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ゴキブリ
Kimoto Satoshi Alpine Climbing School
NHKスペシャル「プラネット・アース」にコウモリとその糞の山を生活の場にするゴキブリの話があった。「インディージョーンズ」などの冒険映画では洞窟内にいろんな虫が大量に徘徊している場面が現れることがあるが、実際の洞窟にそんな場所があろうとは思いも寄らなかったから、気持ちの良し悪しは別として、ある種新鮮な感動があった。生命の繋がりというのは本当に面白いものだし、すごいものだなと思わせる。
ゴキブリというのは田舎に住んでいるとなかなか見る機会が少ない。しかし、人家が隣接する都会では多い。本当は野山が生活の場だったのにいつの間にか人間と共生する道を選んだものが出てきて、その一部が人家に住み着いたのだ。それは人間が洞窟に住んでいた頃からの話だというからゴキブリとの付き合いは相当古い。北京原人の時代には火を使った炉のあとが発見されているが、この頃から僕たち人類は延々とゴキブリと付き合っているらしい。
そのゴキブリにもいくつか種類がある。家に棲むゴキブリは、都心で暮らしていたときは少し小ぶりのチャバネゴキブリを見ることが多かったのだが、自分が住んでいる環境が山間の寒い地域に変わったせいか最近はクロゴキブリが主流だ。こいつは外から飛んでくるので退治するのが厄介だ。たまに明かりに誘われて網戸にとまることがある。アブラゼミでも飛んできたのかと思っていると、網戸にとまったあとの動きがまったく違うのですぐにゴキブリと気がつくしだいである。
このゴキブリはもともと熱帯産で暖かいところなら世界各地にいる。日本の山でも見ることができるし、南米のギアナ高地の枯れ草の中にもいた。もちろんネパールにも大きなものがいた。それは僕がこれまでに見たものの中で最大のものだ。世界最大のゴキブリは南米にいるらしく、それが何かの番組で映像に映し出されていたが、その映像に映ったゴキブリは薄茶色の意外にきれな昆虫に思えた。
ゴキブリは古生代石炭紀、年代にして今から3億年前に現れた。それからずっと絶滅せずに生き続けている昆虫だから退治してもそうやすやすといなくなるものではないのだろう。チャバネゴキブリはときどき立ち止まっては体を持ち上げて周りの様子を見るようなしぐさをする。行動もすばしっこくて生意気な感じがしたが、クロゴキブリはいかにも体が重そうで、足の動きが何だか体にあっていない。よく観察するととてもユーモラスな動きに思えるのだが、どうやらこれが気持ち悪さを誇張しているようだ。とはいえ、さすがにゴキブリは昆虫採集の対象にはしない。
日本最古のゴキブリの化石は山口県の大嶺炭鉱付近の中生代三畳紀という二億3000万年前の地層から見つかっている。昆虫の化石で最も多く見つかっているのがゴキブリだ。昆虫化石が入っている琥珀の中にもゴキブリがいるというから当時はよほどたくさんいたのだろう。
ゴキブリは中生代の終わり、植物が花をつけるようになってからは種子を食料にしていたらしい。あの脂っぽさはその頃の産物のようである。ゴキブリは何度もあった絶滅の危機をすべて乗り越えているから長寿の恩恵にあやかるべき昆虫なのかもしれない。こんなに長生きしている昆虫なのに誰も不老不死の妙薬とは考えなかったようだ。ゴキブリは本当に生命力が強い生き物だが、その源は多産にある。少子化を憂えている人間とはもともと生活力が違うようである。
Explorer Spirit 木本哲
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