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槍ヶ岳の思い出 1
(Recollections of Mt. Yarigatake)梅雨
梅雨時というのは何となく重苦しい山行しかできないものだけど、晴れを予想して行動するときは意外に楽しいものである。それは一年のうちで自然がいちばん活き活きしているときが梅雨時だということがわかっているからである。今回の登山は日程的にも好天は覚束ないと思っていたが、出発直前に得た情報を分析した予想の通り2日目から天気が回復して晴天になった。おかげで梅雨時のきれいな空気と雪による照り返しのためにずいぶん焼けた。梅雨時で人出が少ないだけに、出会う登山者も限られている。最盛期の山からは想像できないほど静かな山行で、久しぶりに大自然を心行くまで満喫することができた。こんな山行をしているとやっぱり梅雨の晴れ間ほど楽しい登山を約束してくれるものはないな、と思ってしまう。山登りは思いっきり楽しまないとだめだ。だが、山登りを心から楽しむためには体力と技術と経験が必要になる。情報
ガイドという人間は、クライアントに登山を安全に楽しんでもらうために、クライアントに不足している技術と経験を提供する。梅雨時に山に登る場合は、天気の流れをどう判断するかがいちばん大きなポイントになるが、それと関連づけてルートの荒れ具合や乾き具合、残雪の残り具合、増水の加減なども考えていかねばならない。それが、登山を、いつ、どのような形で実行するか登山を安全に実行できるか判断する大きな決め手となる。天気は思い込みだけでは決して判断がつかない。そこには科学的な知識と実地で積んだ経験のせめぎあいがある。昔と違って、今は天気図の最新情報がリアルタイムで手に入る時代だ。だから、あらかじめ天気の流れをつかんでおくと、出かける寸前にチェックした最新の情報も十二分に活かすことができる。また、最近は山小屋に設置したモニターで気象情報を一日中流していることも多い。情報は新しければ新しいほど予報や予想に活かしやすい。実際、新しい情報で行動がだいぶ変わることもある。だから、日にちに余裕が取れる人なら成功のタイミングをつかむのも容易になる。写真=尾崎竜二 3000メートル峰が続く槍・穂高の稜線。槍ヶ岳山頂から南の穂高・乗鞍方面を見る。
遠景:左から前穂高岳、北穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳、ロバノ耳、ジャンダルム、天狗岳、間ノ岳、西穂高岳。
西穂高岳がずいぶん低く見える。雲海の中に見え隠れしているのは乗鞍岳だ。
近景:右から大喰岳、中岳、南岳。2006年初めての槍ヶ岳登山
槍沢の雪はババ平からある。今年はさすがに雪が多い。頂上から見渡すとまだ雪庇が残っている稜線が見える。それに雪に埋め尽くされた谷がたくさんある。雪が多すぎたせいか花は開花が少し遅れているようだ。それでもコナシ、ニリンソウ、ミヤマカタバミ、サンカヨウ、エンレイソウ、ユキザサ、タツナミソウ、ショウジョウバカマなどたくさんの花があった。ライチョウはようやく白い羽が半分以上生え変わったところだ。巣を構えるのはこれからだから換羽も加速するだろう。この時期は、天気がよくなり晴れれば暑いし、悪くなって荒れれば寒い。でも山頂を独占できるのはこの時期のうっとしい天気のおかげ以外の何ものでもない。これは、この時期にわざわざ登りに来た登山者に与えられた特権と言ってもいいだろう。皆は嫌いかもしれないが、僕は梅雨の晴れ間を活かした登山が大好きだ。眺望は360度全開だし、空気は澄んで、景色は遠くまで見渡せる。一つ一つの景色を目に焼き付けながら行う山座同定も地図を広げてゆっくりできる。
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