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河口慧海・チベットへの道

Kawaguchi Ekai ・ A path to Tibet  1

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河口慧海がもたらした登山

およそ百年前、サンスクリット語やチベット語で書かれた仏教の原典を求め、ヒマラヤの峠を越え、チベットに潜入し、カイラスを巡ったのち、チベット仏教の総本山があるラサに向かった日本人がいる。海外の著名な探険家が入る前、まだこの地の正確な地図がなかったころの話である。明治から昭和の世を生きたその人は河口慧海という名の黄檗宗の僧侶である。僕たち西チベット学術登山隊は彼の足跡を尋ね、これまで積み重ねてきた学術登山とは違い、正規の手続きを経て、西チベットの未踏峰二座の登山と絡め、外国人未開放地区に入った。

実のところ、河口慧海の足跡調査が先か、未踏峰登山が先か白黒をつけるのは難しいところだが、登山の方が若干重みがあるのは否めない。何せこの登山に陰日なたの存在でかかわってきた吉永定雄や大西保という人たちは、日本人として始めてヨセミテ国立公園でロッククライミングをした人たちなのである。だから、実は歩くことより岩を攀じ登ることの方がはるかに好きな人たちなのである。

西ネパールと西チベット国境のチベット側に聳える6000メートルの未踏峰二座、パチュムハム雪峰と日本山岳会100周年・関西支部70周年・大阪山の会・同志社大学山岳会ギャンゾンカン岩峰を対象にした登山は、もちろん登頂に成功し、パチュムハム北稜からの初登頂とギャンゾンカン南東壁初登攀初登頂および第二登の栄誉を得た。

衛星画像 
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「西チベット学術登山隊2004」の登山計画書。

この登山は、もともとは大阪山の会が主体となって展開していた西ネパール・西チベット国境地域の地域研究として地道な活動を続けていたものだったが、日本山岳会関西支部の設立70周年にあわせ、メジャーな登山計画に発展した。それと同時に日本山岳会の設立100周年を記念する登山計画の一環として行われることになった。

 

登山隊の荷物整理を若手に任せ、大西隊長と登攀隊長の僕とシェルパの三人で越境峠説の真贋を探るため、西チベット原野・乗馬行・ラフマミレー魚釣りにかこつけてイナン・ツォに向かう。この池の上流に位置するイナン・ラは河口慧海が越えたヒマラヤの峠として最も有力視されていた峠である。

西ネパールを含めたチベット圏では原野の移動に馬を使うことが多い。四足動物だからまず転ぶことはないだろうと思うのが普通だろうが、たまに馬が石に躓いて転ぶ。あぶみにかけた足が馬の体の下敷きになったら骨折はまぬかれないだろう。それを考えるとちょっと怖い。実際、僕が乗った馬は二度転んだ。最初は何が起きたのかさえわからなかった。だが、馬が転んだのだと気づくのにそう時間はかからなかった。次からはそういった状況にも気をつけるようになったが、転ぶのは僕じゃないからいつ何時転ぶか予測はつかない。

(上)僕とカンチャ。馬に乗っている姿は、やはりカンチャの方が様になってる。 写真=大西保
衛星画像 
http://maps.google.co.jp/maps?hl=ja&q=&ie=UTF8&t=h&om=1&z=12&ll=29.566888,83.363228&spn=0.269649,0.42366

彼の初登山はウルキンマンだったような気がする。いや、アマダブラムのヤクドライバーだったかな? たぶんそうだ。今、エベレストに行っているが、チャンスがあればもちろん余裕で登れるだろう。久しぶりにシェルパに会うと、登山靴を履くことから始めたシェルパがいつの間にかエベレストに登り、さらにしばらくして会うとエベレストに登頂した回数が増えているのが面白い。なんだかんだ言ってもシェルパは強い。カトマンズデポの僕のピッケルがないと思って一生懸命探していたら、目の前にあった。だが、いつの間にかカンチャのものになっていて……。オレはやった覚えはないぞ。まあ、いいか。オレは違うピッケルを使うよ

河口慧海・チベットへの道1011   河口慧海研究プロジェクト  季刊民俗学119号

ビッグ・ウォール・クライミング
しぶとい山ヤになるために=山岳雑誌「岳人」に好評連載中

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