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パチュムハム初登頂(2004年)
Kimoto Satoshi Alpine Climbing School
Pachumuham 6529m / via North ridge First Ascent 2004
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今からおよそ百年前に、仏教の原典を求めてチベットに潜入した河口慧海の足跡調査を兼ね、西チベットに聳える雪山(パチュムハム)と岩山(ギャンゾンカン)の未踏峰二座に挑戦した。パチュムハムはそのうちの雪山である。見る方向によって山の形は変わるが、場所によってはボタ山とまで行かなくても変な山に見える。しかし、ネパール側、チベット側とも、パチュムハムの遠望は空に突き出た鋭い独立鋒で、なかなかの秀峰である。山頂の標高は6529メートルに達し、周囲の6000メートル級の山並みに比べ、その姿は一つ抜きん出ている。
パチュムハムの登頂ルートはその北に聳える6167メートルのピークから続く岩尾根をたどり、比較的緩い傾斜の雪壁を登って頂上に達するもので、技術的にはそれほど難しいルートではなかったが、もし雪が降り積もった直後の状態だったとしたら、6167メートル峰手前の岩稜の歩行からピークを越えてパチュムハムとのコルまでの岩稜歩行は、きわどいバランスを要求され、困難を極めたことだろう。パチュムハムそのものの斜面は易しくても、コルまで延々と続くナイフリッジが悪い。
今回は隊員7人のうち3人が高所登山未経験者だったが、ネパール国内からの高所順応活動のおかげか、全員無事に登ることができた。今回の登山活動に必要な登山技術は、春の笠ヶ岳、夏の御在所岳、ネパールで行った高所順応活動のさいにターメ周辺の岩場で講習し、身につけてもらった。実際のところ、ユマーリングの技術はターメの登山活動がすべてだったが、器具の調整や使用法はわずかな訓練期間にコツ教え、調整や訓練を繰り返し、何とか数日で習得できたようだ。もし習得できなかったら、岩壁を登ることが必要なギャンゾンカンは登ることができない。それだけに短い練習期間ながらも、何とか学び取ろうという気合に満ちていたのだろう。
僕が皆と顔をあわせたのは、国内ではたった一回だけである。わすか二日間で、準備会という名の打ち合わせと久々に御在所岳の一ノ壁で岩登りをしただけなので、登山技術の技量はともかく、メンバーの性格をうまく掴みとるというところまではいかなかった。こういう話をするといい加減な登山隊のように思えるかもしれないが、そもそもこの程度の高所登山なら日本国内の冬山が登れれば十分対応できるのだから、あまり深く考える必要はない。
高所登山というと何やらすぐに気構えてしまいがちだが、本人にやる気さえあれば、たとえそれが初めての高所登山であったとしても、頂上に立つこと自体はけっこう容易にできるものである。実際、経験者の力はそれほど大きいものなのである。しかし、たとえそうは言っても、ヒマラヤ登山が初めての者も、経験豊富でこの程度の山ならへとも思っていない者も、もちろん全員が初登頂の歓喜に酔ったことは言うまでもない。初登頂という記録は、登山史に、永遠に残る記録なのである。*
写真 (上)未踏峰パチュムハム
(下)既踏峰パチュムハム(上)ルートは6167メートルのピークから南に延びる尾根をたどり、雪に覆われたコルから雪壁をたどって登頂した。6167メートルのピークももちろん初登頂である。
(下)パチュムハムの山頂で。
後列左から、カンチャ・ダワ、アン・プルバ、嶋田、大阪。前列左から、大西、青井、橋尾、千田。後方は西方の国境稜線になる。ネパール側は谷が深く、アプローチに難儀する部分があるが、チベット側は総じてアプローチは容易だ。登山報告書「チャンタンの蒼い空」考えてみると自分自身の登頂写真はあまりない。写真を撮る側の方が多いし、行動自体が自分一人ということが多いからだ。実際、自分の回りに人がいようといまいとあまり気にならない。でも一人で登ると行動するスピードがえらく速くなる。そういえば、エベレストもチョーオユーもみんな一人で行動したけど、特に悪いところはなかった。ノーマルルートはそんなものだ。
Explorer Spirit 木本哲
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