オオスズメバチ(Vespa mandarinia japonica)は、体長27-45mm(女王バチ40〜45mm、働きバチ27〜40mm、オスバチ35〜40mm)でスズメバチ類の中では最も大きなハチである。女王蜂の中には50mmを超える個体も存在するというから驚いてしまう。だが、体が大きい分だけやはり重たいらしく、敏捷性には欠ける。オオスズメバチはクワガタやカブトムシが集まるようなクヌギの樹液に群がるので、オオスズメバチを一目見ようと思えば簡単に見ることができる。
樹液を吸っているオオスズメバチは一見おとなしそうに見えるが、日本に生息するハチ類の中では最も強い毒をもち、攻撃性も非常に高い。一匹でも果敢にミツバチを攻撃する姿を見ていると、体の大きさに任せて無鉄砲なことをやるやつだという印象はぬぐえないが、勇猛さは見て取れる。このことからもわかるように、オオスズメバチは気性が荒いので最も注意が必要なハチであることは間違いない。ミツバチどころかキイロスズメバチでさえ襲ってしまうのだから尋常ではない。
オオスズメバチは、攻撃性、威嚇性ともに強く、地中や樹洞に営巣した場合、近くを通行する際の振動が巣に伝わるとハチが興奮して攻撃してくることがある。また、樹液にも飛来するがオオスズメバチは縄張り意識が強いため、餌場でも威嚇や攻撃がみられるので注意が必要である。オオスズメバチが本格的に攻撃してくると、毒針を刺したり毒液を水鉄砲のように噴出させるほか、毒針を刺しながら強力な大顎で攻撃対象の皮膚を食いちぎる行動も行うので攻撃される側はたまったものではない。ミツバチはこれによって簡単に首を切り落とされてしまう。だからもしオオスズメバチに襲われたとしたら、被害者は大怪我を負う可能性が非常に高い。万一オオスズメバチに襲われた場合は、どんなに痛かろうと、とにかくその場所から逃げ出すことが大切である。巣の近くで刺された痛みのためにうずくまれば、巣にいるたくさんのオオスズメバチがやがて攻撃に参加する。こうなってはもはや手遅れだ。
つい最近(9月中旬)、自宅近くの神社の脇の杉林の中の倒木と地面の間に作られていたオオスズメバチの巣のそばを通った主婦がオオスズメバチに刺され死亡する事故があった。その主婦はなんと91箇所も刺されていたそうである。キイロスズメバチに8箇所刺されただけで声も出せないくらいの痛さだったのだから、オオスズメバチに91箇所も刺されたらどんなに刺され強い人であっても死んでも不思議はない。ハチは黒いものに反応するが、このときも刺し傷は頭部と青いズボンをはいていた両足に傷口が集中していたそうである。オオズズメバチは体が大きいせいか毒性も強く、思い切り刺された場合は傷口付近の組織が壊死する。とにかく地面から飛び上がるような大型のハチはオオスズメバチ以外には考えられないので躊躇せず逃げることである。ハチは巣から大きく離れれば襲うのを止める。
オオスズメバチは日本の北海道から九州まで広く分布しており、日本での南限は屋久島、種子島付近である。巣は先に書いた通り木の洞や土の中に作る。巣の外皮は薄く、底が抜けている。巣盤数は4〜10層、育房数は3,000〜6,000房ほどである。越冬した女王バチは5月中旬頃から営巣を開始し、働きバチは7月から羽化する。オスは9月〜11月に、新女王は少し遅れて10月〜11月に羽化する。
オオスズメバチの幼虫の餌はコガネムシやカミキリムシといった大型の甲虫類、さらにはスズメガなどの大型の幼虫などであるが、大量の雄バチと新女王バチを養育しなければならない秋口にはオオスズメバチが常食にしている昆虫が減り、幼虫の餌を確保するのが難しくなる。このためオオスズメバチは集団でミツバチやキイロスズメバチといった巨大なコロニーを形成する蜂の巣を襲撃する。したがってオオスズメバチはこの時期(9月中旬から10月中旬)がもっとも攻撃性が高い。
スズメバチ属としては小型ながらもおびただしい数の働き蜂を擁するキイロスズメバチの巣を襲撃した場合にはオオスズメバチにも多大な被害が出るが、コロニー自体が巨大なため、巣の占領に成功したときには、その損害に見合う大量の幼虫や蛹を幼虫の餌として確保できる。しかし他のスズメバチに比べて外骨格が強靭なチャイロスズメバチの巣を襲撃した場合には、大顎や毒針による攻撃が必ずしも有効に機能せず、逆に撃退されることもあるらしい。
ニホンミツバチを含むトウヨウミツバチの巣を襲撃した場合、攻撃の初期段階、つまりオオスズメバチが集合フェロモンにより同じ巣の働き蜂を呼び寄せる前の段階では、ミツバチが集団でオオスズメバチを包み込んで蜂球を作り、ミツバチよりわずかに低いオオスズメバチの致死温度まで代謝熱を上昇させられて蒸し殺されてしまう。この段階で撃退に失敗してオオスズメバチの集団に攻撃を受けた場合、トウヨウミツバチは幼虫や蛹、蓄えた蜜や花粉などの貯蔵食糧など巣から持ち出せないものは諦め、そ嚢に収められるだけの貯蔵蜜を体内に確保した女王蜂と働き蜂だけで逃走する。しかし、セイヨウミツバチの場合はこれに対抗する術を持たず、全滅を余儀なくされる。