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登山で扱うレスキュー技術は万が一遭難事故が起きたときに事故者や他の同行者の安全を確保しながらより安全な場所に移動させたり、警察や消防と連携して救出ポイントまで移動させる技術である。その方法を大きく分けると、セルフレスキュー、引き上げ、吊り下ろし、搬送の四つになる。

実際のガイド登山で、最初から遭難事故が起こるものと決めつけて山に出かける山岳ガイドなどおそらく一人もいないだろう。実際、登山中に行わなければならない救助活動は、自分が、あるいは自分たちが今もっている道具でどういう救助ができるのか、どういう救助方法をとれば遭難者の生存率が高まるのか、ということを考えるところから始まるはずである。実際の遭難現場では限られた道具でこれらを行わなければならないが、レスキュー技術講習会の類はどうしても普段はガイド山行に持ち歩かない余分な道具まで持っていってしまがちである。実際、レスキュー講習会を見ていると現実のガイド登山とかけ離れた装備を持って訓練しているものが多い。ガイドが身につけていなければならないレスキュー技術の構築にあたっては、ガイド山行の基本に立ち返って必要最小限の装備でどういうレスキューができるのか考えてみることから始めることにする。

現実に目の前で遭難事故が起きたとしたら、自分が置かれている立場を冷静に捉え、仲間を救い出すことができるだろうか。これにはいつも疑問が伴う。実際に自分の目の前で事故が起きたとき、すぐそばに元気な仲間がいるのに救助を手伝ってくれた経験が少ないからである。むしろ自分が遭遇した遭難は恐怖が先に立って肝心の体が動かない人を見ることの方が多く、自分ひとりで救助活動をすることの方がはるかに多かった。目の前で雪崩とともにクレバスに飲み込まれ、埋まっていく姿を見るのは衝撃的ではあるが、そういう状況に見とれているわけにはいかないし、そういう状況に飲み込まれてもならないのである。万が一のことが起きた場合は、自分自身の安全の度合いや仲間の安全の度合いを即座に判定し、遭難者がどうすれば最小限のダメージで助かるかということを瞬時に決めることができなければ、遭難者はとても助かりはしない。救助はその判断の後で行うものであることを決して忘れてはならない。

ここでは、社団法人日本山岳ガイド協会のレスキュー検定を視野に入れ、リーダーや山岳ガイドにはどういったレスキュー技術が必要なのか考慮し、リーダーや山岳ガイドが身につけていなければならないレスキュー技術を網羅する。中には使用法を間違えれば危険を伴う技術もあり、失敗すればリーダーや山岳ガイド自身の身が危うくなる技術もある。ここに掲げたレスキュー技術の利用・実践は十分な訓練を重ねた上で行わなければならないことは言うまでもない。

 

レスキュー技術を身につけるために学ばねばならない内容はこんなことか。

@危険を見抜く目
リーダーや山岳ガイドには危険を見抜く目が必要である。季節や条件に応じて発生する登山や登攀に内在する危険を見抜くことができなければ、パーティーやクライアントの安全など確保できるわけがない。それができなければリーダーや山岳ガイドとは名ばかりで、初心者やクライアントと何ら変わらない。
A結びと繋ぎ――その利用方法も含めて

似通った結び方は一まとめにして一緒に覚えてしまうのがいい。結び方で数えていけばけっこうな数がある。歩行系、岩稜系、登攀系と困難度が進むにつれてリーダーや山岳ガイドが身につけていなければならない結びや繋ぎは増えていく。それだけ危険な地域に出ていこうとしているのだから当たり前の話である。しかし、ロープを使うからにはロープの正しい利用法とロープを使うことによって生じる危険に対処する方法を知らなければ話にならいことは肝に銘じておくべきである。
Bレスキューに必要な小物・使える小物
レスキューに必要な小物や利用できる小物とその使用方法。登山では大物は持ち歩かない。そんなことをするくらいなら荷物を軽くして素早い行動を心がけるべきであろう。登山や登攀時のレスキューは身の回りにあるものでできなければ何もならないことは言うまでもない。
Cロープの知識
命を託すロープ類に関する知識を身につけておく。自分自身がリーダーや山岳ガイドなのだから自分が使う道具、それも自分やクライアントの身を守るいちばんの道具であるロープについて知っておく必要がある。
Dアンカーの知識

レスキューを開始するには強固なアンカーの設置が必要になる。アンカーがよくなければ自分自身も窮地に陥ってしまい、レスキューをするどころの話ではなくなってしまう。二重遭難は絶対に起こしてはならない。事故が発生した場所によって構築する支点は変わる。状況に応じたアンカーの設置とその利用法を考えてみることが必要だ。
Eセルフレスキュー・ちょっとした重要な技術
まずは自分自身が自由に動けるようにしなければ何もできないし、始まらない。自分が窮地から脱するにはどうしたらいいのか考えることが先決だ。
Fロープの登降

効率がいいレスキューをするには周りの様子を探って最もいい方法を考えることが必要である。闇雲に行動を始めたのでは時間がかかってしまう。瞬時も無駄にできないのだから現場を一目見て最善の方法を考えられなくてはならない。
G引き上げ技術
事故者を引き上げたり吊り上げたりした方がいい場合に使うさまざまな方法。
H吊り下げ技術
事故者を吊り下げたり、担ぎ下ろしたりする方がいい場合に使うさまざまな方法。
I応急処置
けがはありませんか。けがをしている場合にはまずは救出にかかる前に応急処置を施さねばならない。
J搬送技術

事故者を救出したら、今度は事故者を運び出すことを考えなければならない。 現場からどうやって運びだすか。人間一人といってもかなり重い。搬出はそう楽なものではないことを肝に銘じておくべきだろう。
K救助要請

自力で何とかならないときや大怪我をしている場合には救助を要請する必要がある。どの段階で救助要請をするかは事故の種類にもよる。救助要請が必要かどうかは事故者本人にも確認をしておくべきだろう。特に第三者を救助するときには必要なことである。

レスキューは万が一のときのための技術で、使わないに越したことはない。もちろんレスキューを学んだところで事故が減るわけではない。事故は起こしてはならない。登山や登攀では何にも増してそこがいちばん重要なポイントである 。

自己紹介(木本哲登山および登攀歴)
木本哲プロフィール(「白夜の大岩壁・オルカ初登頂」のページから)
僕のビッグ・ウォール・クライミング小史
Satoshi Kimoto's World(木本哲の登攀と登山の世界)
しぶとい山ヤになるために=山岳雑誌「岳人」に好評連載中

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