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Explorer Spirit   巻頭エッセイ 11   オオカミ


『赤ずきんちゃん』や『七匹の子ヤギ』に見るオオカミは人間そのものや人間が飼う家畜を食べるという人間にとっては恐ろしい動物、つまり害獣として仕立てられているけれど、人間の側に立つイヌのことを考えれば、その祖先であるオオカミがそれほど悪いヤツだとはどうしても思えない。子どものころ大きな秋田犬にケツをかまれた憎らしい思い出を割り増ししてもそう思う。しかし、そうした童話のせいかオオカミに対する人々の風当たりは強い。

日本にオオカミが生息していたことを示す最後の記録は奈良県の鷲家口の地元猟師から購入したという動物コレクターのアメリカ人マルコム・アンダースンの報告に基づくもので1905年のことである。それ以来、時おり各地でオオカミを見たという話が持ち上がることがあるが、日本ではオオカミが生息しているという確証は得られていない。人間が自身の生息域を広げるにつれオオカミは生息域を狭め、悪者扱いされて絶滅の道を歩んだのは洋の東西を問わず同じである。

このオオカミは北欧から極東にかけて生息するタイリクオオカミや北米に生息するシンリンオオカミ、極地で生息するホッキョクオオカミ、日本に生息していたとされるニホンオオカミやエゾオオカミなどいろんな名前を聞いていたので、オオカミにはかなり種の数があるんだなと思っていたのだが、実は、分類学上は彼らは皆ハイイロオオカミであり、それぞれが独立した種ではなく亜種だという。彼らは人間と同じで、世界の各地域によって見てくれは多少違うけど皆同じ仲間で、交われば子ができるのである。


ハイイロオオカミ

そんなオオカミなら日本の原野や森林に導入するのも異論はない。もともと日本に生息していたものを復活させるだけのことなのだから。オオカミを復活させることでシカやイノシシ、サル、カモシカなど日本の植生に大きな変化をもたらす動物が適正な数になれば日本本来の自然を取り戻すことができるのではないだろうか。

山の守り神としてのオオカミが解き放たれれば登山は多少危険になるのかも知れないが、オオカミは利口な動物だからそうそう人間を襲うことはないだろう。愚かな人間が行う安易な餌付けさえしなければ動物はハンターすなわち捕食者としての一面を持つ人間を恐れるものである。もしオオカミを放つ計画があれば、僕自身はその計画に反対はしない。むしろ生態系の頂点に立つオオカミの復活は好ましいとさえ考えている。シカの食害で山肌ばかりではなく沢筋にも影響を及ぼす現状はあまりに異常ではないだろうか。シカやサルを保護し、生態系を壊すのを放置している現状にはどうも納得ができない。やはり自然は個々の動植物を分けて見るのではなく生態系として一つの大きなくくりの中で捉えることが好ましいと思える。

奥多摩周辺ではオオカミを祭神として、また狛犬として祀っている神社も多い。オオカミの復活はそうした社にも活気を与えるかもしれない。

※食料が豊富な地にあっては健康なオオカミが人間を襲うことはまずない。彼らは人間が危険な動物であることを知っているから人間を食料とは考えないのである。オオカミはまれに人を襲うがこれらはいずれも狂犬病感染固体であることが多いという。動物園来園者に対するアンケート結果によるとオオカミはトラより怖いと答える人が多いそうだが、実際はトラの方がはるかに凶暴で、トラは人間も容赦なく襲う。しかし、オオカミによる咬傷事件がまったくないわけではない。人に慣れ、人を恐れないオオカミは人間に危害を加える怖れがある。特に子どもに対してはその可能性が高い。健康なオオカミが人間を襲う場合は安易な餌付けや人間が残していったゴミが誘引になって人慣れが進んでいることが多い。オオカミがいるウィルダネスエリア内ではこういったことはご法度だったが、こういった規則を守ることは大自然に生息するさまざまな動物や人間自身の命を守る基本原則である。

環境  生態系ピラミッド  哺乳類

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