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ホタル
Kimoto Satoshi Alpine Climbing School
ホタルは甲虫目カブトムシ亜目ホタル上科ホタル科に属する卵から幼虫を経て脱皮を繰り返し、さらに蛹の時期を経て成虫になる著しい形態変化を伴う完全変態を行う昆虫である。ホタルは世界に約2900種いるそうだ。それらは熱帯から温帯の多湿な環境に棲息する。日本ではホタルは54種い、都内にはそのうちの9種が棲息しているらしい。ゲンジボタルは日本固有のもので、各地で天然記念物に指定されていることも多いという。ホタルのほとんどの種は陸生で、一生を通じて陸地で生活する。そのうち水生のものはゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタルの3種のみで、半水生がスジグロボタルの1種だという。ゲンジボタルやヘイケボタルとの馴染みが深いせいか、僕たちはホタルは水生が多数を占めている、あるいは水生しかいないような錯覚をしているが、現実はそれとはまったく逆で、陸生のホタルが大多数を占めているのである。ホタルの飛翔時期は5月下旬からお盆のころまでと意外に長い。機会があればそんな自然に触れてみてはどうだろうか。
ホタルの分類は下記の通りである。
ホタル科クシヒゲホタル亜科
クシヒゲボタル属
ホタル科ミナミボタル亜科
ミナミボタル属
ヒゲボタル属
ホタル科ホタル亜科
ホタル属(ここに僕たちがよく知っている下記のホタルが属す)
ゲンジボタル(学名:Luciola cruciata Motschulsky,1854)
ゲンジボタルは渓流で発生する。渓流と言っても急流ではなく、穏やかな流れがある中流域が主な棲息域である。水際のコケなどに産みつけられた卵から孵った幼虫は川に入り、彼らの主食であるカワニナに近づき、肉をとかして食べる。したがってカワニナが繁殖する環境でないとゲンジボタルは発生しない。カワニナは急流にもいるが、急流ではゲンジボタルの幼虫が流されてしまう。こうしたことはカワニナの絶滅を防ぐことにも寄与しているのだろう。またゲンジボタルの飛翔力は弱く、川が土手や樹木で保護され、強風が吹き抜けにくいことも重要な生活環境となる。もちろん幼虫は蛹を経て成虫となるので、蛹化するに適した岸辺と土壌があることも重要である。また羽化したときに羽を休める環境も必要である。青梅周辺にはそんな環境がある小河川がたくさんある。ゲンジボタルの発生時期は6月下旬だ。その時期にはホタル見学用のバスの便があるのだが、いったいどのくらいの人がホタル見学に訪れるのだろう。普通ゲンジボタルは前胸部に十字紋があるが、雌雄によって赤い色の色合いや紋様に差があるとともに、発生する地域による固体差も大きい。ゲンジボタルの体長は12〜18mmほどでメスの方が大きい。発光器はオス2節、メス1節だ。ゲンジボタルは渓流の清流域で発生するが、水質悪化や河川改修による環境の変化は変態に伴って必要になるゲンジボタルの生態環境を破壊することになり、簡単に絶滅へとつながる。ゲンジボタルが発生する環境は人にとっても優しい環境であると知るべきだろう。ヘイケボタル(学名:Luciola lateralis Motschulsky,1860)
ヘイケボタルの棲息域は広い。日本はもちろん朝鮮半島や中国東北部、シベリア、サハリン、千島列島なども入る。このヘイケボタルは日本では水田とのかかわりが深く、餌はカワニナも食べるが、水田に棲息するタニシやモノアライガイなどを好んで食べる。したがってその発生時期は水田の耕作時期とも密接な関係があり、ヘイケボタルの発生時期は地方によって大きく異なるようである。水田、池、沼など止水域で多く発生する。普通ヘイケボタルは体長7mm〜10mmほどの雌雄同程度の大きさだが、ややメスの方が大きい。前胸部に一文字の筋があるが、筋の形状は個体間の差が大きい。発光器はオス2節、メス1節でゲンジボタルと同じだ。水田で多くの農薬が使われれば絶滅する恐れがある。農薬の使用量が少ない水田にはタニシのほかにミズカマキリやタイコウチなどの水生昆虫を見ることができる。タガメが絶滅の危機にあるのも水田に散布される農薬が原因である。ヒメボタル(学名:Hotaria parvula Kiesenwetter,1874)
