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雑感・冬 11
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寒い朝だ。ようやく暖かい空気と入れ替わったようだ。このところの暖かさは湯河原幕岩の梅林に春をもたらしている。紅梅のみか白梅も咲き始めているのだ。梅祭りが始まる前にだいぶ花が咲いてしまいそうだ。今年は寒気がなかなか下がらず異様に暖かい日が続いたから、関東近辺では花が咲くのが早いような気がする。梅ばかりか露地に菜の花が咲いていたところもあったくらいだ。そんな勢いだから昨年と違って梅が咲くのも早い。梅が咲く前から梅祭りをやって不評を買った梅祭り関係者は今年は戦線恐々としていることだろう。今年の湯河原の梅祭りは2月11日からだそうだ。
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湯河原の岩登りは「てんとうむしエリア」が使えなくなっているので茅ヶ崎ロックは混みこみらしい。実際、見上げると人がたくさん見える。トップロープを張りやすいエリアはどこもかしこも混むのが普通だ。湯河原幕岩はワンポイントのルートが多く面白みに欠けるルートが多い。それを考えると湯河原幕岩はやはり昔からある正面壁がいい。長いし、ポイントもいくつかあって面白い。昨日はぜんぜん登ったことがないルートばかり登った。ルート図を見てもどのルートを登ろうとしているのかさっぱり見当がつかなくてよくわからなかった。だけど、そんなことは目の前のルートを登らない理由にはならない。ルートを見て、グレードの見当をつけて登ってみればいいのだ。もともとクライミングというのはそういうものだ。今日はグレードもルート名も分からないルートを登ったからよけいに面白いフリークライミングができた。登ったルートは5.9から510+くらい。みんなオンサイト。風が抜けるところを避けて登ったのですごく暖かな一日だった。だけど半袖で登れるほど暖かくはない。冬がまだ居座っているようなので、実のところ何だかほっとした。木本さんの登り方を見ても真似できないからぜんぜん参考にならないというせいか、クライアントも十分すぎるほどロッククライミングを楽しめたようだ。でも、その方がクライミングそのものもうまくなるよ。基本的に岩登りは自分で考えて登らなければ一向にうまくはならないのだから。でもムーブは見せているし、ホールドもみな教えてはいるんだけどなあ。僕のは天然ムーブで、オンサイト・トライならこうして登るのがいちばん登りやすい登り方なんだけどな。それでももはや5.10b程度ならレッドポインでリードして登れるようになってきたじゃないか、と僕は思っていたのだった。そんな僕も、グリーンランド出発直前に痛めた膝がだいぶ回復してきたし、骨折と筋をかばっていたがためについたよけいな筋肉がなくなってきたので、だんだんイメージ通りに登れるようになってきた。力を入れても足が震えなくなってきたし、昨年11月から変化を見せ始めた登り方が怪我をする前のようになってきたと実感する。怪我からの回復にこんなにも長い時間がかかることを考えると、傷は相当深かったのだろうと思う。膝の傷より二箇所の骨折の方が気になっていたからそれほどひどい怪我だとは思ってもいなかったのだが、グリーンランドの登攀が難しいものでなくてちょうどよかったのだろうな、と今は思う。毎日痛み止めの薬を飲んで登攀していたのが嘘のようだ。どうしても行かねばならなかったからだいぶ無理をして体に大きな負担をかけたから 、回復によけい手間取る。
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環境省は尾瀬国立公園の特別保護地区でシカを捕獲することを許可する方針を打ち出した。シカが増えすぎ、尾瀬の環境資源の草花の傷みがひどく、観光にも影響が出始めているからだそうだが、何かちょっと違うのではないか。観光への影響ではなく生態系への影響でなくてはならないだろう。尾瀬地域には1995年ころからシカが現れ始め、2000年には90頭だったものが、今では300頭に増えているらしい。シカが増えて生態系が壊滅的な状況になりつつある日光では、シカの食害による草原の植物遷移によってほぼ絶滅したチョウもいる。そうならないうちに手立てを講じるのは急務だろう。奥秩父ではかつては林業。そして今ではシカの食害にによってだいぶ生態系が壊されたことだろう。シカの食害によって生物の多様性が失われるのはもったいないことだ。ブラックバスやブルーギルは川や湖の生態系を乱す外来魚、害をもたらす魚類として駆除されているが、天敵がいないばかりに増えすぎた動物も横暴をふるう外来魚と同じように生態系に過剰な負荷をかけている。
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ちょっと硬い氷を登りに行かなくてはならないようだからアイスアックスのピックを研いだ。こんなことをするのは久しぶりだ。一気に研いでしまうと微妙な感覚との乖離が大きいかもしれないから適当なところでやめておいた。金物を研ぐと思わず歯を食いしばってしまうが、今日は金物のいやな音は一度も出なかった。先日、氷壁を登っていくと出口には氷がなかった。浮いている氷を登って出口まで登っていたのだが、さすがにその先に進むのは止めにした。ソロか同じ立場の人間が相手ならそのままドライツーリングで登ってしまうが、そうでない人にビレイをされているとそんなわけにも行かない。万が一落ちたら相手に与える影響も大きいからなあ。無鉄砲と小心――。登山には常にこの二つが必要だ。
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1月連休は天気が悪かったからウインターミーティングは昨年ほど成果は残せなかったようだが、登った本人による海外登山の報告は刺激を受けるものがあったろう。現役が一同に集うのはいいことだ。昔の山学同志会にはウインターミーティングと同じような雰囲気があった。誰か彼か毎年海外登山に出かけていたから、海外登山そのものが身近だった。そんな経験を積んでいる人と一緒にクライミングをするのだから自分自身が描く夢も現実的な夢である。自分自身の実践と他人の行動や成果を作り出した実体とを比べることによって自分たちはどこを登りにいけるだろうと考えることができるし、また、次はどこに登りに行こうという気持ちと機運が持ち上がってくるものだ。お互いにいい影響を及ぼすのはとても好ましい状況だ。年賀状に「歳なんだからそろそろ無理はしないように」という文字が踊っていた。昔から行きたいところにしか行っていないから僕自身はそれほど無理はしていない。骨折や筋挫傷を押して登ったグリーンランドの登攀は確かに無理をしたかもしれない。無理をしなければ登れなかったという悲しい現実がある。でも、無理をしたのは歳相応の厳しくも楽しいクライミングがしたいという意気込みのせいだ。いくら歳を取ったといってもグリーンランドくらいのクライミングならこの先もできるとは思うけど、もっと突っ立っている岩壁を登りたいと思ってしまう自分が今もなおいることは自分自身励みになる。昔から変わらず、年賀状をくれた皆さんにはこの場を借りてお礼を申し上げます。それとともにまたどこかで遭える日を楽しみにしています、と大声で伝えたい気持ちです。
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