外そうという議論がなされ、冥王星が惑星系列から外され、冥王星は惑星ではなく「矮惑星」と呼ばれることになった。実は、この議論のそもそもの発端は、新たに見つかった2003UB313やセレスなど冥王星より大きな二つの星や冥王星と双子の星のようにも見える、カロン(冥王星の第一衛星)を含めた三つの星を惑星系列に組み入れようという話から起こったものである。それが、議論の結果、話が逆転して冥王星が惑星系列から外されることになったのだ。
普通、惑星は地球型惑星と木星型惑星とに分けられる。地球型惑星に所属するのは地球のほか、水星、金星、火星の四つで、これらの星は主に岩石から成り、地球の軌道の内側かすぐ外側で太陽の周りを回る。いずれも地球より小さな星である。惑星昇格の対象となったセレスは火星と木星の間にある小惑星帯に属する岩石主体の星である。直径はおよそ910キロメートルだからかなり小さい。一方、木星型惑星に所属するのは木星のほか、土星、天王星、海王星の四つである。これらの星は主にガスからなり、いずれも地球より大きな星である。ところが話題の主の冥王星は、これら地球型惑星とも木星型惑星とも異なり、主に氷でできている。
冥王星が他の惑星と異なるのはこればかりではない。冥王星は地球型惑星の中でもいちばん小さい水星と比べてもその半分の直径以下しかなく、地球の衛星の月より一回り小さいのだ。また、他の八つの惑星は同一の軌道面を持ち、軌道が重なることはないが、冥王星はそれらの軌道面と比べて17度傾き、軌道の一部は海王星の内側を通る。冥王星が持つこれらの性格は惑星というより彗星に近いものであった。実際1990年代に入ると観測技術が上がり、海王星の外側に、冥王星に似た氷の惑星が多数存在することがわかってきたのである。1999年冥王星に小惑星を表す番号を与えるための検討会が始まったが、惑星の定義が定まらず、そのときは結論が出なかった。
ところが、今回の総会で太陽系の惑星の定義が固まったのだ。その定義とは次の三つである。
@ 太陽の周りを回る(公転する)。
A 十分な重さを持ち、その結果自分の重力で球形をなしている。
B 自分の軌道の近くに、ほかに目立つ天体がない。
これによってセレスやカロン、“第十惑星”と騒がれた2003UB313は惑星系には入れないことになった。そして冥王星は惑星系から外れることになったのである。また、冥王星と冥王星の衛星カロンを双子の惑星としようとした思惑はみごとに外れ、冥王星そのものも惑星系から外れることになったのである。実のところ、八個の「古典的惑星」と冥王星など四個を「矮惑星」として何とか「惑星」の地位を守ろうとしたらしいのだが、その意見は多数の反対を受けて通らなかったのである。その結果、冥王星やセレス、2003UB313は惑星とは何の関係もない単なる「矮惑星」とされることになった。矮惑星の定義はまだはっきりと決まっていないようだが、
@ 太陽の周りを回る(公転する)。
A 十分な重さを持ち、その結果自分の重力で球形をなしている。
B 自分の軌道の近くに、ほかの天体がある。
C 衛星でない天体。
ということらしい。冥王星の衛星カロンは上記のCに引っかかる。だから今回は矮惑星からも外されたのである。惑星や矮惑星に当てはまらないが、太陽の周りを回る衛星でない天体は「太陽系小天体」と呼ぼうとしているようだ。
1930年に発見された冥王星は惑星としては有名だが、平原綾香のジュピターという曲で一躍有名になったホルストの組曲「惑星」には入っていない。ホルストの組曲の方が、冥王星の発見より古いものだからである。今日冥王星の大きさは月より小さなことがわかっている。星の組成や大きさ、軌道面の不一致などを考えると、やはり惑星から外すことに納得できるような気がするのは僕だけではないだろう。こんな議論をよそに、星々は今日も夜空の向こうで輝き続けている。でも冥王星を発見した国であるアメリカの天文学会では喧々囂々たる騒ぎになっているようだ。アメリカには国際天文学連合の会員が一万人もいるのに採決に参加したのが四百人ほどだったからである。
冥王星を惑星系から引き摺り下ろすことになった“第十惑星”2003UB313は、昨年冥王星より大きいことがわかり、惑星論議に火をつけたのだが、残念ながら“第十惑星”にはなれなかった。騒ぎを起こしたこの矮惑星は、ギリシャ神話の混沌と不和の女神にちなんで“エリス”と命名された。また、軌道が確定している冥王星とエリスにはそれぞれに小惑星番号が与えられた。この小惑星番号は、惑星とその衛星、それに彗星以外の、軌道が確定した太陽系天体に与えられるものである。これにより名実ともに惑星論議に決着がつけられた格好になった。ちなみにエリスの衛星は、名前を思い出せない症状を意味する“ディスノミア”と名づけられた。これはエリスの衛星ではなく、僕の頭の状態かもしれない。惑星が12個にならず、まずは安心したというのが実際のところかもしれない。
惑星の定義
三年に一度開かれる国際天文学連合(IAU = International Astronomical Union)の総会で、惑星の定義が以下のように決議された。
太陽系の惑星とは、太陽の周りを回り、十分大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち、その軌道の近くから他の天体を排除した天体である。
太陽系の dwarf planet とは、太陽の周りを回り、十分大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち、その軌道近くから他の天体が排除されていない、衛星でない天体である。
太陽の周りを公転する、衛星を除いた、上記以外の他のすべての天体は、Small Solar System Bodiesと総称する。
さらに、冥王星について次の決議が採択された。
冥王星は上記の定義により、dwarf planet であり、トランス・ネプチュニアン天体の新しい種族の典型例として認識する。
日本語の言葉遣い自体がまだ検討中の話だということである。
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昨年8月、国際天文学連合の決定で惑星系から外され「dwarf planet」と呼ばれる天体になった冥王星は「矮惑星」と仮に呼ばれていたが、日本学術会議の「太陽系天体の名称等に関する検討小委員会」は2007年3月21日これを「準惑星」と呼ぶことに決めた。準惑星というとこれから惑星に成長していくような期待を持たせる感じがするがもちろんそんなことはない。単に惑星より小さな天体だということである。矮惑星では語感がよくないなどいくつか理由があったらしいが、日本天文学会や日本惑星科学会から専門家が参加して決めたそうである。4月の日本学術会議幹事会で正式決定の運びになるという。
Explorer Spirit 木本哲
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