ヒメボタルは一生を通して陸で生活するホタルで、ゲンジボタルやヘイケボタルとは大きく異なる。体長は前記2種よりさらに一回り小さいが、発光する光は前記2種より強く、カメラのフラッシュのような閃光である。他のホタルと違ってメスの方がオスより小さく、メスは後翅が退化し、飛ぶことができない。このことが地域発生的な要因を作っている。ヒメボタルは雑木林や竹林、ブナ林、河川敷などで発生するが、ヒメボタルの餌はベッコウマイマイやオカチョウジガイなどの陸生の貝類である。ヒメボタルは人工的な明かりを嫌うので暗がりと腐葉土化した落ち葉を食べる陸生の貝類が繁殖できるような厚く堆積した落ち葉と適度な湿度が必要である。一般的にホタルの成虫の寿命は1〜2週間ほどであるが、ヒメボタルの寿命はオスで7日、メスで2〜3日だそうだ。メスは交尾の翌日に卵を産むとすぐに死んでしまう。ヒメボタルの活動時期は日没後30分くらいから21時〜22時ごろまで活動するものと23時から24時ころまでの深夜に活動するものという具合に地域差が大きい。終令幼虫は土中に土繭を作り、雨降りの翌日に土繭を破って地上に出てくるので、ヒメボタルを見るには雨後が狙い目になるかもしれない。ヒメボタルの体長は6mmから9mmほどでとても小さい。ヒメボタルには大型と小型がおり、箱根を境に東日本には大型が、西日本には大型と小型がいるそうだ。小型は西日本の低地に広く棲息しているという。スジボタル属
ホタル科マドボタル亜科
マドボタル属
オバボタル属
スジグロボタル属
オオメボタル科
オオメボタル属※ホタル科とは別にベニボタル科というのがあるが、ホタルとは近縁でも一生を通じて発光しない。
子どものころは水がとてもきれいな場所にいたからホタルが飛び交っているのはごく自然なことだった。でも、都会に住むようになってからはホタルは遠い存在になった。郊外に住むようになってホタルはまた身近な存在になったが、飛び交う数には大きな違いがある。ホタルに興味を持ち、ホタルのことを調べていたら、ホタルというのは人間の生活と緊密な関係を持っていたんだなということがよく分かる。実はホタル、特にゲンジボタルやヘイケボタルは里山の甲虫なのである。里山の谷戸田や谷戸田をつなぐ用水路は耕作放棄されたり、埋め立てられて宅地化されたりしてだんだん少なくなってきているし、その上流に位置していた雑木林も放置されるか宅地へと転換されつつある現状ではこれらのホタルもまた確実に滅びへの道を歩んでいると思われるのである。宅地から汚水が流入すれば河川環境が変わり、ホタルはいなくなる。ホタルはまた渓流にも発生するが、渓流は上流域と言っても源流域ではなく中流域の様相を呈し、水深が浅く、流れが緩やかなところがホタルの棲息に適している。実際こういった地形でなければホタルは発生しない。東京ではハケ(断層崖の湧水地)でも発生していたという。実際そういう場所がある。現在は都会然としてホタルが発生する環境は失われ、保護養殖活動によってこうした環境が守られているのが普通だ。またゲンジボタルの主な餌でもあるカワニナが棲息するためには石灰分が必要なのだということである。沢筋によってカワニナの生息数に大きな差が見られることがあるが、それはこんな理由によるのだろう。そんなことを思うと自然は本当に微妙な世界だと認識する。ホタルを守るというのは人間が住みやすい環境を守るということでもある。
ちなみにホタルが光るのはもちろん交尾する相手を探し求めるためだが、どちらかと言えばオスよりメスの方が飛翔力が弱く、オスがメスのそばに飛んでいく。ホタルの中にはメスには羽がない種もいる。そんなわけで、ホタルは、湿度が高く、風がなく、明かりがないところを好む。明かりがあるところはせっかくの光通信が有効に働かないわけだから当然と言えば当然だろう。もちろん雨降りでない日を好む。
ホタルが発光する仕組みは発光器で化学反応が行われることによる。ホタル腹部先端の発光器にはルシフェリンという発光物質があり、それが発光酵素ルシフェラーゼと化学反応をして発光するのだ。このルシフェラーゼはホタルによって少しずつ違い、それに伴いホタルの発効色が青緑から黄金色、橙色と種類によって異なるのだ。ホタルの発光器にある発光細胞には、発光に必要な酵素を送り出す器官とその供給を司る神経があり、その神経の調節によって光がついたり消えたりする。光の色や発光パターンはホタルの種類や性別によってそれぞれ異なる。ちなみにホタルは卵から幼虫、蛹、成虫と変態する一生を通して光る。ホタルの発光は、蛍光灯や電球などとは違い、熱の発生を伴わないとても効率のよい発光である。
Explorer Spirit 木本哲
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