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木本哲・ガイドの世界No.8
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唐松岳から雨飾山へ
天気図の流れから予想すると、明らかに下り坂であったが前線通過後の翌日の天気は何とか回復しそうな気配があった。予定通り唐松岳に行くのも手だが、目的の山唐松岳は二人とも登ったことがある山だし、万が一午前中に悪天が残ったら何もできないので思い切って目的の山そのものを変えることにした。集合場所の白馬駅で早くも雨が降り出す始末だったが、僕たちはスーパーに行って食料を調達すると、一路北へ向かい、雨飾山を目指した。天気は小康状態だがそうそう持つとは思えないので、小谷温泉からほんの少し歩いた雨飾山荘付近の雪原にテントを設営することにした。幸いなことにテント設営と同時に雨が激しく降り始めたので本日の行動はほとんど濡れることなく済ますことができた。
雷雨
雨はあられが混じったものだった。雨が降り続くにつれしだいに雷鳴と閃光が混じるようになった。雷に打たれ失神した記憶が蘇るが、そうそう雷に当たるものではないだろう。安易な発想だが、深刻に考えてもしょうがない。とはいえ宵の口になると不思議な現象が現れた。火の玉のような赤黄色のものがすぐ近くでできているようなのだが、実体を見ようとするとなかなか現れない。火球のようなものが光を放っている感じの閃光がテントの布地越しに見え、それと同時にシュルシュルという音が聞こえるのだから実体があるはずなのだ。傘があれば外でその現象が現れるまで待っていてもいいのだが激しい雨の中ヤッケで待っているのは辛い。結局閃光の実体を見ることができなかった。そのような現象が次回に現れるかどうかわからないが、目撃は持ち越しだ。
好天
雨は夜半に上がったようだが、よほど暖気が入ったのか、明け方の冷え込みがまったくなかった。おかげで雪は朝から緩い。こんな状況ではちょっとした斜面でも雪崩の発生が気になる。気温が高くなれば大きな雪崩がいつ出てもおかしくはない。頂上へは夏道をたどって行くことにするが、僕がすべてを決めてしまっては力はつかない。そこで地図を利用し、目印を利用しながら自分たちでルートを見つけ出していく。岩菅沢には雪崩れたばかりの大きな傷跡があったが、この雪質と気温ではそこここが雪崩そうである。そう言っているうちに新たな雪崩が発生する始末なので僕たちは夏道を放棄し、急峻な小尾根を登って南尾根に出ることにした。ちょっとしたバリエーションルートだが、上部斜面が雪崩やしないかが気になる。雪稜が急峻な斜面に消える部分のわずかな距離で大丈夫そうに思えるが気になるものは気になる。
幸い安定していたが、なだらかな小ピークに抜けると、ピークには山スキーを目的に反対側から登ってきたパーティーがいた。このピークこは山スキーを目的に登ってくる人がたくさんいるが、好天に誘われ、さらに二パーティーが登ってきているのが見えた。下山はそちら側にルートを取り、広大なブナ林を適当に縫って下山した。途中、ノウサギは僕たちに気づくと二メートルもの一歩を駆け続けて逃げ去った。さすがにここにも確実に春がやってきているようで、ノウサギの白いからだの一部は毛が生えかわり、小さな斑点がついていた。
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